daydream.1

 鋼と鋼が打ち合い、火花が散る。


「踏み込みが甘い! 軸足を浮かせるな! お前の体重で片手で剣を振るったら容易に弾かれるぞ!」

 俺は重圧に負けてたたらを踏んだ。足元を払った剣に思わず目を瞑った次の瞬間、芝生の上に投げ出されていた。俺の真横に剣が突き刺さり、草の匂いが強く漂った。


「先が思いやられるな」

 太い眉と鋭い目が俺を見下ろしている。

「ヴァンダ先生に勝てる訳ねえよ」

 俺は立ち上がって泥を払う。

「お前が勝つべきなのは俺じゃなくお前の中の恐れだ。最後、目を瞑っただろ」

 ヴァンダは俺の胸を拳で小突いた。


「痛みは最大の師だ。怯えず受け入れろ」

 正面から見据えた顔には、生々しい傷跡がある。

「やっぱり俺に"煤払い"は無理だ」

「そうか? お前は"戒めの"エレナを倒しただらう」

「殆ど先生がやってたじゃねえか。その傷だって、俺を庇ったから……」

 ヴァンダが眉間に皺を寄せる。遠くから朗らかな声がした。


「また生徒さんを虐めてるの。あまり厳しくしちゃ駄目よ」

 ウィンプルから覗いた赤い髪を靡かせて女が片手を振っていた。もう片手には、ヴァンダによく似た黒髪の子どもが抱かれていた。

「ラロヨーナ……」

「お父さんに会いたいってぐずってたの」

 ヴァンダは決まり悪そうに剣を納めた。シスター・ラロヨーナが子どもを掲げる。幼い手がヴァンダの頬に伸びて、俺は目を背けた。


「傷のこと、気にしてるの?」

 赤毛のシスターが微笑んだ。

「このひとは全然気にしてないわよ。"煤払い"は神の愛の代行者だもの。右の頬を打たれたら左も差し出せと言うでしょう」

「だそうだ」

 ヴァンダは眉間に皺を寄せたまま子どもを抱き上げた。俺は不似合いな光景に思わず苦笑する。


 教団の父と呼ばれたヴァンダは一児の父でもあった。

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