龍族の末裔

山野狸

第1話 始まり

 ロウソクの灯りだろう、暗闇の中の頼りない光。

そこだけが僅かに明るく、闇に飲み込まれまいと燃え続ける、

それをジッと見つめる顔、15~6歳位だろう、胸元で両手を組み、

唇は微かに動いている、声は聞こえない。

華奢な体躯、長い髪、清楚な雰囲気を纏い、幼さと女性らしさが混在

顔がこちらを向いた、黒とブルーのオットアイが見つめてきた。

僕が見ていた位置は彼女の斜め前で有り、何故か数m上から、

彼女を見降ろしていたのだが、視線は正面では無いのに顔の向きを

変えて見つめてきた[龍…様…待……します]

夢は冷めたが言葉が、表情が心にに残る、…。

ーーー

 僕の名は闇(クラ)龍司、東京のとある高校に通っている。

ここは福島県喜多方市の山都町、両親の実家が有り、僕の宝が有る、

阿賀川と只見川の合流地点付近は世間で闇の一族と呼ばれる者の影響力の

強い地域で、その一角、高郷町下川井は母方羽津家の本家が有る。

 宝とは闇キャンプ場といい、オートキャンプ専用20区画と、

かなり広いテント用のフリースペース、僕個人用3区画で管理棟、

軽食喫茶、売店併設の共有スペース、駐車場の運営をしている。

管理人は従姉の蘭姉が店長も兼ねてやってもらい、祖父運営の

管理会社に依頼、夜間警備も頼んでいる

 現在は夏休み帰省中で、帰省ラッシュをさけて11日に東京を出た。

昨夜はコテージでゆっくりして今朝の食事を取に蘭姉の元へむかう、

喫茶は早い時間帯、地元の年寄で賑わい、話を咲かせる。

近年、コロナで帰省も自粛で、この二年はお盆でもにぎわった、

このキャンプ場でもソロキャン、ファミリーが多い

「蘭姉、朝ごはん一つ」

「あら、凛と涼子は?泊まった筈じゃ?」

「昨晩送ってった、泊めて良かったけど、僕がベッドで寝たくて

我がまま言って帰ってもらった、今晩来るかもなのでよろしく」

「入りは如何?」

「ほぼ満杯、意外にベットロッジ人気よ」

「寝具カバーのクリーニングコストを考えて、寝具をやめて、

藁マットのベットで自前の寝袋使用なら無料で使用どうぞ、

が、受けてるわよ」運ばれてきた食事を食べつつ情報の共有

「あー、それ判る気がする、床って不潔感有るから」

「夏は特に虫多いしね」

「駅からの歩きは如何?」

「歩き結構居るわよ、あんたがアップしてる場所も聞かれる事多いし」

「泊まりたい希望の場所は、できれば叶えてあげて、

最低コテージが空いてれば僕はいいから」

「その、コテージだけど、手伝いのいとこ達に、人気よ」

「中学生でソロキャンやっててユーチューバーって、目立ったよな」

「高校生キャンプ場作って、私に丸投げで東京行くし、応援は従姉達のバイト頼み、オーナーより従姉達の方がこのキャンプ場の思い入れも強いわよ」

「東京行は親父のせいだよ、ホントにありがとう蘭姉様、散歩してくる」

ーーー

 グラスカメラON

『おはようございます、今日は11日今から散歩初めます、GO!。

ここを歩くのは二年半ぶりです、川沿いのこの道の右は畑、左は田で、

多くの畑は蕎麦が植えられます、高低差が結構あり、車が通る緩やかな

坂道は崖沿い、山際をすり抜ける様にグネグネと長く伸び、谷間の

僅かな平地は区画整理され、整地された田は一枚一枚が僅かの高低差を

持ち、水が下に行く様に工夫されています。

田畑の周りは木々で覆われ、周りの景色は山と緑しかありません、

阿賀川の川面も木々の切れた、その一角でしか見られません。

下川井と川沿いの道路の T字路と下川井集落南の二カ所に、

防犯カメラを設置して有る、キャンプ場出入り確認だ。

そんな様子を見ながら歩いていると、坂上でタイヤの軋む音が

 「ギシャ」明らかに急ハンドルを切った。

緩やかな右ガーブで下り坂だし、スピード出せる所じゃ無いし、

と思って顔を向けたら、ムササビの様に車が飛んで木陰から出てきた。

木の根元に食い込むか、坂の壁外下に落ちるかの予想を裏切り、

枝に接触で方向が変わり真面に向かってくる。

上からペチャンコに潰されるイメージが浮かんで、思わず怒りが沸き、

相手が癪に障り[「バリア」]と叫び両手を突き出した。

どうせ死ぬのにと思ったら落ち着いた、自分と同じ歳位のペア二組が

こちらを見て叫んでいるが、車の中どうしで聞き取れない。

接触したと感じた瞬間、爆発と衝撃がきた、向こう側に崩れ

落ちていくのを見ていたら、靄に包まれ、やがて闇に成った。

ーーー

 目が暗さに慣れてくると、部屋正面の上方に明り取り窓が一つ有り、

僅か明るいが光量が足りないと感じ、無意識に[ライト]と心で唱える。

周りが明るくなり、拳大の火球が頭上に浮く、浮いた明りを見つつ

光量をイメージする、光量が変化する、ライトも魔法であり、

自分の力だと確信した。

 先程の車が自分に覆い被さらず、跳ね返る様に違和感を感じていた

それが腑に落ちた瞬間であり、あの折りに覚醒したのだ。

現在異世界転移させられており、この娘に呼ばれたのだろう。

 正面の床に人が、伏していた、今朝見た娘だと直感した。

見降ろしていた位置に5m程のドラゴンの像が建つている、

神棚らしき祭壇を真ん中に挟んで反対にグリフォンの像が立つ、

今朝、自分はあのドラゴンの目から下を見ていた。

見回すと祭壇の正面から、壁を一周した階段が、明かり窓迄昇っている。

「グ~、キュ~」円塔内部に小さく音が響く、娘のお腹の虫だろう、

彼女のその音は静寂な空間で、主人の存在をアピ-ルする。

 娘に近づき抱き起し[ヒール][クリーン]を唱える。

龍司に気付くと目を見開き涙を溢れさせた「御待ちしておりました」

散歩に出るときは癖で、スポーツドリンクとカロリーメイトを持ち歩く、

与えると、不思議そうに食べ、落ち着いた様だ。

 「この国の王女で「アーシア」と申します、ドラゴンの巫女であり、生餌です、

貴方はドラゴンの目で、今朝、私を見ておられた、ドラゴンの化身なのですよね。

私の命と引き換えに、この国を、民をお救い下さい。お助けください」

 話によると王の逝去、その期を狙い隣国の宣戦布告。

迎え撃つにも後継ぎ騒動勃発で、叔父たち二人が第二、第三王妃と結託

後見を名乗り、其々の子を立て王座を狙う状態で内乱寸前。

長女の自分は亡くなった第一王妃の一人娘であるが、

ドラゴンから国を守る為、代替わりの長子が15に成った誕生日に

生餌として捧げられる、それが今日…。

思い余って祈っていたら、石像から何かを感じて見上げたら、目が合った。


「ギェ~~~」魔物の叫び声が塔内に響く!

彼女の顔色が変わる、餌の時間らしい、明り取りの窓から、口へ飛ぶ込む、

「僕に抱きかかえられてくれる」怪訝な、嬉しそうに彼女は立ち上がる。

脇を抱換えて膝の後ろに手を回す「ありがとう」彼女の両手が首に

回され口付けされた、共に食べられるお礼?。

そのまま明り取りまで、抱換えたまま飛び上がる、窓と言ってもガラスも枠も

無い空への出入り口に立つと、目の前にドラゴンの顔が有った。

 下から螺旋階段を上り、この位置から口に飛び込む「生餌」の

イメージが見えたが、ドラゴンから見れば、それを横取りした奴。

首にしがみ付く震える手、頭に押し付けられた顔を感じつつ、

ただ、目を合わせていた、「ギャウ~~~」催促だろう。

 [バリア][浮遊][衝撃吸収]ゆっくり口の中へ進んで行く。

口内に吞み込まれた後、嚙み砕こうと歯を立てる、何度も何度も…

[ゆっくり拡張]バリア空間を広げる、暫くして口の動きが止まる、

気管が塞がれ、鼻と口と肺との空気の移動が止まったのだろう、

程なく仰向けに引っ繰り返ったドラゴン、手足をばたつかせ[息をさせてください]

[念話が出来るんだ]少しバリアを収縮させ息をさせる。

[生餌の儀式と言うのかな、これでこの国守っても隣国が攻めてくるよ]

[この国を守る?、先代のドラゴン姫と遥か昔のこ国の王子の契りだよ]

降伏のポーズを続けるので、[口を開けて][縮小]

口からお腹に飛び降り、数回撫でて服従受け入れる。

【龍ちゃん、この子は眷属?】

【お主の眷属に成ったでは無いか】

[僕の眷属?じゃ君の名は「ドラン」よろしくね]

[ドランは龍司にティムされました]

【ほう、話ができるのか、主殿と】

[ドランあの程度で、僕を主と決めて良かったのか?]疑問に思い尋ねる。

[我の歯を耐える者など今迄おらん、相手の手の内で戦い、慈悲も有る、

それに、主様の守護が恐ろしい、同族の神、しかも異世界の同族様の神とは…、

この世界に現在、世界を守り、導く神は居りません。

我らは現在頂点に居りますが、今後人が栄える事に成るでしょう、

共に栄える光明を貴方に見ました、故に我らをお導きを…]

[解った、これからよろしく]

【龍ちゃんも頼むね】

[アーシア話は聞こえたかい?]

[はい、神の声迄聞こえました]

[なら君は今日から僕の秘書官だ、ドラン食べちゃダメだよ]

[主様、一族での話し合いの後、贄の件も含めて、今後の事を

お話がしとう御座います、長老とお話の機会もお願いします]

[捻話で連絡頂戴]

[はい、では、後日お迎えに参ります]』

 グラスカメラOFF


 ドラゴンが飛び去った後、辺りを見回しながら

「皆、出ておいで」と声を掛ける。

ワラワラと彼方此方の岩陰から顔が覗く

「姫様は食べられてないよ」「生きてるよ」「ウワ~~」

「オオ~~」「姫様~」「姫~」「バンザイ!」…

姫の周りに臣下や慕う者が集まり輪となり、さらに外周りに人々の輪ができる。

騒ぎが少し落ち着いた頃、全員の目に留まる様に、僕は5m程浮く[浮遊]

「皆、聞いて欲しい、先程のドラゴンはここに居る皆の匂い、気配に気付いていた、にも拘らず食べ様としなかった。」周りを見回す

「それは、人が神龍と交わした約束を守るかを確かめる為である。

もし、姫があの窓から口に入らねば、ここに居る者の全ての命は

失われて居ただろう」言われて、改めて認識し全員に悪寒が走る。

「ドラゴンにも心は有る、僕は彼らを仲間にするだろう、姫もだ

そして、近い将来に新しい土地に渡る、この言葉を素直に聞けて、

共に往きたいと願う者はここで契りを与える、瞑目し己の心に問え」

[往きたいか?、共に在りたいか?、心で欲せ、心で答えよ]

群衆の彼方此方で淡い光に包まれる者が続く「オ~」「暖かい」

[僕との絆は、皆との絆、繋がった絆は自ずと判る]

キョロキョロしたり、光った者を見つめる者、不安そうな者…

「瞑目し己の心に問え、の言葉以降、何も聞こえぬ者には絆は無い、

興味本意、監視役、更には見た事が信じられない者達よ、聞くが良い

見た事を有りのまま伝えよ、僕達に害を成す者は相応の罰が待つ」

姫をシールドで覆い浮かせ、宣戦布告した隣国へ向かう。

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