サブヒロインる〜とっ!? 〜せっかく転移したんだからサブヒロインを攻略してみた!〜
セントホワイト
第1話:ギャルゲー世界に転移したようです。
世界とは主観的なものである。
そして恋愛ゲームとは主観的な世界を客観的に楽しむための娯楽でしかないものだ。
「だぁああ! どうしてもCGコンプしないんだが!?」
だが、そうと分かっていても部屋を占領する攻略済みの百を優に超える恋愛ゲームの山の中で一本のゲームに悪戦苦闘していた。
「何周しても選択肢が見つからないぞ!? バグか!? 久々のバグゲーか!?」
コントローラーを片手にテレビ画面に流れるのは見飽きてしまったエンドロール。
攻略可能の三人のヒロインたちを五周し、選択肢が増えていないか。もしくは好感度調整など試して見たが最後のCGが回収できないで苦しんでいた。
「どうやったら最後のCGが手に入るんだよ? 俺の勘だと絶対にあのサブヒロインの娘のCGなのにっ!」
ネットの攻略サイトを調べても、書いてあるのはバグゲーの一言だ。
発売から一週間もしないうちにCGのフルコンプが不可能という
シナリオは王道的なキャラの三人だが、それぞれが昔話を題材にされたヒロインたちだった。
乙姫の義妹。かぐや姫の幼馴染。鶴の先輩など昔話では良い終わり方をしなかった彼女たちとのハッピーエンドを迎えたのは普通に面白かった。
だが、この作品の評価を非常に下げる要因はパッケージ詐欺とも思えるほどに、攻略不可能の可愛い女の子がサイトもパッケージにも大きく描かれているからだろう。
「レビューにも攻略サイトにも書かれていやがる。やっぱCGすら無いのか? ホントにただのバグゲーなのか……?」
すでに時間は深夜二時をとうに過ぎており、明日も社会人の務めが待ち構えている。しかしそうと解っていても欲望に突き動かされてPCとゲーム画面の往復は止まらなかった。
「そもそもこのサブヒロインとの接点が明らかに少なすぎるんだよなぁ……ヒロインのルートに入ったら絶対に出てこないし」
サブヒロインである銀髪少女は説明書や公式サイト、パッケージの表紙に至るまで愁いを秘めた神秘的な感じのする女の子だ。
最初にCMやSNSなどで見た時はネットニュースや雑誌は当然ながら、公式サイトで追加情報が更新される度に発売日を楽しみに待ち望んでいた。
しかし、蓋を開けてみれば彼女は攻略対象外。いわゆるサブヒロインだったのだ。
SNSは荒れに荒れ、加えてこのCGがフルコンプにすることが出来ないというバグがある。
「これは荒れる。荒れないほうがおかしいだろ。何考えてんだよ、制作会社め」
三日でこの境地に至った猛者が制作会社に質問を投げたようだが、制作会社からの回答にはバグはありませんという一言だけの回答だったらしい。
しかしその猛者ものちに四日間かけて何周もヒロインを攻略し続けたがCGが埋まることはなかった。
そして酷評のレビューが吹き荒れるという惨状が生まれている。
それでも諦められない自分のような変態は完全に自分の欲望しか見えていないのだと充分に解っている。
それでも制作会社の回答だけを信じて、色々と試行錯誤を繰り返してみたが全く見当もつかない状況だった。
「打つ手がねぇよ……クラック好きなネット民も何の情報も出さないし」
不思議な話でこういう状況になるとネットの一部の者たちが、ソフトをクラッキングして情報などを抜き出すものだが何一つとして情報が出てこない。
噂話のひとつくらいは出てもおかしくないのに何も出てこないのだ。
「どうしたらいいんだよぉ」
何故だか異常に情けないと思えて、ただエンドロールが終わるのを待っている。
何度もスキップしたエンドロールも、それすら今はする気が起きない。
深夜もすでに丑三つ時へと入ろうとしている頃なのだから、もはや身体の睡眠への欲求も限界値を迎えようとしている。
瞼が重く、黒い背景に白い制作陣の名前が下から上へと流れていくのぼうっと眺めていると、まるで瞼に重りでも乗っけられているのかと思うほど重たくなってくる。
目を開けていられない。脳も完全に思考を放棄して安眠を貪ろうとしてくる。
帰って来てから風呂にも入らず夢中でやっていたゲームも、睡魔には打ち勝てそうにはないらしい。
「あぁ……もう……あし、ただ……」
座っていた椅子に深々と座り、背もたれに体重を預けるだけで眠りの底へと落ちていく。
暗い底へと引き摺り込むように。二度と起きないようにと誘い込まれるように。自分の部屋の中にエンディング曲だけが流れ……そしてゲームはタイトル画面へと変わる。
桜が舞い散る暖かな春のようなタイトル画面。見慣れたはずのタイトル画面にノイズが奔っていく。
もはや意識を手放した自分には分からなかったが、時間の経過と共にタイトル画面が壊れていく。世界が歪んでいく。現実が幻想とごちゃ混ぜとなって曖昧になっていく。
赤黒く染まったタイトル画面には始めるか止めるかの二択しか表示されていない。
そして手に持ったままのコントローラーにて、ボタンを押してしまうのだった。
―――――――――
来る縺ッ 繝シ縺ョ逧なクルナ来るナクるな繝。繝シ繝ォくるな
辞め®ãƒ¡ãƒ¼ろやめろ止®ãƒ¡ãƒ¼ãƒめろヤ®ãƒ¡ƒめロやメろ
―――――――――
そんな奇妙で、しかしどこかで聞き覚えのある少女の声を夢の中で聞いた気がした。
深い深い海の底を揺蕩うように、ゆらりゆらりと重さすら消えた場所にいる気がした。
その中を目が眩むほど眩しい光が差し込み、さらには遠くから誰かが呼ぶ声がする。
頭はまるで纏まらず、思考を司る脳が頭から垂れ流されたのかと思うほど考えるということをしてくれない。
だから聞き取れない声がするほうへと泳ぎ出す。見っともなくただ掻くだけの動作だが声のするほうへ。光のほうへ泳いでいった。
「―――ちゃん! お―――いちゃ―――! お兄ちゃんってば! もう起きてよ、お兄ちゃんっ!」
光りの中から響く声によって、目を開けると見慣れない天井と見たことのないほど可愛らしい少女がベッドで眠る俺の顔を覗き込んでいた。
朝日に照らされた白い肌。くりっとした丸く大きな瞳。茶色いセミロングの髪がふわりと窓から入った風によって糸のように舞った。
「おと、は……?」
「それ以外の何に乙葉が見えるのかな、お兄ちゃん?」
ニッコリと笑みを向ける少女、義理の妹である
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