お気に入りの空

月井 忠

第1話

 今日の「空」はどんな色だろう。


 画面に映るスペクトルを端から端までざっと見る。


 残念ながら、というか、いつも通り「空」はなかった。


 ちなみに、スペクトルとは電磁波を分光器に通して波長ごとに分解したものを言う。

 もちろん、わざと難しく解説させてもらった。


 簡単に言うと太陽の光をプリズムに通すことで出てくる七色の光のことだ。

 光を分解すると言っても良い。


 そして、今私が見ているのは天の川銀河に存在する、とある惑星の「空」のスペクトルだ。


 これも説明したほうが良いだろう。

 地球を使って説明した方がわかりやすい。


 今、太陽、地球、月と一直線に並んでいるとする。

 我々は月から観測をするとしよう。


 月から見ると太陽と地球が重なって日食のような感じになっている。

 この時、太陽の光は地球の大気を通過することになる。


 この日食の光を月で調べると、地球の「空」の状態を知ることができるのだ。

 どんな分子が存在するかもわかる。


 今、私が画面で見ているスペクトルは、遥か遠い恒星から放たれたものだ。

 この恒星に惑星があることはすでに判明しており、ちょうど恒星の前を惑星が横切っていることもわかっている。


 つまり、遥か遠くにある惑星の「空」を通過してきた光ということだ。


 しかし残念ながら、この惑星には大気が存在しないようだ。


 もっとも悲しがる暇はない。

 何しろ調べなくてはいけない惑星は、それこそ星の数ほどある。


 私が、いや、全人類が求めてやまない「空」は未だ見つかっていない。

 しかし、いずれ見つかるだろうと考えられている。


 全ての人が望む「空」は、生命の存在が示唆される「空」だ。


 生物が存在することで大気の組成も変わる。

 植物が二酸化炭素を吸収して酸素を放出するように痕跡が残る。


 何の変哲もない惑星とは、明らかに違う痕跡だ。


 我々は地球の「空」と似たような「空」を探している。


 見つかれば、人類史に残る発見だ。


 我々は宇宙で一人ぼっちではない。


 その証拠なのだから。


 今日も私はお気に入りの「空」を探しにいく。

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