1月30日(月)_長いお付き合いになりそうで
「天狗ってさあ、ゼッタイ花粉症で苦しまないよね」
昼休み。
いつも通り、くるるがおかしなことを言い出した。
「桜間さんって花粉症なの?」
「ぜんぜん~。両親が揃ってくしゃみだしたからさー」
「くしゃみが動詞になってる」
「だからね、考えたの。天狗なら平気そうだなって」
「なるほど」
ぜんぜん意味が解らない。
が、解人は焦っていなかった。弁当のフタを開けてミニトマトをつまむ。口に放って噛むとぷちっと弾ける食感のあと、舌に甘酸っぱい果汁が広がる。
こういう時は落ち着いてイチから解読していくのがいいのだと知っていた。
「でもさ、桜間さん。天狗の鼻って存在感すごいじゃん。花粉症で苦しみそうな気がするけど」
「それなんだよね~。ぜったい空飛びづらいと思うの」
「あーね、……空?」
花粉症の話はどこへ行ったのか、と慌ててはいけない。
これまでの経験から解人はくるるのことを信用していた。パッと聞いた限りでは分からないことも多いけれど、よくよく聞いてみればちゃんとスジは通っているのだ。
それが彼女なりの感性や理屈というだけで。
むしろ、話が繋がっていないように思える方が解読の取っ掛かりになるまである。違和感を抱いたところをフックに彼女の言葉を理解していくのが解人の定石だった。
「天狗が空を飛びづらいって、あの鼻が邪魔だから?」
「そうそう。めっちゃ風で揺れそうじゃない? ばるんばるんって」
「あー……」
空を翔ける風圧で鼻が震えている天狗を想像する。
「……っふふ」
「でね、だからね、天狗のあの鼻って取り外せるんだろうなって」
「いやそうはならんやろ」
解人はツッコみつつ、やっとくるるの考えが見えてきたなと内心で思う。
「つまりあれだ、天狗は空気抵抗を受ける鼻を外して飛べるはずで、だから花粉症の時期はつらくない、と」
「そう! だとしたら天狗なりたいな~。風邪とかでもめっちゃ楽じゃん」
「鼻の穴は消えない気もするけどね」
「あ~たしかに~」
「それに花粉症って目が痒くなるっていうじゃん。」
「あ~そっか~」
くるるは納得したように頷いて言葉を続ける。
「じゃあ天狗には目も取れて貰わないとな~。鼻の穴も詰めてもらって~」
「こっわ。マフィアくらいしか使わなさそうなセリフ」
「マフィアで思い出した!」
「女子高生がなにかを思い出すときに絶対に使わない単語なんだよな……」
「あのさ、昨日散歩してた時にさー……──」
突如、言葉が途切れ。
「──っちゅん!」
くしゃみだ。くるるが口元を肘の内側で塞いでいる。花丸満点の反射神経だった。
腕で顔を覆ったくるると解人の目が合う。
「……カイトくん、これってさ」
解人は無言でポケットティッシュを差し出した。
春が近かった。
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