魔女事変

発芽めい

第1話 少年の非日常

 ドクン、ドクン、ドクン。

 心臓が痛いぐらい早く鼓動する。

 見てはいけないものを見てしまった。そう直感する。喉が焼き切れそうなくらい痛い。夜の公園を必死に走る。今までにないくらい必死に逃げる。そもそもなんで逃げている?ただクラスメイトと会って声をかけようと思っただけなのに。

 急に目の前に人が現れた。

 それは黒く美しい魔女だった。

 

〜数時間前〜放課後


「なー、颯人頼む。今日の掃除変わってくんね?」|

顔を上げると彼の右隣の野宮春樹のむらはるきが自分に頼み込んできた。

「何かあるのか?」

「家の仕事でちょっとな。時間ギリギリなんだ?」

「仕事?まー、そういうのなら仕方がないいいよ変わってあげる。」

「今度埋め合わせするわ!」


そのまま走って教室を出て行った。はそのまま教室で掃除をしようとする。そして教室には誰もいない、みんな先生が居ないことをいいことにサボったのである。彼は呆れつつ1人で片付けようとする。"ガラガラガラ"扉の開く音がした。1人の少女が教室に入ってきた。


「あら、掃除当番1人しかいないの?」

「あ、うん。みんなサボったみたい。」


少女の名前は水無月アリス。僕と同じクラスに所属する金髪美少女である。想像通り男子の人気はかなり高い。が、一部の女子からは嫌われてるらしい。


「水無月さんはどうしてここに?掃除当番じゃないでしょ。」

「押し付けられたのよ。やらないつもりだったけどあなた1人だったから。」

淡々と机と椅子を運んでいる。

「そうなんだ。ありがとう。」

「・・・・・・あなたは自分がなんでここにいるのか考えたことはある?」

「え?」

「いや、忘れて。じゃあ、掃除も終わったし帰るから。」


そう言って彼女は急足で去っていく。

1人教室に残された僕は、


「今日の夕飯どうしよ。」


などと考えながら近くのスーパーにより帰宅する。



「ただいまー。」


家に帰っても誰も居ない。母親は仕事でほとんど家に居ず、父親は僕が幼い頃に死んだ。交通事故らしい。ありきたりだ。親が稼いでいたからお金に困ったことはない。ただ家にはいつも1人。

ご飯の支度をしながら掃除の時のことを考える。


「水無月さんなんであんなこと言ったゆだ?」


少し気になっていたことを考えた。当たり前だけどあんなことは考えたこともなかった。明日あったらもう一回聞いてみるか。そんなことを考えながらご飯を食べる。



夕食後日課というほどでもない散歩に出る。夜家に誰もいない、それが嫌だったから外に出るようになった。家と違って寂しいって感じることがなかった。いつもの公園に行く。歩いて10数分。特に遊具はない草むらと木だけの公園。真ん中に誰かいる?春樹か?家の仕事じゃなかったのかよ。とか考えながら声をかけようとした。


「は?」


思わず口に出た。月の光に照らされたそれは怪物のように人にかぶりついていた。足元には数人の死体。次の瞬間、怪物が赤い瞳でこちらを並んだ。僕は全力で振り向いて走る。あれは、怪物だと理解させられた。

今までにないくらい全力で走る。人を呼ぶためとかではなく、生きるためにあの怪物から逃げる。心臓が痛いくらい鼓動する。次の瞬間足がもつれて盛大に転ぶ。 

"あー、ここで死ぬのか。"

そう思ったとき、目の前に人影が文字通り降りてきた。黒いワンピースに白い傘を持った少女が僕を追ってきた化け物を拘束し、首を落とした。そうして、ふと視界が真っ黒になって意識が途絶えた。



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