「夜啼きの森」岩井志麻子

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「 誰が泣いとるんじゃろうか。 いや、何が啼いとるんじゃろうか。」


 出典:『 夜啼きの森 』岩井志麻子 より

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 今回は岩井志麻子さんの長編「夜啼きの森」です。


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 岩井さんの作品といえば、デビュー作でもある「ぼっけえ、きょうてえ」(岡山弁で“ とても怖い ”という意味)が有名です。

 表題作を含めた中編4本、全編、岡山弁で語られています。(角川ホラー文庫)


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 そして、今回ご紹介する「夜啼きの森」も昔の岡山北部の寒村が舞台。


 この物語は実際の事件「津山三十人殺し」をベースにしています。

 犯人の都井睦雄から作者は、この作品の糸井辰男という人物を創り上げました。

 同事件をモデルにした作品といえば「八つ墓村」のイメージが強いのですが、これは映画などの、あの衝撃的なシーンゆえもあるのかもしれません。


 この作品では“ 辰男 ”の視点でなく、彼を取り巻く村人達の視点から書かれています。

 事件(大量殺戮)に至るまでの昏く粘りつくような閉塞感。

 飢えや貧困を加速させていく時代背景、鬱屈した毎日。


 閉鎖的な村の歪んだ因習が狂気を蓄積させていき、満月の夜、辰男は異形の鬼と化す。

 そして、村人からも妻や姑からも馬鹿にされている虔吉。

 彼が自分の代わりとして辰男に重ねる思いと、その最期は何とも切ない……。


 人の心の闇の深さ。

そして、闇に囚われたものの凄まじさ、何と哀しく寂寥たる荒野をいかねばならないものか。


 冒頭の「誰が泣いとるんじゃろうか。いや、何が啼いとるんじゃろうか。」という言葉。

 終章の最後の方でも語られます。


 ” 人でないもの ”に、なってしまった” あの子ら ”が啼く森。

 空には大きな満月……。


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