第1章 01

 ここは人間と有翼種そして人工種という三種族が住む原初の星。

 この星ではイェソド鉱石のエネルギーを使って生活しているが、

 それは人間には悪影響を及ぼす為に、

 通常は、人間に代わって人工種が鉱石採掘の仕事を担っている。


 だがここに、人間なのにイェソド鉱石を採掘している珍妙な存在が…。



イェソド山麓の鉱石採掘場に、一隻の白い船が泊まっている。

鉱石層の崖の前で作業をしている3人の人影。さらに彼らの周囲をポコポコと飛び回る『妖精』が数匹。

妖精の一匹がジャンプして駿河の右腕にボンッと体当たりをぶちかますが、駿河は気にせず細かい鉱石の欠片をシャベルですくって横に置いたコンテナに入れる。

そこへ突然、上空から「随分たくましくなったねぇ!」という声。

作業の手を止めて上を見ると、有翼種のターさんが宙に浮かんでいる。

駿河「びっくりした。いつの間に来たのターさん。ケテル石の方はいいの?」

ターさん「うん、注文分は採っちゃったし。たまには君達を手伝おうかなと。」

駿河「バイト代出ませんよ?」

ターさん笑って「知ってるよ!」と言って駿河の近くに降りてくる。

すると少し離れた所で作業していた護が「いかん!ターさんにバイト代も払えないとは!家賃も払ってないのに!」

ターさん「家賃はまぁ」

護「俺がターさんの家の隣に自分の家を建てたら滞納分を払う!」と叫ぶと「…しかしジャスパー側のお金も稼がねばならぬ!」

駿河「その為に頑張ってイェソド鉱石採らんとね。」と言い再びシャベルで鉱石を掻き集め始める。

ターさん、その様子を見て「凄いなぁ世界で唯一のイェソド鉱石を採る人間!」

駿河は自分の手首に付けた中和石の腕輪を指差し「有翼種から貰ったこれと中和薬が無ければ死んでる。」

ターさん、苦笑して「ホントたくましいね…。」

駿河「あの人に比べたら力は全然ですけど!」と護のほうを指差す。

すると駿河の背後からカルロスの声「あれは怪力バカだからな」

護、カルロスの方を見て「バカって!…怪力人工種と言え!この人型探知機がぁ!」

ターさん「ちなみに黒船かアンバーも居るかなって期待して来たら居なかった。」

カルロス「黒船は我々が来る前に去ったな。アンバーはわからん。」と言うと自分の横に置いたコンテナを指差して「護、これ満タンだから運べ!」

護「あれ。じゃあもう終わりかな?」

駿河「俺のとこがまだ」と自分の横のコンテナを指差す。

すると護は自分の足元に転がっていた大きな鉱石の塊を持ち上げ「んじゃそれにコレを入れて終わりだ!」

駿河、護を指差し「アレを見ると俺の作業が意味無い気がしてくる。」

カルロス「大丈夫だ。塵も積もれば山になるんだ。」

駿河「俺の作業は塵か…。」

ターさん、苦笑。


駿河はシャベルをカルロスに渡して貨物室側の扉から白い船の船内に入る。貨物室からブリッジまでの通路の途中にあるコンパクトな簡易キッチンで手を洗い、水を飲むと、通路を歩いて搭乗デッキの先にあるブリッジに入り、操縦席に座って少しうーんと伸びをしつつ(黒船か…。最近、出会わないけど皆、元気かな…。)

そこへターさんがブリッジに入ってきて「今夜の夕食当番誰だっけ。」

駿河、エンジン始動の操作をしながら「カルさん。」

ターさん「カルさんか。」

少し待つとブリッジに妖精を一匹抱いたカルロスが入ってきて「撤収完了!ハッチ閉めたから発進していいよ船長。」と言いつつ妖精を駿河の方にポイッと投げる。駿河はそれをキャッチすると自分の膝の上へ。

カルロス「あっ。ターさん居るなら妖精要らなかったな。」

駿河「って貴方、ターさんにブリッジに張り付いて航路ナビをしろと?」

カルロス「え。」

駿河「本来は貴方の役目ですが。」

カルロス「まぁそうなんですが船長、ターさんの家はアッチなので、とっとと発進を。」と右方向を指差す。

駿河「貴方、早く昼寝したいんですよね。カルセドニー発進しまーす!」

鉱石採掘場からゆっくり飛び立つ白い船。


カルロスは「では後は妖精様に任せました!」と言いブリッジから出ていく。

駿河「おやすみー。」

ターさん、何となくカルロスの後に付いていく。ブリッジを出るとすぐに搭乗デッキがあり、そこから左右にドアのある狭い通路に入って通路を抜けるとキッチン等のある、上部の片側1畳にロフトがある天井高めのフロアに出る。ロフトの下には小さな四角い備え付けのテーブルが。

カルロスは壁際の梯子を引っ張り出してロフト部分に掛けると、梯子をのぼって上へ。這う様にして狭いロフトに入り、四角いクッションを枕代わりにして横になる。

ターさんは下からカルロスに「おやすみー」と言うと、フロアから続く短く狭い通路を通って貨物室へ。

扉を開けて右側を見ると、コンテナと壁の間の人がやっと通れる位の隙間に護がクッションを詰めてその上にスヤスヤ寝ていた。

ターさん「こっちも昼寝」と呟くと、貨物室を出て通路を戻り、ブリッジに入って「船長は寝なくていいの?」

駿河「疲れた時は寝てるよ。あの2人が採掘作業をしてる間に。」

ターさん「なるほど。」

その時、駿河の膝の上の妖精が、長い耳で駿河の腕をポンポンと叩く。

駿河、妖精を見て「ん?…少し左か。」と言うと「妖精もたまに昼寝する。この間、随分大人しいなと思ってふと見たら寝ていてビックリした。かと思うと妖精によっては凄い元気な奴が」

ターさん「アチコチ飛び回る」

駿河「んで人の頭を叩いたり顔にキックしたり、…そもそもペットを乗せて操船するって航空法違反なんだよ。妖精はペットじゃないけど。いつか探知人工種とか妖精のナビ無しでジャスパーとイェソドを行き来できるようになるといいなぁ。」

ターさん「そうだねぇ。」



夕方。

ターさんの家の前に停まっているカルセドニー。船首付近の搭乗口から駿河が出てくると、夕空を見上げて「キレイな夕焼け…」と呟いて、スマホを出して空に向けて構える。何枚か写真を撮ると、満足気な顔でニコニコしながら搭乗口のドアを閉めつつ船を降り、夕焼け空を眺めながらターさんの家へノンビリと歩き始める。

駿河(イェソドは本当に空の色がキレイだよな…)そんな事を思いつつ、玄関の引き戸を開けた瞬間、一匹の妖精と目が合う。玄関のど真ん中に、イェソド鉱石をポリポリ食っている妖精が鎮座している。

駿河(…なぜこんな所でメシを食っているのか。)と思いつつ、スマホを構えてパチリと一枚。

それからその妖精を抱え上げると、お食事中の妖精をまじまじと眺めて「…一体どうやって鉱石を齧っているのか…」と呟きつつ(どこにイェソド鉱石が転がってるかワカラン…人間にとっては危ないとこだよなぁ。)

妖精を玄関の端に置くと、靴を脱いで家の中に上がる。キッチンではカルロスが夕食を作っていた。

駿河「またカレーですか。」

カルロス「いいや!チーズたっぷりハンバーグカレーだ!私は護のような野菜カレーは作らん。」

駿河「またカレーですね。」

カルロス「基本はそうだが肉重視だ。」

と、そこへ廊下の方から「こらぁ!」という護の声が聞こえてくる。

カルロス「…また妖精に遊ばれてんのか。」と呆れたように言いながら鍋の中のカレーをかき混ぜる。

駿河がキッチンを出て廊下を見ると、耳にバスタオルを引っかけた妖精がポンポン飛んできて思わず反射的にキャッチ!

両腕に2匹の妖精を抱えた護は駿河に「それ返して!…人がせっかく畳んだのをこいつらが!」

見れば床にはタオルが散乱している。

護「もー!また畳まないとー!」と言いつつタオルを拾い集めるが、妖精は護の腕をすり抜けてポコポコと護に体当たりを始める。

護「コラッ!」とタオルを振り回す。

そんな様子をスマホでパチリと撮る駿河。

護「撮るなー!」

駿河「ブログに乗っけようかな。」ニヤリ

護「船長のブログ、見てる人多いからダメだー!」

駿河「顔出しはしないからさ。」

護「んでもアンバーの皆が見たら俺だってわかる!」

そこへキッチンの方からターさんが「夕飯出来たってー!」

護「タオル畳んだら行くー!」


ターさんと駿河は並んでテーブルに着く。カルロスが2人の前にチーズハンバーグカレーを盛った皿を置く。

ターさん「チーズがトロトロで美味しそう。」

駿河「いただきます。」と言ってスプーンを手に取りカレーを食べ始める。

カルロスは生野菜サラダを盛った小鉢を2人それぞれの前に置き、続いて「コンソメスープも作った。」と言いつつ鍋からスープをお玉ですくってマグカップに注ぐと各自の前に置く。

2人が黙々と食事していると護が入ってきて「なんか、前も変なとこ撮られてブログに載せられた気が。」

駿河「誰だかワカラン写真だから大丈夫。それにメインは妖精だから。」

ターさん「護君が妖精に襲われてる奴か。」

話を聞きつつ護はターさんの正面の席に着く。カルロスは護の前にチーズハンバーグカレーを盛った皿と、スープのマグカップを置く。

駿河「本当は有翼種の世界を紹介したくて始めたブログなんだけどな」と言い溜息ついて「少しでも有翼種が写ってると管理に速攻削除されるっていう。」

護「管理が一番熱心なファンだよね。常に見てる。」

駿河「あんたらセキュリティソフトか!みたいな。しかし妖精の写真は削除されないのが謎。」

護「管理も妖精が可愛いんだよ多分。」と言いつつハンバーグをパクリと頬張る。

駿河「お陰で風景と妖精ばっかりのブログになってしまった。」

カルロス、護の前に生野菜てんこ盛りの皿を置く。

護「ちょっとカルさん。なにこれ。」

カルロス「野菜好きだろう?」

護「好きだけど俺だけこんなに食っていいのか!」

カルロス「食えるなら。」

護「よし食ってやる。」

カルロス「え。マジで食うのか!…冗談が通じない奴め。半分は私の分だ!」

護「ってかアンタのカレー美味いじゃん!俺の野菜カレーを超えた。」

カルロス「当たり前だ。ちょっと頑張ってみたんだ!」

護「俺も頑張ろ。」

駿河、ターさんに「明日の予定は?」

ターさん「いつも通りケテル石採掘。君達もいつも通り?」

駿河「うん。7時出航でジャスパーへ。イェソド鉱石降ろしてマルクト石を採って、こっちに戻る。」

するとカルロスが「たまにはゆっくり8時に出航とか」

すると護が「ダメです!アッチとコッチで稼がねば!…早く俺の家建てたい。」

カルロス「それよりジャスパー側の貯金をだな…。」

護「ホント貯金に拘るよねアンタ。」

カルロス溜息ついて「いつかジャスパーとイェソドの通貨統一を」

ターさん「多分無理。」

駿河「…まぁ俺は何時出航でもいいんですけど。」

護「7時!」

ターさん「明日は俺が朝飯当番だから今日は早く寝よう。」

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