5.武器とクエストと港街

 ログインしました。

 今日はまず武器を受け取りに行きましょう。昨日は金策だけしてログアウトしたのでお金は充分にあります。


 しかし、インベントリ内で数値化されているとはいえ、大金を持って歩くのは慣れませんね……

 情報化された現代では相応のセキュリティがあるのでそこまで心配にはなりませんが、この世界だと死んだらアイテムと一緒にお金も失いますので、なるべく早くギルドでのランクを上げたいものです。


 銀行システムはギルドのランクを二つ上げないと使えないって掲示板で知った時はマジかと思いましたよ。説明聞いて納得しましたが。


 昨日も訪れたガンツさんの店に着きました。ガンツさんはこの鍛冶屋の店主ですよ。


「おや、ガンツさんはいらっしゃらないのですか?」

「あいつなら裏で作業中だよ。久しぶりのオーダーメイド品だからって張り切ってるのさ」


 店番をしていた女性の人はガンツさんの妻だそうです。オーダーメイドの武器を作るのは久しぶりなようで、夜まで作業しているだろうとのこと。

 そうなると、少し困りましたね……。昨日の金策でゴブリンには飽きたので別の狩り場に行こうと思っていたんですよ。ですが、この街の近くの狩り場のうち、東の森と同じレベル帯のフィールドは西の平原しかありません。


 始まりの街を中心とした四方には異なるフィールドがあるのですが、西は平坦な草原を抜けた先に港街がある影響で強い魔物は出現しません。人によって開拓された道だからです。

 東の森はゴブリンなどが生息していますが、薬草などが豊富に採れるのでこちらも管理されています。


 問題は北と南です。

 北は鉱山に続いているのですが、道中に出現する魔物は打撃以外の攻撃が通りづらいので、斬撃や刺突が主な攻撃手段の私からすれば避けたい相手です。

 南はしばらくは西と同じ光景ですが、その先は荒れ地ばかりで得られるものがありません。というのも、南は未だ人の足を踏み入れていない前人未踏の土地であり、そこから溢れてくる魔物の対処で精一杯なのに開拓する余裕は無いそうです。


 パーティーを組んでいる攻略組は北を目指しているようですが、私はソロなので東と西しか選択肢がありません。まあ、不満は無いのですが。


「そうだ。もし暇なら手伝ってくれないかい?」


 これは……クエストですか。


「いいですけど、私にできることは少ないですよ?」

「ただの配達だから誰でもできるさ。ただ、いつも頼んでいる人が怪我で動けなくってね。西の港街の衛兵に渡せば客のとこまで行くはずだから、そう時間は掛からないはずさ」


 渡されたのは鞘に収められた一振りの剣です。昨日見せてもらったハルバードに似た輝きがあるので、この剣も高値が付くのでしょう。

 ですが、なぜ頼む相手が異人の私なのでしょう……? いえ、盗むつもりはありませんが、住人たちからすれば現れたばかりの他人でしょうし、信頼できるようなことをした覚えも無いのですが。


「……衛兵に渡せばいいんですね?」

「ああそうだよ。あと、武器の代金は受け取っておこうか?」

「お願いします。あまり大金を持ち歩くのは慣れていないので」

「大金って……まあ、5,000SGでも普通に暮らしてるなら大金か」


 奥さんに5,000SGを渡しておきます。まだ15,000SGが所持金にあるので不安になりますね。


 鍛冶屋を後にした私は消耗品と食料を購入し西門へ向かいます。

 私が苦戦した脱兎は東側にしか生息していないみたいなので、西側の街近くは初心者が集まっているようです。パーティーの連携を確かめたりするのにも使われているそうですよ。私はソロですが。


 ここで戦うことになる魔物はホーンラビット。脱兎との違いは額にある角だけですが、脱兎とは違って猪突猛進してくるので油断すると死にます。


「あれ、お姉さん一人? 俺らとパーティー組まね?」

「私はソロですよっと」


 へらへらしてるチャラい人はお呼びじゃありません。


「ねーねー、いいじゃん。ゲームなんだし一緒に遊ぼう? な?」

「あの、邪魔になるので……」

「つーかフレンドなろ? オレこれでも攻略組だから色々教えてやっても――」

「邪魔だって言ってるでしょ。付きまとうならGMコールするよ」


 UIのシステムからGMコールを選んで可視化させると、自称攻略組の初心者は怖じ気づいて逃げましたね。ゲームでナンパするような人は好きじゃないんですよ私。

 このゲーム、というか最近のVRゲーム全部に言えるんですが、プレイヤー全員の行動がログとして残されているので、人の迷惑になる言動をしたらGMコールされていなくても注意されるんですよ。反省する気が無ければ垢停止からのBANも有り得ます。


 さて、気晴らしにホーンラビットを倒しましょう。平地での戦闘経験も積んでおきたいのでここは絶好のフィールドです。

 初心者用ハルバードといえど、レベルとスキルが乗った一撃に耐えられる兎さんはいませんよ……!


「はあっ!」


 勢いを付けて斧頭を叩き込めば、ホーンラビットの角ごと真っ二つです。どうせならスキルレベルも上げますか。

 ということで、【斧】【槍】【鎌】の三つを意識しながら戦闘します。【戦士】スキルに防御力上昇の効果があるので、何体かは腕装備で攻撃を受け止めてから倒します。金属製の安心感は凄いですよ。


 ホーンラビットを倒しながら道なりに進んでいくと、今度はウルフが群れで襲ってきました。多数を相手にする戦闘の入門……と言ったところでしょうか。

 あまり強くはありませんが、群れなので連携してくるのが厄介です。


「ガルゥ!」

「よっと、簡単には当たりませんよ」


 左右から同時に攻められたので、ハルバードの先端を地面に突き立てて空中へ移動します。棒高跳びのようにはいきませんが、ステータスのお陰で現実より身軽なので背後を取ることには成功しました。

 地面に降りてすぐにハルバードを振るい、群れの後ろにいた個体を倒します。【襲撃】の効果で奇襲扱いになったので一撃で倒せました。


 ですが、さすが野生に生きる魔物と言うべきでしょう。仲間の死を前にしても怯えず。即座に攻撃を仕掛けてきます。獲物と決めた相手は何が何でも殺すと考えているのでしょう。

 それでも脅威にはなりません。数が減るのはソロの私には好都合なんですよ。


 まずは一体。口を開いて突進してきたので、その口腔にハルバードの先端を突き刺します。角度を付けたので脳に達したでしょう。

 勢いを殺さず振り回せば、死体が消える前に障害物として利用できます。これで残りの二体のうち片方を足止めした瞬間にもう片方を仕留めます。

 口を閉じていようと、遠心力が加わった斧頭の一撃は鎧すら砕くのですから、顔に直撃したウルフは頭部を上下に分かたれて倒れました。


 そして残りの一体が立ち直りますが、その足に鉤爪を引っ掛けて無理やりに転ばせれば、走り出した勢いのまま地面にダイブします。その頭に斧頭を叩きつけ、戦闘は終了です。


「ふう、なんとかなった。……けど、最初の回避はもうやりたくないかな」


 微かですが、飛んでる最中に嫌な音が聞こえたんですよね……。

 初心者用ハルバードが折れたら武器が無くなるので、無茶な使い方をしても問題無い武器が手に入るまであの回避方法は封印します。回避中に折れるのは勘弁です。


 さて、そうこうしているうちに港街が見えてきました。片道2~3時間ってところでしょうか。


「こんにちは! 冒険者かい?」

「異人の冒険者ですよ。配達の依頼を受けてきました」


 街の入り口に立っている衛兵さんに、配達物である剣を渡します。


「ガンツさんの鍛冶屋からです」

「これは……なるほど。領主様に届けておくけど、すぐ帰るのかい?」

「そうですね……ついでに市場でも見て回りましょうか」

「ようこそ、シュアデルセへ」


 港街シュアデルセは活気があります。

 西の平原を通ってこの街に来た異人もそれなりにいるので、異人向けの商品なんかも売られているそうです。

 港街なだけあって、商品は新鮮な魚介類や交易品ばかりですね。刺身で食べられる魚はあるのでしょうか。いや、魚だけ買っても食べれませんか……おや?


「すみません、これは何ですか?」

「ただのアクセサリーだよ。物見遊山で訪れた島で貰ったんだけど結構数があってな。幾つか売ってるのさ。異国の情緒を感じてみるか?」


 お値段たったの500SG。せっかくなのでリアルでは身に付けないピアスを購入します。

 虫……? のような向こう側が透けて見える薄い羽と木の実と葉っぱが組み合わさった、よく分からないアクセサリーです。ただ、素材が不明なんですよね。植物のように見えるのに触感が植物じゃないというか……。


《――称号『妖精の興味』を獲得しました》


 …………へ? このタイミングで称号ですか?

 装備すると称号が手に入るって、ちょっと面倒毎に巻き込まれそうな気がするんですが。


 アイテム名を確認しましょう。


====================

アクセサリー:妖精の悪戯羽

 ・異なる世界から来たという異人に興味を持った妖精が作った装身具。身に付けていると妖精が寄ってくるかも……? 知力と敏捷が上昇する。

====================


「あの、これって……」


 この世界の妖精がどのようなものなのか分かりませんが、このアクセサリーを売っていた彼は間違いなく妖精側でしょう。

 目を離した隙に忽然と消えやがりましたからね。ちょっとしたイベント専用NPCだったのかもしれませんが、私は妖精の興味の対象に選ばれたというわけですか。


 敏捷が上昇するのは有り難いので装備しておきますが、厄介ごとに巻き込まれたら外しましょう。


 ――そろそろ始まりの街に戻りますか。市場を見て回っている内に昼を過ぎたので、夕暮れまでには着くはずです。

 来たときと同じようにウルフとホーンラビットを倒しつつ帰還し、鍛冶屋でガンツさんの奥さんにクエストの報告をしつつ完成を待ちます。


「――お、来てたのか。たった今完成したばかりだぜ」

「代金は奥さんに渡していますので、早速装備してもいいですか?」

「おう。裏に確認用の土地があるから、何回か素振りして違和感があるようなら言ってくれ。調整できる範囲ならすぐに調整すっから」


 言われたとおり鍛冶屋の裏で素振りしましょう。

 初心者用ハルバードから鋼鉄のハルバードに装備を変更します。人の手で作ったとは思えないほど綺麗に整えられていますね。


「ふっ! はっ!」


 重量もバッチリです。斧頭は角張った形になっているので斬れ味と破壊力が増しています。革製の防具なら易々と斬り裂けるんじゃないでしょうか。


「しっ……!」


 先端は少し肉厚になっていますが、槍として使った場合、穂先の根元に負担が掛かるのを考慮したのでしょう。

 鉤爪も同様に肉厚になっています。ですが、訓練用の案山子相手に今まで通り使えたので問題はありません。


「……すごく持ちやすいですね。この細かい意匠が滑り止めとして働いているんですか?」

「ああそうだ。嬢ちゃんは森で活動してるんだろ? だから、木に巻き付く蔦をモチーフにしてみたんだ」


 私が森で活動しているなんて誰から……と思いましたが、奥さん経由でしょうね。地域住人のネットワークで情報がすぐに広まるみたいです。私は森で採取した植物やゴブリンの素材をたくさん売っているので、よく利用している店に聞けばすぐですか。


「私が言うのも何ですがこれ、もう10,000SG出してもいい出来ですよ」

「色々負けてってつったろ。店に来る異人は見栄え重視の剣ばかり買いやがるが、自分の好きなもん携えてたのは嬢ちゃんが初めてだったからサービスしてんだよ。あとはまあ、これからも贔屓にしてくれよ? っていう思いもあるがな」


 そう言ってにかっとガンツさんは笑いました。

 私が無類のハルバード好きなのを一目で見抜いていたとは……恐るべし鍛冶屋。プレイヤーメイドで惹かれる武器が見つからない限りは贔屓にしますか。

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