第5話 終わりだ

 くそビッチが、いや藤崎がおっしゃる通り、俺は変態だ。遂にバレてしまった。


 終りだ……。


 もう社会的地位は失墜、人生の負け組確定、二度と俺が表舞台に立つ事はないだろう。


「ちょっと、阿波! 何を死にそうな顔してるの? ってなんでフェンス際に行って、キャー、危ないから!」


 もう死のうとフェンスの柵を越えようとしていた俺を、藤崎が全力で引っ張って助けてくれた。そのまま俺は力なく虚ろな表情で座り込んだ。


 すると藤崎は少し怒った様な顔でこう言った。


「私は嬉しかったんだよ!」


 急に俺の目をしっかりと見つめ、両肩に手をのせ懸命に訴えられた。


「初めて私にきちんと欲情してくれたのが阿波なの! 変態って言い方はちょっとからかっていただけだから、そんなに深刻にならないで! 私は本当に嬉しかったんだから!」


 なんか凄く真剣に説得された。

 その後小声で藤崎様は付け加えた。


「あそこもふくらんでいたし……」


 かはっ!

 女子に勃起していたと言われる恥ずかしさ。

 俺は完全なる敗北を喫し、茫然としながらぼそぼそと語り始めた。


「―――俺は子供の頃から剣道を始め、文武両道を目指して勉強も頑張った。周囲がエロな目線で女子を語り始めても無視していた。俺は女性を、その裸を性の対象として見るなんて認めなかった。女性は美しく敬愛し大切にすべき存在だと思っていたからだ。だが、俺の理性とは別に心は違っていた。俺は変態だ。女性の着衣姿に興奮する。地味であればある程、そこに隠されたエロスを感じ取り興奮してしまう。幾ら模範的優等生と偽っても、この性癖は変らないんだ」


 俯いてた俺は藤崎の目を見つめ返した。


「なんで、俺はお前の水着姿にかつてない程興奮してしまったか、自分でもわからないんだ! すまん!」


 藤崎をくそビッチと毛嫌いするのは、彼女が俺の性癖を覆す得体の知れない存在だからだ。怖かった。着衣以外で興奮するなんて、俺はいよいよ取り返しのつかない変態に生まれ変わろうとしているのかと、怖かったんだ。


 ギュッ!


 突然、俯く俺の頭を柔らかい何かが包んだ。

 気が付けば藤崎が俺を抱きしめてくれていた。


「そんなに悩まなくていいから。阿波は変態だけどおかしくないよ。きっと、私のマイナスチャームと阿波の変態は真逆だから、私達はとても正しい男の子と女の子の関係になれてるんだと思うよ」


 そう優しく語りかける藤崎の身体は暖かくて、抱きしめてくれている手は俺の身体ではなく心を抱いていてくれるようで、その声は変態と言う性癖へのつまらない拘りを、ただ慈しみ優しく溶かしてくれるみたいだった。




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