32話

「……では、僕もそろそろ帰らせてもらうよ」

 八神さんが席を立とうとする。

「いえ、あなたにはまだ、話があります」

「え……」

 八神さんは一瞬うろたえたが、すぐに笑顔になって言った。

「何だい、話って?」

「あなたが烏丸君の実の父親ですね? 八神聖夜さん」

 ヤガミセイヤって名前なのか。

「って、ええっ⁉ 八神さんが烏丸の父親⁉」

 衝撃的事実だ。

「な、何を言っているんだい? そんなことある訳ないじゃないか」

 八神さんは否定。

「いえ、本当です。DNAが証明しています」

 セバスチャンが八神さんに、証明書のようなものを見せる。

 ていうか、いつの間にDNA鑑定なんてしてんだよ。

「……何で、分かったんだい?」

「初めてあなたを見た時に、烏丸君と似ていると思いました。……それに、いくら愛した人の子どもだからといって、他人の子にそこまでしてあげるでしょうか? 実の親子だから出来たのではないですか?」

 確かに、実の母親が育児放棄していたとはいえ、その子どもの面倒を見るなんて、しかも生まれてからずっとだなんて……。

「そうだよ、僕は凛と燐の本当の父親だよ。冷奈さんは知らないみたいだけどね」

 八神さんも認めた。

「烏丸君、あなたも薄々勘付いていたのではなくて?」

 自分の面倒をずっと見てくれた他人。

 それは、実は本当の父親だった。

 まるで、ドラマだ。

「……父さん?」

「ごめんね、凛。今まで、辛かったね」

 感動の対面。

「水を差すようで悪いのだけど、あなたの分の逃亡資金もあるんですよ、八神さん」

 空気読め、白鳥。逃亡資金の話とかすんじゃねえよ。

「そうだね、僕はあの人を支えなければいけない。君たちには歪んでると思われるだろうけどね。これも一つの愛の形だよ。……じゃあ、そろそろ行くね」

 去り際に、八神さんは言った。

「白鳥さん、これからも凛のことを宜しくお願いします」

「勿論ですよ。あなたの息子さんは、責任を持って、お預かりします」

「……じゃあね、凛」

 八神さんは晴れ晴れとした笑顔で、去っていった。


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