第7話 気まずい緊張


「俺、九月から引っ越しするんだよ」


「えっ?」


 何よ、それ、と咽喉が塞ぐのは束の間、近藤君は引き際のように言う。



「俺、熊本の高校に編入するんだ。親の仕事の関係で」


「どういうこと?」


 近藤君は手汗を滲ませたようにタオルで拭いながら、申し訳なそうに話し続けた。


「本当に?」


 近藤君はいつものテレ顔のまま、夏の熱気を晒した宙につっけんどんに手を挙げた。


「そうや。俺さ、言いたいことがあったんよ」


 私は理解が遅く、軽く呆然としたまま、近藤君の珍しく真剣そのものの表情に圧倒された。


「俺さ、血捨木のこと、好きだった。うわあ、言えた、言えた!」


 どういう意味? と口が開く前に私は本物の驚愕に呆気を取られ、気まずい緊張感に委ねる気配に私自身を見縊った。


 こいつは私を苛めていたんじゃないの? と怒気をひた隠ししながら私は急激な展開を右往左往してばかりいた。自然と脈拍数が上昇しているのを私は感じてしまった。


 


 野球少年のようにぐりぐり坊主の近藤君は最後にイヒヒッー、ともう、高校生なのに小学生の御ふざけする、男子のように叫び、照れ笑いしながら小走りで立ち去った。


 残された私は冷や汗が止まらず、そういうわけだったのか、と歯ぎしりしながら唖然と口が開いたままだった。私と関わり合った人がまたいなくなった。


 私は近藤君を後ろ髪を引かれるように後を追った。


「待ってよ、どういう意味や?」


 

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