図書館の勉強会

@mininoni

第1話 こっちへ来て

「おかしいなぁ・・・こっちに飛んで行ったはずだけど・・・」


麦わら帽子をかぶった少年はあたりを見回しながら、畑に囲まれた道を歩いていた。


一面の小麦畑。収穫を間近に控えたそれら一本一本が、太陽の光を浴びて黄金色に

輝いている。


「この中に落ちてたら見つけられないよなぁ・・・」


しばらく悩みつつ足を動かしていたが、はあ、とため息をつく。


「もうちょっと進んでもなかったら、諦めるかあ」


数分歩くと畑もなくなり、視界はそびえ立つ壁のような森で埋め尽くされる。


大量の蝉の声が少年をつんざく。


「・・・ここまでかな。これに入ったら迷っちゃいそう」


しかし、踵を返しかけた少年は動きを止め、再び森を見る。


「・・・家?かな?」


木々の隙間から覗く人工物。木造の一軒家のような建物が少年の好奇心を

鷲掴みにする。


「こんなところに人が住んでたんだ・・・」


少年はボール探しという目的もすっかり忘れて、吸い込まれるようにそちらに

進んだ。




森の中、ぽっかりと開けた空間にそれは立っている。

1階建てでさほど大きくはない普通の家のような外観だが、窓がないこと、

扉が観音開きであることが見る人に物々しい印象を与える。


少年はその雰囲気に異様なものを感じて躊躇ったが、同時に興味も刺激され、

意を決して扉に触れる手に力を込めた。

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