競売屋(けいばいや)

小深純平

第1話

僕の仕事は不動産の競売物件を裁判所から落札購入し、リフォームをして売却することである。ビジネスの舞台は関東一円である。

今回の舞台は北関東のQ市郊外にある小さな平屋である。

さて落札日。運よく落札できていた。早速、物件にご挨拶だ。鬼が出るか蛇が出るか、緊張の一瞬でもある。西側に雑草の生い茂った小川があり東は丘の斜面が迫っている。小川は蛍の名所らしく、蛍川とも呼ばれているらしい。ちょっといいロケーションでもある。そんなこともあり入札したのである。低いブロック塀に囲まれた小さな家は雨戸や窓がやれている、庭はごみが散乱し植木は伸び放題、住人の荒み具合が垣間見える。大抵、競売で家を失う人はここに至るまで大変なプロセスを経ているので疲れ切っている。

僕は錆びついている門扉を押し開いた。ゆっくりと玄関に向かった。誰かにみられているようだ。玄関わきに埃だらけの車がある。リクライニングシートに誰かが寝そべっているようだ。確かここの住人は2人のはずだ。70歳の夫、斉木則夫と72歳の妻道子だ。入札前の資料から調査済みである。たいていの場合は落札されても占有者は元所有者である。行くところがないから居座っているのが常である。僕は玄関の呼び鈴を押した。遠くで鳴っているようだ、何度か押したが反応がない(ごめんください)少し大きな声を出してみた。やはり反応がない。僕は踵をかえし出直そうと門の方へ向かった。その時、車の中に一瞬動きを感じたがなぜか不気味さを感じ(今日はもういい)と足を進めた。


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