17.本気でオンリーユー
演目は進んで最後のグループの演奏も終盤に入り楽しい時間は間も無く終わりを告げようとしていた。
小グループでの演奏が終了した吹奏楽部のメンバーは最終曲の全体演奏準備の為に舞台袖に集合し皆それぞれの表情を見せる。うまく演奏で着た者は満面の笑みを湛え、ちょっと悔いが残るもの表情は少し暗かったりす。しかし、それぞれに満足感と課題を見つけて次に繋げようとする気合は十分の様だった。
間もなく最後のグループの演奏が終了し、舞台の照明が少し落とされるのを見計らって、皆が協力して素早くステージ上の椅子の配置を慌ただしく変更する。そして、体制が整ったところで、それぞれが着席し直し、再び照明が灯されると場内は拍手喝采に包まれた。
その日最後の演目は顧問のスローなタクトで始まった。
曲はクリスマスと言うイベントにふさわしいロマンティックでメロディアスでちょっと瞳が潤んでしまいそうな『Leroy Anderson』作曲『A Christmas Festival』。会場は優しくて少し胸がきゅんとする雰囲気に満たされて、心が乗った演奏は進んで行く。顧問の吉川は少し大袈裟なタクトの振り方を見せているがコンサートの時にはいつもそうだから皆はそれを気にする事も無い。少し長めではあるが、演目はクライマックスの重厚な和音と共に劇的にエンディングを迎え終了した。
吉川は指揮台を降りて客席に向かって一礼してから吹奏楽部のメンバーを紹介する様に皆を手で指示して見せる。それに合わせて拍手の渦は激しくなりそれが段々と『アンコール』に変わって行く。吉川は頃合いを見計らって再び指揮台に上ると笑顔で部員一度見まわしてから再びタクトを上げる。それと同時に拍手は止み静けさが戻る。
凜は譜面台の楽譜を捲り、アンコール用に用意された曲の譜面を用意する。アンコールが有れば演奏する予定の曲は『STAR WARS EpisodeⅣ』のエンディングテーマ『Throne Room/End Title(玉座の間/エンドタイトル)』。クリスマスに関係無いじゃんと言う意見も出たのだが勇壮でノリが良くて気持ちよく終われるからと言う理由と個人的な嗜好で今野がゴリ押ししたのだ。
そして蘇った静寂の中、吉川のタクトが降られ演奏が始まると、凜もユーホニアムを構えて出番を待ちながら譜面とタクトを交互に見ながらタイミングを計る……しかし、始まった曲に凜は激しい違和感を覚えた。
なぜならば始まった曲が予定とは全く違う『メンデルスゾーン』の『
そしてイントロが終わる直前、摩耶が徐に立ち上がるとマイクを構えその曲を歌いながら凜に向かって近づくと彼女の横で立ち止まり、楽器を置く様に促した。
摩耶が歌っているのはは80年代のヒット曲で『竹内まりや』作詞作曲の『本気でオンリーユー』。全編英語歌詞の曲だが摩耶はそつなく歌い
その姿を後ろからピンスポットが追いかける。
莉子と紗久良が舞台横の階段からステージに上り中央まで来たのを確認すると摩耶は凜の手を取りその場所まで誘導し二人を対面させた。
「……え?」
なにがなんだか全く訳が分からない展開に凜は
しかし、今度は紗久良はその意味を理解せず、かなり慌てた様子で左右に立っている麻耶と莉子を交互にきょときょとと見つめるが、二人は微笑んでいるだけで、何も語ろうとしなかった。だが、このままでは話が先に進まないと思った莉子は紗久良の身も下で小さな声で呟いた。
「もう、良いからまず一歩前に進みなさい、そんで、凜君の指をを受け取るの」
「……え、どうして」
「凜君の眼を見なさい、何か言いたそうでしょ?」
「何か……って」
紗久良は凜の瞳をじっと見つめた。降りそそぐスポットライトの反射なのかもしれないが彼女の瞳は清々しくそして極めて真剣な輝きを見せていた。
「あ……」
その輝きが何を表しているのかに気が付いた時、紗久良は小さく声を上げ、同時に自然に頬が緩み、感動と溢れ出る思いで胸が激しく締め付けられるのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます