第二話 試験結果
期末試験の日がやってきた。ここ一週間は光輝ですらこれでもかというくらい教科書やノートを見返したり、問題集を繰り返して解いたりしていた。
そしてありがたいことに、いつもなら「塾で訊きなさい」とそっけなかった光砂が、家でわからないところは教えてくれていた。
家を出ると、今朝は一段と冷え込んでいた。
「いよいよ、だな。今日は英語が一発目だ」
「望むところだ」
英莉香は白い息を吐きながら自信ありげに言った。
「それにしても寒いわ。早く行きましょう」
光砂はそう言うと英莉香の手を握って歩き始めた――きっと男たちからすると羨ましい構図なんだろうな、と光輝は他人事ながらそう思ってしまった。
「そんなに寒いかよ」
「光砂は寒がりだからな。光輝も手つなぐか?」
英莉香がもう片方の手を光輝に差し出した。
「どうぞそのまま妹の手を温めてやってくれ」
「光輝は恥ずかしがり屋だな。仕方ない光砂、私たちはラブラブ登校しようか」
「そうよ。私とターニャはラブラブなんだから」
光砂はぎゅうと英莉香を抱きしめた。
「わかったから早く行こうな。期末なんだぞ、今日は」
光輝は英語の試験のことで頭がいっぱいだった。今回の試験勉強もなんだかんだで英語に配分を大きく割いていた。ここは何としてでも『3』にしておきたい。
◇ ◇ ◇
「はあ……」
試験が終わると光輝は机の上に突っ伏した。
「英語は気合入れていたんじゃないの?」
後ろから恵が言った。
「いや……まあそうなんだけどさ。なんだか確信がなくて。まずったかなあ……」
「まあでもちょっと難しいところあったと思うよ」
「お前がそう言うんならちょっと安心した」
「そういえば光砂はターニャと同じ学校も受験するのね」
「え? マジ?」
「マジ? ってあなた知らないの?」
「いや、まあ。詳しい部分はあまり」
「紹蓮女子も受けるって言っていたけれど、二つくらいターニャと重なるって言っていたわ。ターニャは英語をのぞけば成績いいしね」
「……選択肢が多いって羨ましいな」
けど、英莉香の得意な理系の学校とはいえ、英語の成績は自分とあまり変わらない英莉香である。果たして光砂が受験することを検討するところなのだろうかと思った。少なくとも紹蓮女子を受験する併願校ともなればトップクラスの学校に絞られる。
(ま……実際俺はターニャの受験校も聞いていないし、上のクラスはよくわからないしな)
それに、仲の良い二人が同じ学校に通うこともむしろいいことだと思った。
「それにひきかえ俺は、選択肢が限られる」
「けど、確実に受験できる学校は増えたんでしょう?」
「まあ、な。そこから考えれば進歩か」
光輝は前向きに考えることにした。そもそも元が不登校で成績もどん底だったことを考えると、今はだいぶマシなレベルになったと言えるのだ。
◇ ◇ ◇
期末試験が終わり、最初の授業で早速結果が返ってくる。生徒はみんなドキドキしながら先生から返却される答案を待っていた。
特に光輝は今回平均点を上回れるかが勝負所だった。平均を上回れば中間の結果と合わせて『3』を取れる可能性が高くなる。
「今回の平均点は六十二点です」
英語の担当教師がそう告げた後、名前順に答案用紙が返され始めた。例によって先に返された英莉香の反応を見ると、彼女の表情がパッと明るくなっていた。
(あいつ、良かったのか。いや、平均を超えただけなのかもしれない)
光輝はますます緊張した。このままでは英莉香との勝負にも負けてしまうかもしれない。
やがて光輝が返される番になり、答案用紙を取りに行く。
「お――」
思わず光輝は声に出してしまった。
(おおおおお)
その場でガッツポーズをしそうになった。点数は七十二点で、平均点を大きく上回っていた。
(こ、これは――)
席に戻ってからも光輝は高揚した気分でずっと答案用紙を見つめていた。確かに自分の答案用紙で、七十二点だった。
(これはひょっとするとひょっとするかもしれない――)
「どうだったの?」
後ろの恵が訊いた。
「神が舞い降りた」
光輝は自信を持って答案用紙を恵に見せた。
「すごいじゃない。二十七点の間違いじゃなくて?」
「お前な……もしそうだったらこの場で発狂して泣きわめくぞ」
終わりのチャイムが鳴ると、光輝と英莉香の二人は同時に席から立ち上がった。
「なんだ、光輝も良かったみたいだな」
英莉香も英語の答案用紙を持って言った。
「先に言わせてもらうと平均はもちろん超えてるよな?」
「当然だ」
二人は同時に答案用紙を見せ合った。
「えっ――?」
なんと、英莉香の点数も七十二点だった。
「な、なんですと――」
光輝は動揺して思わず口調が変になった。
「なんだよ、光輝も私と同じ点数じゃないか」
「そうか……どうりでお前も返されたとき、嬉しそうにしていたわけだ」
「う~ん……じゃ、引き分けだな」
「そうだな――あ、いや」
光輝は何かを言いかけた。
「ん?」
「まあいいや。とりあえずさ、土曜の補習の後にでも打ちに行かないか?」
「ああ、いいな」
英莉香はにっこりとして微笑んだ。光輝も勉強を頑張ってよかったと安堵していた。
◇ ◇ ◇
――これで安泰のはずだった。
その後返された数学と理科の結果は共に平均を下回ってしまったのだ。特に理科は平均点より十点以上も下だった。
(こ、これは……まずい)
確かに英語の勉強にちょっと時間を割きすぎたかなとは思っていたが、由々しき事態だった。
(い……『1』はまずいだろさすがに。うう……)
英語で高得点を取ったという高揚感は急激にしぼんでしまった。受験はやはり一科目だけ良ければいいというものではない。
来週に最後の三者面談があり、そこで評定も伝えられる。光輝はまたも三者面談を恐れるようになった。
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