Between the killers

ピータ

第1話 無敵の殺し屋

20XX年、世は国の基盤であるはずの三権分立の原則が形骸化していた。数々の財閥どもが政財界に根を張り、庶民から金や物資を搾り取っていた。本来それを取り締まるための警察や裁判所の裁判官たちも、財閥の血を引く者たちが重要な職についており、ごく少数いた庶民の出の職員たちも財閥の強大な権力を恐れ、三権分立の原則はあってないようなものになっていた。


『満島孝信(みつしまたかのぶ)、これはまた大物だね。』『報酬は2億出す。引き受けてくれるか?』『ああ、組織の命令なんでね。』

彼の名は『水瀬俊和(みなせとしかず)』、殺し屋組織『Tanathos(タナトス)』に所属する長身黒髪の殺し屋だ。三瀬は『Thanathos』の中でも上位の暗殺者だ。これまで一度たりとも依頼を失敗したことがない。『水瀬に狙われたなら逃げることなど不可能』と裏社会では恐れられ、インド神話で死神を指す『シヴァ』と言うコードネームをつけられた。


『そーれそれ、たんと飲め、金ならたっくさんあるからよ!』『さっすが孝さん!ピンドーン入りまーす!』満島が馬鹿騒ぎをしている夜、水瀬は奴のいるキャバクラ前で張り込んでいた。そしてキャバクラから出てきたところで奴の背後に忍び寄り『はい、お前はここで人生おしまい、来世はまともな性格になるといいな。』と言い放ち、持っていた暗器で頸動脈を掻っ切った。依頼が終わると水瀬はいつものように本部に連絡を入れる。『殺しといたよ。』『さすが水瀬だ、金はいつもの口座に振り込んでおく。』そんな毎日を過ごしていた。


そして、彼はこの組織の中では珍しく、コードネーム以外の名を知っている存在だった。普段は『シヴァ』と呼ばれることが多いが、『水瀬俊和』と言う本名があることも、彼は鮮明に覚えていたのである。


そうして毎日を過ごしていた中で、『味覚、嗅覚』が壊れた。何を食っても『血の味』『死体の悪臭』がするだけなので、食事を『ただの栄養補給、別になくてもいいもの』という認識になっていた。

また、『感情』と言うものも次第になくなっていった。『感情なんて殺戮の支障になるだけ。ならいらないだろ。』と考えるようになっていった。 


こうして『味覚、嗅覚、感情』の全てを失った彼は、側から見たら『組織に操られているマリオネット』『生ける屍』同然の存在となっていったのである。依頼を終え、空を見上げると、そこには紅の満月がぽっかりと浮かんでいた。

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