第二章「【実】 ある捜査の記録」

冒頭



 『紫龍園連続怪死事件』。

 確かにそれは実在した。

 だが、その事件が解決してもう四年が経過していた。

 世の中には、まだ事件には真相が隠されていると考えている輩もいるが、そんなことはどうでもいい。

 我々警備隊は、ただ上の命令に従って、その日暮らしをするだけだ。


 だがある日、妙な話題が紫龍園で飛び出した。

 それは、かつて『紫龍園連続怪死事件』と呼ばれた事件のうち、『第一の事件』の死者となった筈の少女・水澱ジェラスを名乗る人物が現れたことだ。

 我々警備隊は当然彼女の正体を掴むために捜査を開始したが、結局無駄骨だった。


 彼女は、何者でもなかった。

 そう、やはり『紫龍園連続怪死事件』はもう終わっていたのだ。

 私は一介の警備隊隊員でしかないので、正直そんな事件どうでもいい。

 だが、中にはそれをどうしても調べたがる者もいる。

 警備隊の中には、『紫龍園連続怪死事件』という呼び方を嫌う者もいる。

 あくまで公称ではなくマスコミが広めた呼び名だったが、四つの事件を同一視するということは、まだ真相が隠されていることを疑っていることと同じだと捉える者がいたのだ。

 四つの事件には何の関係性も無かった。 

 少なくとも、警備隊ではそういうことになっている。

 真相など、どうでもいい。

 警備隊にとって重要なのは、今の紫龍園の安全と平和だけ。

 それ以外は、どうだっていいのだ。



 私は、水澱ジェラスを名乗る少女と出会った。

 彼女は妖しい雰囲気を醸し出していたが、間違いなく別人だった。

 それでも彼女は、自分を水澱ジェラスだと言って聞かない。

 私にはその理由が何となくわかっていた。

 だが、彼女には言わない。

 言ったところでどうしようもない。

 だから、ここに記録を残す。

 これは全て、彼女に関する捜査の記録。

 私はただ、見た事実をそのままに記すだけだ――。

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