第22話
「よく聞け! 索敵班からの報告によると3箇所で大規模な魔力を感知した。3人のうち1人は近隣住民の協力のもと聖騎士団員の手によって捕獲した。ただ敵はブースト瓶を使用していることが判明した。戦闘の際は充分気を付け、被害を最小限に止めるとに集中しろ!」
星あかりに照らされた夜の訓練場に聖騎士長の声が響く。彼の目の前には多くの団員が整列していた。緊急事態の鐘が鳴ってからまだ数分しか経っていないのに、寝起きの団員たちは装備を纏い整列していた。
緊急事態ということもあり、周りの空気は普段より一層ひりついるように感じる。
「第1部隊は城周辺の警備、第2部隊は溶岩地帯の2次被害防止と残り2人の確保、第3部隊は避難誘導を! 何か異変があればすぐに通信魔法を使い知らせること! 以上!」
そう言うと団員たちは一斉にそれぞれ任せられた場所に向かった。
しばらくすると、訓練場にさっきまでの静寂が訪れる。胸がざわつく嫌な静寂が。
「あのー、あたし帰っていいですか?」
そんな静寂を少女の声が破る。近くの柱に隠れていた少女がひょっこり姿を見せて、こちらに近づいてくる。
後ろで束ねられた灰色の短めの髪。特徴的な丸眼鏡とヨレヨレになったコート。
「だめだよー。こんな夜中にこんな可愛い子を城に呼び止めるなんて……まさか聖騎士長にそんな趣味が!!」
「少しは静かにしろ、バカもの」
「あれれー、いいのかなー? 捕獲に協力した近隣住民にそんな口きいて」
「……」
「しかし、よく堂々と嘘つけるね。聖騎士団がやったのは敵を城まで運ぶ作業だけ。あたしが発見して、あたしが倒したのに。あたしがいなかったら今ごろ街が溶岩まみれになっていたのになー」
「だから感謝していると言った」
「もうね、態度がなってないんだよ。普通お礼とかくれるじゃん。あ、そうだ! 城の屋根ちょうだい! ここから見えるあれ。あっちじゃなくて、あっちの屋根」
「分かった。今回の襲撃が無事解決したら職人を呼んでやる。それで、作る場所は? お前の家か? それとも外の方か?」
「待って。まさかだけど本気で作ろうとしてる?」
「違うのか?」
「……もういいよ」
真面目な表情のまま質問してくる聖騎士長にメレアはため息をつく。
「で、他の2人はどんな魔法使ってるの?」
「これは我々聖騎士団の問題だ。部外者には話せん」
「あたしの功績忘れたとか言わないよね」
「……報告では腐食の魔法と魔物を扱う魔法だそうだ」
「ふーん。倒した後の片付けも面倒さそうだね……あ! だから第1部隊を向かわせなかったのか!」
「どういう意味だ」
「考えてること当てていい? 今回の襲撃罠だと思ってるでしょー」
「……お前は嫌なガキだな」
「でしょ?」
星に照らされた訓練場でメレアはニヤリと笑った。
今回使われている魔法は発動者を倒したとしてもそれだけでは解決しない魔法ばかりだ。
腐食で道は通れないままだし、魔物は暴れ続ける。溶岩の魔法も発動していれば、辺りは勝手に火の海になっていた。そんな厄介な魔法をなんの意図もなく同時刻に城から離れた場所で起こるなんてありえない。
考えられるのは聖騎士団を分散させ、城の警備を手薄にすることぐらいだ。
「でも、避難する人たちはここにくるんでしょ? もし紛れていた大変じゃない?」
「だからギラルたちのいる第3部隊に任せた。あいつなら空間魔法で敵を異空間に閉じ込めることができる」
「そういえばギー君そんなこと出来たね。前も馬車とか大剣とか出してたし。って考えると結構完璧な作戦だね」
「そうとも限らん」
「え?」
「第2部隊を分けすぎた。人数が1番多い隊だが3方向に分散させてしまった。溶岩の処理は心配ないが残りの敵の強さによっては――」
「あはははっ!」
淡々と語る聖騎士長の話をメレアの笑い声がさえぎる。前を見ていた聖騎士長も怪訝な目でメレアを見る。
「お、ようやく目が合ったね。どう? 恋に落ちる音はした?」
その冗談に聖騎士長はため息をつき再び前を向いた。
「もう話は終わりだ。お前の成果分は話した」
「ルクスでしょ?」
聖騎士長の顔に緊張が走る。その反応はメレアの仮説が正しいことを証明した。
「ルクスがパン屋の娘に倒された。そんな噂が街に広がっている時にこんな事件が起きた。あなたはルクスが標的にされているのではと考えた。その証拠に城から1番近く、すぐ駆け付けられる場所に第1部隊を配置した」
「それは城が狙われた時のためだ」
「なら、あたしは?」
聖騎士長の目が大きく見開かれる。
「あたしは聖騎士団じゃない。それなのに集会に立ち合わせて、その後もこの場に留まらせた。あなたもそう。集会後もこの場を離れず、だる絡みをするあたしと一緒にいる。ただ一点をずっと見つめて」
「……やっぱり、お前は嫌なガキだな」
「最初にロリコンだって認めてくれたらここまで嫌なガキにはならなかったんだけどね」
「癪だが、この国のためにはあいつの存在が必要だ。俺でなくあいつのな」
少し悲しそうに聖騎士長は呟く。ここから先は踏み込んではいけない。そうメレアは感じた。
「ところで、あたしの親友はどうしてるの?」
「どうせ寝ているのだろう。あっちのガキには期待はしていない。ルクスがやられたのも何かの間違いだろう」
「それはどうかなー? 意外とやるかもしれないよ」
ケタケタと楽しそうに笑うメレア。その後しばらくの間は訓練場に彼女の鼻歌が流れていた。
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