桃太郎 鬼退治 SS

和谷幸隆

鬼退治

今となってはもう昔のことだが、あるところに年老いた夫婦がいた。


夫婦は子に恵まれず初老を迎えていた。


それでも子を諦めきれず、お詣りに行ったり、子を成すと言われる物を集めたり、


子宝を授かれるよう様々なことをやった。


そんなある日、夫婦の下に商人が訪れた。


これを食べると子を授かれるとされる桃ですと、桃を勧めてきたのだ。


今までも様々なものを試したが駄目で、今回も疑っていたが藁にもすがる思いで買って食べた。


すると、何度目の正直か。ついに子どもを授かることができた。


幸いなことに、無事子どもは生まれ、夫婦は桃を食べて授かった子なので、桃太郎と名付けた。


桃太郎は健やかに、強い子に育っていた。


ある日、桃太郎は両親に告げる。


「鬼ヶ島にいる鬼のせいで、皆が困っているらしい。私が退治してきます。」


夫婦は大事な子どもが危険な目にあってほしくなかったので反対した。


だが最後には桃太郎の説得に負け認めることになった。


「お母さん。この実を入れて団子を作ってください。」


桃太郎に言われて、たくさんの団子をこしらえて出発の時に渡した。


夫婦は知らなかったが、団子に入れたのは芥子で芥子団子を作っていたのだ。


桃太郎は旅路の途中、犬助、雉尾、猿太という者達に芥子団子を与え仲間にした。


「桃太郎様、鬼ヶ島の鬼に四人で退治に行くなんて大丈夫ですかい?」


三人の心配をよそに、


「なあに、心配することは。俺に従っておけばすべてうまくいく。」


と、桃太郎は意に介さない。


ついに四人は鬼ヶ島に着いた。


集落の入り口に行くと鬼が立っていた。


村の中をのぞいてみると、自分達より30cm以上高い鬼達。


鬼の目は青かったり緑だったり、肌の色は真っ白や真っ黒、髪は金や赤などこの世のものとは思えなかった。


「も、桃太郎様こりゃいけません。あっしらじゃ無理です。」


「大丈夫だ。まずは見ていろ。」


桃太郎は笑顔で鬼に近づいた。


入り口にた鬼達は、笑顔で近づいてくる人に困惑したが、


笑顔で近づいてくるのだから敵意は無いと思って油断していた。


桃太郎は近づくと近い方の鬼に刀を突き入れ、すぐに引き抜いてもう一方の鬼を袈裟斬りにした。


「ほら見ろ。恐れることは無い。雉は門の上から矢を射かけろ。」


「犬は俺と正面から威嚇していればいい。猿は回り込んで小太刀で後ろからやれ。」


「鬼達よ!桃太郎が成敗に参った!」


桃太郎は鬼達の気を引くよう大声で叫んだ。


何があったのかと鬼が家々から出てくる。


桃太郎に気をとられている隙に、端から雉の矢が鬼に突き刺さっていく。


鬼達は不思議と桃太郎に襲ってこず逃げ惑うばかりだった。


それを正面から桃太郎や犬が。後ろから猿が次々切り捨てていく。


ついに鬼の子と、その子を庇う様に立つ鬼だけになった。


「-----------------!」


鬼は何か叫ぶと地面に平伏した。


「鬼の言葉なんて分からんよ。」


桃太郎はその鬼と鬼の子を斬った。


「鬼ヶ島の鬼はこの桃太郎が討ち果たした!」


桃太郎は宣言した。


桃太郎たちは鬼の集落から珍しい焼き物や装飾品など多くの宝を手に入れた。


「それにしても桃太郎様、鬼はなんで襲ってこなかったんでしょう?」


船に積み込みながら四人は話しをする。


「お前たちが知る必要は無い。」


積み込みで両手がふさがった三人を桃太郎は斬った。


桃太郎は宝を手に村へ戻った。


その宝のおかげで桃太郎の家はたいへん栄えた。


桃太郎は器量の良い妻を娶り子を成した。


そんなある日、桃太郎の家に僧が訪れた。


頭を丸め、ぼろを着て、目も見えないのに旅をして仏の教えを説いているらしい。


徳のある人物だと感心し、桃太郎は家に招き食事を施した。


その晩、桃太郎と妻と子が僧と食事をし話しをした。


「桃太郎様、以前鬼ヶ島の鬼を退治したと聞きました。」


「ああ、鬼たちすべて俺が成敗したのだ。」


「そうですか、鬼とはどのような者達でしたか?」


「身体は大きくて、恐ろしい目や肌の色をしていたな。」


「それで人々を襲うから、俺が立ち上がったんだ。」


「嘘です。」


「何?」


「鬼ヶ島の鬼は人を襲うことはありませんでした。」


「な、ないにをいっ、、、、」


桃太郎は徐々に体が痺れて声が出なくなっていることに気づいた。


「妻と子はあなたより小さいから薬の効きがいいらしい。」


「な、、を、、、や、、ろ、、、!」


桃太郎は何かを言おうとするが声にならない。


その眼前で僧は妻と子を刺した。血が桃太郎の方まで流れていく。


桃太郎は涙を流しながら嗚咽する。


「何を泣くのです。あの時はもっと血が流れたはずです。」


僧は桃太郎が泣くのをしばらく見えない目で見ていたがついに腹を刺した。


しばらくして桃太郎がまったく動かなくなったとき僧は言った。


「鬼はすべて討ち果たされた。」


僧は自らの腹を裂いて果てた。


こうしてこの世から鬼はいなくなったのであった。めでたしめでたし。



(完)

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