ともだちのいもうと が あらわれた! あなた は はいしんちゅう だ!

昨日までROM専だったひと

第一話

「どうも皆さんこんばんはー。いかがお過ごしでしょうかー月曜日の夜ですけれどもー。」


ゆったりと、のんびり間延びした声音で配信に声をのせる。

友人やマネージャーさん曰く、俺の声は聞いてると落ち着くらしい。

だから、リラックスした、安心感のある喋り口が良いんじゃないかと、マネージャーさんと話し合って決めた……のだが、ぶっちゃけあんまり効果を感じられていない。

あと素を出せないからちょっとつらい。


「いやー、今日は、前々から告知してたゲームの配信する、って言ってたじゃないですかー。」


「事前にアプデするの、忘れちゃった☆」


「なのでー、今日は。」


ここで意味もなく声音を低く変えてみる。


「質問、疑問、奇人、変人、この時期湧き始める変態をさばくよ。」


『なにいってんだこいつ』

『???』

『最後の三つはなんだよ』

『お前だよ』

『俺か…』

『裁くのか捌くのか』


おー、コメントあったまってきたあったまってきた。


「あぁ、自己紹介忘れてましたね。改めましてー、皆さんこんばんはー。四六時夢中しろくじむちゅう所属の新人VTuber、白面夜夢しろもよむがお送りしていますー。」



死に装束かキトンのように見える衣装に身を包んだ、色白通り越して不健康な青白い顔色をしているのが俺、平田慧ひらたけいのアバターになっている。透過率高くてアバターの奥の表示まで見えちゃうんだけどね。幽霊だからね、当たり前よ。


「今日はー、まったりゆっくり雑談しつつー、リスナーの皆さまからいただいた質問に答えさせていただこうと思いますー。まぁ、たった今決まったことですけどねー。普段から質問箱開いといて良かったよ。」


「デビュー三ヶ月のペーペーに、こんなに質問頂いちゃって、嬉しい限りですよほんとにー。

…一部変なのもあるんですけどね。奇人変人以下略ってのはそういうのです。」


「じゃあまずはー、この質問かr「よーう!あっそびに来ったよー!!」


…………ん?

待て、待て待て待て。

このとき、お金も無いし、また追々考えればいいだろう、と軽く考えていた三ヶ月前の自分の判断をひどく後悔した。防音室も何もないワンルームに実家から引っ越して、今日まで支障なく活動できてしまっていたから、少し油断もあったのだと思う。


「あ゛?」


地の底から響くような声が出た。

やっば、配信にこの声乗っちゃった。

……待て、どうして奴が入ってきた。鍵はちゃんとかけたはず。


「ちょっ、ちょっとまっ、まってまって待て待て待て」


いかん、焦って機材がうまく操作出来ない。

何とかミュートにして、個人情報の流出だけは回避する。

そうこうしてるうちに荷物を放り投げながらずかずかと入り込んでくる女。


「えっとね、近くに用事で来て、」


「待っって!」


あ、やべ。結構デカめの声が出た。

平日の夜……に大声は良くないな?

本当にごめんなさい未だ見ぬお隣さん…!


「せっかくだから顔見せてこうと思って!」


「待って。」


「今日はもう予定ないからさ。」


「待てと、」


「ちょっとここで休憩「言っとるやろがぁ!」


ちょうど手元にあったクッションを我が家に入り込んだ賊に放り投げる。


「うわぁ!なにすんの?!」


「こっちの台詞じゃあ!」


叫んだら落ち着いた。ヒートアップしすぎたな、いかんいかん。


「待て。まず玄関の鍵をどう開けた?」


「? 普通に鍵でだよ?おにいが貸してくれた。」


「オニイガカシテクレタ?」


理解できぬ。あいつ家族とはいえなんの相談もなく俺んちの鍵渡したの?

あとであいつを問い詰めようそうしよう。


「来るなら連絡ぐらいしてくれ……」


「……したよ?」


と、言いつつ俺の目の前で携帯を操作する。画面を確認して目を見開き、口をもにょもにょさせて恐る恐るといった様子でこちらに向き直る。

こやつ、まさか。

俺の予感を裏付けるように、少しして、俺のスマホにメッセージの通知が。



【けいくんち行くね☆】



「たった今俺の目の前でなぁ?!」


首だけをぐりん、と賊に向けてねめつける。


「送れてなかったみたいごめんっ! とっ、ところでさぁ!」


「あ゛?」


「ひぃ!」


「ぱ、パソコン動いてるけど何してたの?」


ごまかすべきか…?いや、でもこいつら兄妹日常的にうちに居座るし、言っといたほうがいいか?


「あ?あー、俺今配信とかやってんのよ。」


「んで、今配信中。」


まあ、こいつなら他言はしないだろうから言っても大丈夫だろう…多分。


「へぇー、え?!!じ、じゃあ今私の声全世界に流されてるってこと?」


瞬歩もかくやといった速さでパソコンに近付いて画面を覗き込む。

うわ顔近い距離感おかしくない?


「んにゃ、お前が来たタイミングでミュートしたから大丈夫なはず。ところで今日友樹は?」


話題と興味をそらしたい。

質問しつつ椅子ごと体でパソコンを隠すように滑り込む。


「おにいは今日は仕事なのでいませーん」


言いつつ、すり抜けてパソコンの前に張り付かれた。

ブロック失敗。


「うわ、登録者5万いるじゃん!!」


「え?すご……ん?」


不自然に言葉が途切れた。

……まさか、いやまさかそんな。

いや、ないよね?ミュート忘れとか、ないよね?

なんか猛烈に嫌な予感するけど、この猪突猛進勢い任せの暴走機関車女(過言)が間違えてミュート解除しちゃったから黙ったとか、そういう笑えるやつだよね?


「………どした?」


「…な、なんか……すんごい速さで、コメントが…動いてる……?」


『気付いた』

『イェーイよむ君みってるー?』

『ともきって誰?』

『はい炎上不可避』

『ミュートできてないよ 』

『女さんちっすちっす』

『女の子に暴力いくない』


「……、ふ、」


絞り出すような声しか出ない。


「あ、あのー…えーっと……」


ばつの悪そうにぎこちない動きで俺のほうに振り返る賊。

あー、マネさんに怒られるー。


「…ふふ、ふははは……ははははは………」


あーもうわらいしかでねえわー。


「あはは……」


なにわろてんねんお前。


「はあー……う゛そ゛だーーッ!!」


椅子から滑り落ち、床に膝をついて、勢いそのままに崩れ落ちる。やべ、ちょっとバランス崩した。片方だけだとやっぱキツイな。

…まだ冗談言えるだけ余裕あるな。これから地獄だろうけど。


「ひっ!」


うん、突然奇声をあげて驚かせてごめんね。

でもこんぐらいしないとやってらんないんだ。

未だ衰えることのない勢いのコメントの中の一つに目が留まった。


『正体現したね。』


うるせえよ

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