第8話 黄金の人型武装戦士

——ハルさんが魔女の生まれ変わり——


女神が言い放った驚愕で衝撃的な事実。


「ホントに言ってんのか……?」 


「うん、そうだよ!嘘ついてどうすんのよ!」


もし女神が言ってることが本当ならハルさんは知っているのだろうか…?



「なあ、……ハルさんはそれを知ってるのか?」


「いいえ……、あの娘はおそらく気づいてないよ……、ただ魔王はとっくに気づいてるはずだよ」


「……魔王?」


「ええ、魔王。この世界で恐れられてる存在よ……」


魔王、その名は何度も聞いたことがある。

異世界に来たときに絶対に聞く言葉だ。


もし魔王が気づいているなら、命を狙われてしまう可能性があるんじゃ……?


「なら、なぜ魔王は攻めてこないんだ?」


オレがそう聞くと、女神は首を横に振った。


「三年前に一度攻めて来てるよ……」


「……来たのか!?」


「ええ、けどその時はあと一歩のところで敗れたけど……」


女神はそこまで言ってため息をついた。

オレはそれが気になり、女神に問いかける。


「まさか、また攻めにくるのか……?」


オレがそう言うと女神は頷いた。


…やはりな、自分と同レベルの人間がいれば

目の敵にするのは当たり前だ。


実際、オレはそういうことがあった。

オレが学生のころだ。身長、体型はほとんど同じ、顔はそこそこオレのほうがいい、オレのほうが勉強も運動も少しはできるのに、なぜかできないアイツが女子に可愛いがられていた。オレが片思いしてた女子もオレじゃなく、アイツに優しい笑みを浮かべていた。


…ああ、わかってる、オレはすべてにおいてそこそこできるが、なにか突出してたわけじゃない…。


魔王が妬む気持ちも少しはわかる。

だが、今回は違うオレの片思いのハルさんが

たとえ男の娘だとしても好きな人が狙われてるなら助けないわけにはいかない。


「なぜ魔王は敗れたんだ……?」


「あの、ハルって子が意識が吹っ飛ぶほどの魔力を放出したからよ…」


「どういうことだ?」


「これは私の推測だけど、あの子は他人が犠牲に遭うのがとても嫌みたいで特に自分のためとなると、その犠牲が積もり積もると自分でも制御できないほどの魔力を放出するの、

それがどんな効果があるかわからないけど

魔王はそれを見て退散したよ……」


「…そんなことが…?」


オレは女神の話を聞いてから作業中にもハルさんのことを考えていた。


女神は自分の用が済んだからさっさと帰った。

もしまた魔王が攻めてきたとき、ハルさんは恐らく自分一人で戦うつもりかもしれない。


オレは心の中に使命感が出てきていた。





—地下、オレ帝国にて—


あれから三日ぐらい経っただろうか、オレは

実験に実験を重ね、修正に修正を重ねた最高傑作が完成した。


オレだけが使える究極の装備、それが黄金の人型武装戦士ゴールドアーマーだ。


魔力は充分に補給した、オレは装備を装着する。


身体全体を黄金の鎧が覆う、腕や足全体にも鎧が覆われる。

そして顔にも黄金の鎧を装着、目は赤色に光り輝く。胸の中心には魔力を溜めた濃い紫色の魔石を埋めてある。


「よし、まずは小手調べだ。魔力発動」


オレは目を閉じて女神から貰った魔力を集中してイメージをする。

するとアーマーが魔力を感じとり、魔石が輝き出した。


「よし、魔力は大丈夫だ。次はステータス起動!」


すると画面が表示される。これはオレのギルドカードを顔に装着するアーマーに埋め込むため小型化した。


————ステータス

トビ 25歳 男 Lv.15

職業:錬成術師

知力:180

魔力:10000

HP:1000

耐性:500

属性:炎

能力:錬成・敵感知・盾


————




「ふぅ、ステータスOK、感知スキル起動!」


これも画面に表示される。これは知ってるだろうが盗賊スキルだ。ギルドカードにはさまざまな能力をゲットした物がこのカードに表示される。オレはそれを応用しただけだ。


「よし、あとは……、炎の魔石で、火炎増強ファイヤーストロング発動!」


すると手と足のアーマーが炎の威力によってゴォォと音をたてながら宙に浮く。


オレは体のバランスをとりながら姿勢を保つ。


……おっと、これはなかなか上出来だ…。


宙に浮いた体をそのまま正面を向いたまま横になる。


…よし、いくぞ…。


オレは手を握りしめて深呼吸をしてから更に魔力を強化させてさらに火力アップする。


そしてそのままスピードアップしていく。

その速さはジェット機並みの速さだ。

オレは地下から地上へと出る通路を全速力で駆け抜ける。


そのまま地上へ出ると夜空へ飛んでいく。


ウィィィィィィィ、ヤッホォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!


オレは空中を全速力で飛びながら高揚感が溢れ出てくる。現実世界ではあり得ないような光景で子どものようにはしゃいでいた。


「ふぅーっ!きもちいい〜!」


静まり返った夜の村を上空から見渡す。

たまに体を回転させながら飛び、たまに地面のギリギリのとこまで行き、そこから一気に上昇したりとこの装備ならではの遊びを楽しんでいた。


そこでオレはあることを試したいと思った。

この上空をどこまで高く飛ぶことができるのか。男ならではの発想だ。


好奇心が出るままにオレは遥か彼方の上空を目指して夜空を突っ切る。

だんだんと上昇していくがアーマーはまだ大丈夫だ。異常はない、このまま上へと目指す。


子どものころに憧れた空を飛ぶ夢まさかここで叶うことになるとは異世界に転移した甲斐あったぜ。サンキューな、女神!


やがてアーマーは雲を突き抜けて星いっぱいの空へと出る、オレは達成感に浸っていた。

やっと完成したオレの究極の最高傑作の装備

ゴールドアーマー。やはりすばらしいものになった。


すると、ピピッと音がなった。


オレはなんの音かさっぱりわからなかった。

疑問に思い、ステータス画面を開く。


「ステータス起動……、ってウソだろ!?」


オレはステータス画面の表示を見て驚くしかなかった。


「あんだけあった魔力が残り10だと……!?」


オレは瞬時に頭の中で連想する。

魔力が残り10ということはもしオレがここで

発動をオフにすればどうなるだろうか…?


そんなことは答えはただひとつ、落下するだけ。


「うわああああああああああ!!!!」


落ちる、落ちる、ただ落ちていく。ひたすら

地面に向かって真っ逆さまにダイビング。

スカイダイビングはやったことがないがおそらくこんな感じだろう。風が下から吹いて姿勢が安定できない。


ああ、これ完全に死ぬわ。まさかこんなことで死ぬとは夢にも思わなかった。


上空から地面への距離あと僅か……。

やばい、やばい、やばい、死ぬ!!

オレはそっと目を閉じる。





……いや、まだだ!ハルさんに会えなくなるのは嫌だ!


オレは気力を持ち直して考えを巡らせる。

よく考えれば魔力は10だが残っている。

地面に落ちる直前で魔力を発動させれば死ぬ確率は半数になる、失敗すれば死あるのみ。


オレは集中して、地面の距離を計る。


…まだだ、まだ、あともうちょい…。


……今だ!


オレは一気に魔力を発動し、火力を上げる。

すると体は宙に浮いた、顔が地面に当たるほんの数十センチ手前で止まった。


オレはふうっと溜め息を深くついた。


なんとか助かった…。ステータス画面を見ると魔力は9に減っていた。



「これは……、さらに改良が必要か」


オレはその場に寝そべって一息つく。

緊張感と安心感、達成感と疲労感が一気に身体から抜ける。


オレはアーマーを着たまま寝てしまった。



そして、その姿をだれかに見られてることさえ、オレは知らなかった。

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