だから俺は偽者なんだ!
瀬川
第1話 気づいてしまった事実
ずっと、ここにはいられない。
俺は、本物が来るまでのつなぎなのだから。
そう分かった途端、やるべきことが見えてきた。
この世界が小説の中だと気がつき、そして自分はこのままだと逮捕される運命だと知った。
BL小説の登場人物だ。そして現在の俺。小説の名前は覚えていない。それを読んでいた記憶はあるのだが、ところどころ抜けている。題名を思い出せないのも、きっとそのせいだろう。
でも大事なことは覚えている。
自分がどんな役割で、そしてどんな運命を辿るのか。それを覚えていなければ、ただ破滅に向かうところだった。
この小説は、ニホンという架空の国が舞台だ。女性は存在せず、国を統治している男達と、彼らに愛される青年の物語。
光と呼ばれる存在は、国を発展させる。それが主人公である青年だった。存在だけで愛されるのは確定しているのに、更には分け隔てない優しさと正義感で、どんどん執着されていく。
みんなに愛されて、そして国を発展させていくのだ。全員に愛されて、物語はハッピーエンドで終わる。
聖は、その中でただ一人ハッピーエンドを迎えられなかった登場人物だ。
主人公が現れるまで、国民を落ち着かせるために、代わりの光が必要だった。暴走を防ぐため、統治に文句を言わせないため。傀儡が必要だった。
そこで選ばれたのが、聖だったのだ。
聖は容姿だけなら、光と言われても納得出来るぐらいに美しかった。生まれつき銀髪、紫の瞳。一流の職人が手がけたような、パーツが完璧に配置された顔。選ばれるのも納得だった。
聖が偽物だと知っているのは、主人公が現れるまでは、たったの一人。
でも現れてからは、用無しになる。偽物も代わりも必要ない。当然のことだ。
代わりを務めた分の大金をもらって、そのまま満足すれば良かった。それなのに聖は満足しなかった。いつか自分が愛してもらえるんじゃないかと、そう期待してしまった。
だから、主人公に害をなそうとして失敗し、そのまま逮捕された。
光を傷つけようとしたのだ。重罪である。
聖は終身刑を言い渡され、暗くて寒い牢獄の中で一人、孤独に苦しみながら衰弱して死んだ。
つまり、欲を出さなければ死ぬことは無い。代わりを真面目に務めて、本物が現れたら金をもらって静かに消えればいいのだ。
希望が見えてきた。
静かに謙虚に生きる。それを目標にすることにした。
聖が俺になったのには、きっと意味がある。変わるのだ。生き方を、結末を。
◇◇◇
代わりの光として、俺はたくさんの仕事をしているわけじゃない。ただの偽物だからだ。
ぼろを出さないようにと、本物が現れた時にすぐに入れ替われるためである。
お飾りの光。そういう声も上がっている。
でも声を対処したりはしない。別に声が上がったところで構わないからだ。
俺の評判がどうなろうと、どうでもいい。だから、どんどんヘイトが溜まっていた。
これも、その影響だ。
「あの。光って言うけど、その力を見せてくださいよ。あんた、そういうのを見せたことがないですよね。本物なんですか?」
誰だろう。俺を世話する係だと思うが、顔も名前も知らない。おそらく新人か。
光として俺には、神殿の大きな部屋の一つが与えられている。
決して大事にされているからではない。むしろ逆だ。
俺が逃げないように、変なことをしないように、監視するのが目的である。
広すぎる部屋、豪華すぎる家具、それを一人では管理しきれない。だから、掃除や食事などの世話する係が必要になる。
その人達は入れ替わりは激しい。早い人だと、次の日にはいなくなっている。気を許せる人はいない。
それが目的なのだろうけど。
光としてあまり仕事をしていないことと、どこか雑な扱いを受けているせいで、周りの人は俺を下に見ている。
これまでは直接何かをしてくることは無かったが、掃除がいい加減だったり、運んでくる食事がぐちゃぐちゃにされていたり、物を盗まれたりしていた。
聖は負い目と、もめ事を起こせば捨てられるのではないかという恐怖から、報告することが出来なかった。
でも、俺は違う。
それに直接馬鹿にされていて、何もしない方が面倒になる。余計に待遇を悪くするだけだ。
「図星で何も言えないんですか?」
「黙れ」
「はっ!?」
低い声で黙れと言っただけで、怯んでいる。弱い。
まさか、俺が反抗しないとでも思っていたのだろうか。それは、かなり馬鹿にしている。
「名前は?」
「へ」
「名前。入ったばかりだから、あんたの名前を知らない。だから教えろ」
事実を伝えただけなのに、信じられないといった顔で固まっている。覚えてもらえるとでも思ったのか。色々としておいて。
それはかなり自信過剰だ。呆れてしまう。
「わ、私はもう半年も仕えているんです。それなのに、名前を知らないですって?」
半年か。多少は長い方だ。
でも知らないものは知らない。
冷めた目で見ていると、馬鹿にされていると勘違いしたようで、胸ぐらに掴みかかってきた。
他に誰もいないから、こんな行動をとったのだろう。そうでなければ、さすがに出来ないはずだ。
でも残念。考えが足りない。
俺はため息を吐いた。
「何、余裕そうな顔をしているんですか」
「ここで、何をしているのでしょうか」
「!?」
第三者の登場に、世話係は驚いて目を見開く。
どうしてここに、とか。いつの間に、とか。そんなことを考えているのだろう。
でも、絶対に答えは出ないはずだ。
俺の部屋に監視カメラが設置されているから、だなんて思い浮かぶわけがない。
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