第14話 何もない
「ごちそうさまでした。では、行きましょう」
食事の終わる十秒前ほどの完璧すぎるタイミングで現れたカルミアのメイドさんに食器を預け、俺を部屋に迎えようとする。
何も考える事はない。彼女はただ魔法を教わりたいだけで、他意はない。如何にも国王に箱入りで可愛がられたであろう彼女にそんな意図があるとは思えない。思わないでおく。
俺達は二人並んで広々とした廊下を歩いている。
あぁ、嫌だなこの空気。俺だけ悩んでいるようで自分が滑稽に思える。
悩みの種である当人は意気揚々と歩いている。考えるだけ無駄だというのは分かっているのに考えてしまう自分が情け無い。
「じゃあ、どうぞ…」
というか、一回俺の部屋に入れてるんだから殆ど関係ない。自分で部屋に連れ込んだこともあったのになんでドギマギしてたんだ。
と言っても誰かに誤解されたら堪らないので廊下に人が居ないのを確認して部屋に入る。
うぉ、びっくりした。何これ。巨大な魔法陣?
「どうですかこれ!私が作ったんです」
成程、これを見て欲しかった訳だ。肝心の内容は、召喚の類、?でも…その召喚の対象が解らないな、魔物に近いような気もするが…
「これ、召喚魔法だよね?何の召喚が出来るの?」
「こんな複雑な魔法陣を一瞬で解読するなんて、流石ですね。これは、天使の召喚魔法です。でも、強力性がどうしても無くて、天界にリクエストするという形になりそうです」
天使?そんなの関わるだけで相当な存在なのに、それが召喚出来るとは、間違いなく遼遠魔法の類だ。彼女を取り戻して正解だった。もしかすると俺より上に行くかも知れないな。
「すごいな。もし召喚が成功すれば、歴史に残る魔法になるよ。あと一歩で実用に回せそうな感じだから、一緒にやってみよう」
「ありがとうございます!」
「これでもう使えると思うんだけど、、、」
手を加える間もないほど直ぐに完成した。つまりは殆ど完成した状態だった。改めてカルミアの才能と努力に驚かされる最後の仕上げもほんの少しアドバイスで済ませてしまった。
「でも、、、このままじゃ」
「魔力が足りないな。そのために俺が居ると、そういうわけだ」
ちょっとは格好付けさせて欲しい。
魔力の受け渡しは簡単だ。触れるだけで直接流し込める。せっかくカルミアが作った魔法陣なんだから、彼女に発動させてやりたいから俺はそのサポートとして魔力を与えればいい。
「じゃあ、やってみようか」
「えっ、あの、魔力を共有するなんて出来るんですか?」
「簡単だよ。ほら」
彼女の右手を握って、少し魔力を流す。
「ぇっ、なに、、これぇ、、」
あれ、大丈夫か?何か膝が震えて、俺に寄り掛かって来てるんだが。
「力入んない、、、支えて、、」
あ、これダメなやつだ。今までこの世界の人達の魔法事情に触れて来なかった弊害が、完全に魔力過多だ。
「はぁっ…っゔぅ」
すみませんでした。
なんか俺がいけない事したみたいになってる。涙目でこっちを見上げないでくれ。あぁ、口から涎が…。
何でこんなことに。何もない筈だったのに。
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