タケとユメの日常

月之影心

起床

 アラームが柔らかいオルゴールの音を奏でている。

 間違いなく自分の部屋の自分のベッドの上で目が覚める。

 いつもの変わらない天井が眼前にぼんやりと浮かび、いつもと同じに思える朝を迎えていた。


「んぅ……」


 自分のものじゃない艶めかしい声と腕に圧し掛かる圧迫感以外は。


「おい……」


「うぅ……んん~?タケ……?」


 薄目を開けた夢乃の顏が右側数cmの所にある。

 尊は天井に置いた視線を動かせずにいた。


「何で……タケが私のベッドに居るの?」


「違う。ユメが俺のベッドに居るんだよ。」


「えぇ……?何で?」


「知るか。俺が訊いてんだ。」


「夜中に寒くなって毛布を取りに布団から出たのは覚えてる……」


「はい?」


「毛布を探してる内にタケの部屋に辿り着いたのかも……」


「そんな事有り得るか?」


「まぁ……いいか……おやすみ……」


「よくねぇわ。」


 夢乃は再び目を閉じてすぐにすぅすぅと寝息を立てた。


「お、おぃ……」


 尊が体を起こそうとしたと同時に夢乃が尊の身体にしがみ付いてきて、夢乃の唇が尊の頬に触れた。




(「チョーサイコーの朝じゃん……」)


 尊は腕の心地良い圧迫感がいつまでも続いて欲しいと願いながら目を閉じた。


 大学の講義は二人揃って遅刻した。

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