第二話 嫌いな光景
英莉香とビリヤードの店を出た後、光輝はそのままゲームセンターに行こうと思った。
「んじゃ、俺はゲーセン行くから」
「で、行かないのか? 明日」
「学校か? 行かねえよ」
光輝はそう言うと駅の方に向かって歩き始めた。
「ふむ」
英莉香は腕を組んで少し考えたかと思うと光輝に着いてきた。
「なんだよ」
「いや、何。一応光砂と約束したからな。お前を学校に連れていくって」
「行かないって言ってんだろ」
「今年で最後じゃないか。中学生活も」
「いいんだよ。俺はあの学校には行きたくないからな」
「
「……」
宮ノ下というのは光輝と同じ小学校出身で彼も数少ない友人の一人であり、宮ノ下
「だいいち、今さらなんだよ」
「今さら?」
「今さら俺が学校に行ったところで変な目で見られるだけだろうが」
「けど、行くきっかけの区切りとしては新学期でちょうどいいじゃないか」
「そう簡単に――」
光輝はハッと口をつぐんだ。その視線の先には見覚えのある元クラスメートたちがいた。自分と英莉香の方を見て何かを話している。
「……っ」
光輝は黙って踵を返し、駅の方に行ってしまった。
「ターニャ!」
英莉香が振り返るとクラスメートの女子たちがいた。
「あれ? 今のって……まさか青天目?」
「ああ、うん。ビリヤードに行っていたんだ」
英莉香は親指で後ろにある建物を指して言った。
「ええーもうやめとけばいいのに。あいつ、今日も学校に来なかったじゃん」
「だから明日から来るように説得していたんだよ」
「もういいんじゃない? 来る気ないじゃん学校なんて。それよりターニャ、一緒に付き合わない?」
「ああ、別にいいけど――」
英莉香は駅の方を振り返ったが、すでに光輝の姿は見えなくなっていた。
◇ ◇ ◇
光輝は苦虫を噛み潰したような顔でゲームの
「クソッ」
あの目――自分を見下しているようなひそひそ顔。光輝の一番嫌いな光景だった。
(あいつらきっと俺のことをクソだとか言っていたに違いない)
二年生に進級して一応学校に行ったとき、こぞってみんなあんな表情をしていた。なんだか痛々しいような物を見る目で――
結局二年生は数日間通っただけでまた不登校となってしまっていた。
(本当うぜえ……独りじゃ何もできないくせして。群れるしか能がない連中じゃねえか)
そう毒づきながらも、結局はそんなことを心の中で常に吐き出している自分が一番クソなんだ、と言葉に出さずともわかっていた。
こうして独りでゲームをしている方が、学校なんかに行って周りの顔をうかがいながら過ごすより遥かに楽、遥かに楽しい。
ゲームセンターを出たころにはもう空は暗くなっていた。光輝はまたため息をついた。家に帰れば母親の小言が始まる。まぁでも今日さえ乗り越えれば、諦めるだろう。
「……ただいま」
光輝はボソッとした声で言うとすぐに自分の部屋に戻ろうとした。が、案の定母親が出てきた。ツカツカと光輝の前までやってくる。
「あなた、今日学校行かなかったんだってね」
「……」
「もう、中三なのよ? このままダラダラ過ごしてどうするつもりなの?」
「勉強すりゃいいんだろ? 勉強を」
「学校に行きなさいと言っているの」
「やだよ、つまらねえし」
「つまらないとかそういう問題じゃないの。あなたね、このまま学校に行かずにどうするつもり? 高校に入るのにも内申書が必要なのよ?」
「あー……出席日数がどうとか」
「少しは光砂を見習いなさい」
「……ッ」
光輝は一瞬母親を睨んだかと思うと、何も言わずに二階に上がっていった。
(またこれだ。何かといえば光砂、光砂)
ギリッと歯噛みをしながら自分の部屋に戻る。そしてキューケースを脇に置くとベッドにドカッと寝ころんだ。
(本当、みんなクソばかりだ)
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