第3話 高校時代のわたしたち 👧
ええ、そうなの、徹郎さんとヨウコさん、わたしの三人は高校の同学年だったの。
なんとなく話すようになったのは、文学好きという共通点があったからかしらね。
なかでも徹郎さんは同人誌を発行していてね、地元の商店をまわって広告を取り、それで印刷費用を賄っていたんだから、相当なやり手だったわね、高校生としては。
それに比べ、わたしたちは物怖じするタイプでね、むかしの男子校の片隅に置いてもらっている稀少な女子として、なるべく目立たないようにしていたのよね。(笑)
旧制中学が前身の高校にありがちなマドンナと呼ばれる女子もいるにはいたけど、大方の女子は地味で生真面目、将来は堅い仕事に……というタイプが多かったわね。
📚
ヨウコさんがどんな経緯で徹郎さんと親しくなったのか知らないけど、先生たちは授業を脱け出して同人誌活動をするような徹郎さんの影響を心配したんでしょうね。
理系は不得手だったけど、英語と国語は期末試験のたび学年のトップ十位に入っていたヨウコさんの成績が急に下がったとき、担任の教師が家庭訪問したらしいわよ。
でも、それはかえって逆効果で、強引な徹郎さんにリードされる一方だったヨウコさんは、学校にも家庭にも居場所がなくなり、どんどん追い詰められてしまったの。
ええっと……息子さんたちの前ではちょっとアレだけど(笑)とくに好きだとか、そういうわけではなかったと思うわよ。いわば成り行きでそうなったというだけで。
人間は早い時期にどういう人と出会うかで人生が決まると言われるけど、そういう意味ではヨウコさん、いたずら好きな運命に魅入られてしまったんでしょうね。('_')
💼
わたし? いたって晩生で、通学カバンを提げて学校と家を往復するだけだった。
ふふふふ、恋心を抱きたくなるような男子も見当たらなかったしね。(´艸`*)
もっともその晩生が大人になってから裏目に出てしまい、父親ほど年上の男性と、両親ものけぞる派手な恋愛沙汰を繰り広げたんだから、人生、分からないものよね。
針の筵だった高校を卒業し、唯一の頼りの徹郎さんを追って上京したヨウコさんは不慣れな都会でさまざまな辛酸を舐めた末に帰郷し、夫婦で☆◇会社を創業したの。
そして、あなたたちを育てながら働いたあげくに巨額の負債付きの会社を押しつけられてしまった……。あら、ごめんなさい、あなたたちには酷な言い方だったわね。
🐑🦥🦛🐖🥗🧀🌮🍰
わたしが元同学年生に、高校卒業後はじめての手紙を差し上げる気になったのは、地元紙でヨウコさんがスキャンダラスな話題になった直後だったと記憶しているわ。
個性的な徹郎さんのかげに隠れていたけど、もともと素養があったんでしょうね、そのころにはエッセイ集や絵本を出版されていて、わたしはひそかなファンだった。
それに個人のプライバシーまで暴くような地元紙の記事に許しがたい義憤を感じていたので、思いきって「わたしのこと覚えていらっしゃる?」とお手紙を出したの。
そしたら打てば響くタイミングでお返事をいただいて、親密な文通が始まったの。
文学、政治、経済、戦争、福祉など何でも率直な意見を書き合って楽しかったわ。
そのなかで、ふたりの息子さんたちのことも、折りに触れて聞かせてもらったの。
ええ、わたしの娘たちのことも書いたわよ、顔を合わせない分だけむしろ率直に。
🖊️
卒業後、一度も会わなかった理由? 住まいの距離や時間的な制約もあったけど、文通だけで十分に満たされていたからというのが本当のところだったんじゃない?
ええ、間違いなく一番の親友と呼んで差し支えない間柄だったと思っているわよ。
高校卒業以来、数十年ぶりで無二のペンフレンドになった、わたしとヨウコさん。
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