第16話 土曜参観(前編)

 次の土曜日は宗一の保育園の参観日だった。年に2回ある土曜参観日で父母が参観できる。この日は一希も休みをとっていた。宗一が保育園で普段どのように過ごしているのか気になっていたので、とても楽しみにしていた。その日は実家の母が家に来て華咲と留守番することになっていた。

 前日は一希が職場の同僚と飲み会があった。スキー教室の打ち上げだそうだ。飲み会ではいつも飲み過ぎてしまうので、菜乃華は再三、飲み過ぎないように一希に注意をしていた。過去に何度も飲み会の翌日は二日酔いで、トイレにこもることが多いからだ。

 夜になって飲み会が始まる前にも菜乃華は

"飲み過ぎ注意だよ!"

とラインを送る。既読もつかなかったが、帰りが遅くなる一希を待つこともなく菜乃華は就寝した。

 翌朝、いつもより早く目が覚めた菜乃華は身支度を始めると宗一も起きてきた。彼も今日の参観日を楽しみにしていたので、興奮して早く起きたようだ。8時45分登園のため、8時20分に自宅を出る予定である。一希が起きてこなかったら7時45分には起こそうと思っていた。現在7時。まだ時間はある。すると華咲も起きたので、朝ごはんを食べさせる。7時45分になったので、一希を起こしに行く。『今起きる』と返事がくるもなかなか来ない。8時には母親が来るので7時55分になってリビングから菜乃華が叫ぶ。

『もうすぐお母さん来るよ!』

『うん。ちょっと待って!』

そうこうしているうちにインターホンが鳴る。エントランスには母親の姿が写っていた。エントランスドアの施錠ボタンを押して、再び菜乃華が一希のところへ行く。

『お母さん来たよ。』

『うん。二日酔いだ。』

『なんでよ。飲み過ぎないでって言ったでしょ。』

『日本酒がうま過ぎたんだよ。水みたいだったんだよ。』

2人の会話のやり取りをしているうちに玄関のインターホンがなる。宗一がドアの鍵を開けに行く。宗一はドアを開けた祖母の手を取り、家の中へ連れて行く。

『で、参観行けるの?』

『行く。8時20分には出られるようにするからもう少し寝かせて。』

その言葉を聞き、菜乃華は部屋を出る。

『お母さん。おはよう。ありがとう。一希がまだ寝てるの。昨日、飲み会で飲み過ぎたんだって。華咲はもう朝ごはん食べたから今から着替える。』と連絡事項を伝える。

『一希くん大丈夫なの?』

『自業自得だよ。参観には行くって言ってたから大丈夫じゃない?』

すると一希の寝室のドアが開く音がした。やっと起きたと思ったが、向かった先はトイレだった。なかなかでてこない。そして8時20分になってしまった。

『もう時間なんだけど?』

『ごめん。あとから追いかけるから先に行ってて』

『パパどうしたの?』

宗一が不安そうに尋ねる。

『パパね、お腹痛くなっちゃったんだって。だから後から追いかけるから先に行っててだって。』

『えー、一緒に行きたい。3人で行く!』

『ごめんね。でも、お腹痛いんだって。宗ちゃんが遅れちゃうから先に行ってよう。』

宗一は少しがっかりした表情をしながら靴を履いた。華咲はママがいなくなるのがわかると泣いてしまうので、リビングで遊んでいるうちにこっそり外に出た。

 保育園では既に何組かの親子がいる。机に名前シールが貼られていて、そこに座る。『あれ、宗ちゃん家はパパ来ないの?』知り合いのお母さんが声をかけてきた。『後から来ると思う。』と伝えると『パパお腹痛いんだって』と宗一がケロッとした顔で答える。保育園を出る時はあんなに落ち込んでいた表情だったのに、もうすっかり立ち直っていた。というのも今日は土曜参観の後、5人で家の近くのファミレスでランチをする約束をしていた。ばあばも一緒にファミレスに行けるということが宗一の頭の中は保育参観後のことでいっぱいのようだ。


 ほとんどが父母と子どもの3人でいる中、保育参観が始まってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る