それでも人生パラダイス 🌺🐬
上月くるを
第1話 ヨウコさんのひとり言 🤷♀️
ひとまわりも年下の心療内科医から、取り返しようのない過去をクヨクヨ考えず、現在のいまこのときをいかに楽しく過ごすかが大事ですよと、言われつづけている。
渦中にあったときはそれで精いっぱいだったのですから、自分を責めるのはやめて後半生を前向きに生きるのがヨウコさん自身&周囲の人たちの幸せなんですよ、と。
そうはいっても、心身に深く刻印されたアレやらコレやらをなかったことにはできそうもないので、いっそのこと、イヤだったことの上澄みをここに記しておきたい。
🏥
次男を妊娠中、ひどい悪阻で一日中嘔吐していたらウザイとお腹を蹴られたこと。
返事が気に入らないと殴られ、左耳がほとんど聴こえなくなって現在に至ること。
別居中の夫が旅先で大酒を食らったうえ熱い温泉に入って緊急手術を受けたこと。
遠隔地の病院の付き添いをやさしく温和な性格の大学生の次男に頼りきったこと。
その次男がICU患者の付き添い待機室の牢名主然とした老人にいじめられたこと。
就職氷河期真っ最中だった長男に「みんなでロボットになろう」と言わせたこと。
来月の資金繰りに奔走しながら、片道百キロの凍った高速道路を毎日通ったこと。
いままでの仕打ちがよみがえり、人工呼吸器を外してやりたいと一瞬思ったこと。
📜
なのに、快癒した夫からファミレスに呼び出され、離婚届を突きつけられたこと。
巨額の負債を妻に押しつけた夫が多額の退職金を元手に同業他社を起こしたこと。
自己破産して楽になってもよかったんだけど、地元の銀行や取引先に多大な迷惑をおかけするし、子どもたちの故郷を大事にしたかったからすべてを引き受けたこと。
飲み仲間の地方紙記者が「病夫を追い出した悪妻」といわんばかりの記事を書いたおかげで、いっとき地域のどこへ行っても視線やことばの
のち、その新聞記者に「なぜ父親に息子たちを会わせないのか」と詰問されこと。
いつわたしが?……こうして創作されるんだよね、田舎の都市伝説。(/・ω・)/
自分はさっさと同棲し、息子たちに「かあさんはまだひとりか?」と訊いたこと。
どの口がそれを? こちらは恋だのなんだの浮かれていられる状況じゃないのに。
経済的な迷惑を懸念した母と姉が、なんの相談もなく義兄を母の養子にしたこと。
両親に似ておしゃべりな姪っこから、叔母の生き方をセッキョウされたこと。💦
🐑🦥🦛🐖🥗🧀🌮🍰
イヤなことが団子に連なっていた当時を思えば、それ以降の十数年など楽なもの。
震度6強の直下型地震を一度経験してしまえば、多少の揺れには慌てないように。
負債を完済して事業を畳んでから、ようやく心を病む余裕ができたらしい。(笑)
パニック障害を発症したが、医師の指導のおかげで小康を得て現在に至っている。
だが、自分と対峙すれば自然に煩悩具足に思い至り、やはり平静ではいられない。
自分という存在がどれほど周囲、とりわけ子どもたちを傷つけて来たか……。💧
いますぐ消えてなくなりたいくらいだが、不自然な事象はさらなる負担を強いる。
もう十分に役目を全うしたと見なされるまで、つとめて朗らかに生きてゆかねば。
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