24話

 おれと烏丸は地下室に続く階段の前に立っていた。

 ここから落ちて、白鳥は骨折したんだよな。

 烏丸に押されて……。

 いや、烏丸に取り憑いた霊に突き落とされて……。

 一人は手術室、あとの二人は地下室。

 この状況は、前と同じなんじゃないのか。

 でも……。

「あのさ、からす……」

 そう言って、振り返ろうとした時、冷たい声がおれの声の上に覆い被さった。

「何をしてるん?」

 普段の声とは別人のような冷たい声。

 前に一度だけ、聞いたことがある。

「……薫?」

 薫が烏丸の手を握っていて……。

 いや、違う。

 薫は、おれの背中を押そうとしていた烏丸の手を止めていたのだ。

 そして、もっと驚いたのが、その時の烏丸の表情だった。

 何の感情も感じられない、虚ろな目。

 本当に、無表情であった。

「……か、烏丸?」

 一体、どうしたんだ? 

「も、もしかして、霊に取り憑かれたのか? でも、白鳥の祖母さんのお守りが……」

「そのお守り、凛のだけは偽物なんや」

「って、どういうことだよっ!? だって、烏丸が取り憑かれないようにするためのお守りだろ?」

「逆や。凛には霊に取り憑いてもらう。凛の中に居る『兄さん』ちゅう奴にな」

「な、何言ってんだよ。兄さんって……」

「わいは、美和子に言われた通りにやっただけやさかい、詳しいことは凛本人に聞け、言うとったで」

「つまり、白鳥がこうなるように仕組んだってことかよ」

 薫が無言で頷く。

 おれだと、顔に出て簡単にバレるからか……。

「……このことも知られちゃうなんてね」

 烏丸が言う、悲しそうな笑顔で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る