14.ドレスアップ
街角にはクリスマスツリー、そしてライトアップやイルミネーションの煌めきが溢れてクリスマス気分は最高潮でまさにそれ一色の中、吹奏楽部のクリスマスコンサート当日を迎えた。
会場は200人程が入れる学校近くの小ホールで小規模なコンサートには丁度いい広さが確保されていた。開演は夕方からだがリハーサルの為に部員達は午前中から会場入りして設営やら音合わせやら最終確認に余念が無かった。全国大会常連の部だと、雑用は専門のマネージャーが居て雑用は全て引き受けてくれる様だが、凜の学校は残念ながらそう言う役回りの者は居ない、全て分担作業と言う事になる。
「ふう……」
凜のグループのステージリハーサルが終わってほっと溜息を一つ。そして『お疲れさま』の言葉と共にグループは一旦解散して各自少し練習をしたり昼食の為にどこかに出掛けたりと、次の集合までそれぞれの時間を過ごす。凛は楽譜を持って正面玄関の小さなロータリーに出ると冬晴れの透き通った空を見上げて再び小さな溜息をつく。吹く風は冷たいが何故か心地良さを感じるのは今日まで十分練習を積んできて後悔が無いからだろうか。
勿論、コンサートの出来は終わってみないと分からないがおそらく
「凛、昼どうするんだ?」
後ろから声を掛けてきたのは今野だった。
「ホールの中に喫茶店みたいのが有るから一緒にどうだ?」
「あ、うん、今行くよ」
今野の後ろには今夜演奏を共にするアンサンブルのメンバー殆どが揃っていた。お昼を共にしながらの楽しい時間を過ごせることに凛は心を躍らせる。音楽は楽しい、そして仲間と過ごすことはもっと楽しいと改めて思えた。
★★★
「きゃ~~~!!凜君可愛い~~~」
全体がワインレッドのレースで出来た膝丈でウェストの部分をきゅっとベルトで結んだ少し大人っぽくて華やかだけど上品なドレスに身を包んだ凜の姿に女子部員から黄色い声が沸き上がる。と、言っても女子部員は全員ドレスアップしていて誰かが楽屋に入るその度に同じことが起こっていたのだが……そして、その黄色い歓声にほんのり頬を染める様子を見た女子はそのキュートさに再び沸立つ。
「ちょ、ちょっと派手かな……」
少し項垂れながら黄色い声を飛ばす女子達を上目遣いに見詰めつつ、おどおどしながら小さな声で呟いたが皆からのうけは上々な様で視線は全て肯定的な物だった。
コンサート当日の服装に関してどうするか、部の中で色々と意見が出て、男子は普通に制服で良いじゃんとあまり興味無さそうにしていたのだがこの年頃の女子がクリスマスと言う冠が付くイベントでそんな味気無さを許容する訳も無く、この際だから思いっきりドレスアップしましょうと言う事になり、顧問に直談判した結果、こう言う事になったのだ。そして、その話を聞いた母も超絶ノリノリで凜を無理矢理先天に引っ張り込むと、このドレスをオーダーメイドしたのだ。
もう少し身長が伸びそうだから今高い服を作っても着られなくなって無駄だからと激しく主張したのだが母はそんな意見を聞き入れる事無く、少し無理をしてしまった様だった。
反して男子は殆どが普通のスーツ姿で華やかさの
「よ~~~し、全員揃ったかな?」
笑顔で皆に呼びかけるその声を聞いて部員達は顧問の前に集まって来る。
「それでは、今日のクリスマスコンサートはイヴと言う訳では無いけれど、楽しい一時を過ごしましょう」
部員達は顧問の一言に『はい!!』という元気な声で答え、同時に結束も固める。今回のコンサートは全員合同での演奏はアンコールも兼ねた最後の一曲のみで他は数人単位のアンサンブルで構成されているから全員力を合わせてと言う場面は少なくて、どちらかと言うと個人の技量が試される。しかしそれでも一体感と言うかチームワークは必要だから凛は心の中で皆に向かってこぶしを握り締め自分の気合を鼓舞して見せる。
しかしこの時点で凛は知らない、最初の一曲と最後に一曲だけアンコールを兼ね全員で演奏する曲が有るのだが、最後の楽譜が今、凛が持っている物ではない事を。間も無く幕が上がるコンサートは彼女にとって少し波乱含みの展開となるのだがそれをまだ知らな無かった。
「あの~~~、すみませ~~~ん……」
楽屋の扉がちょこっと開いてその隙間から控えめに顔を出すものが一人、いや、その後ろにも誰かが続いて居る気配、部員の視線がそちらに向かって注がれる。
「あれ、紗久良?」
「うん、え~~~と、お邪魔かしら」
「ううん、全然、あ、良いですよね先生」
「ああ、勿論全然かまわないよ」
笑顔を崩さず吉川は紗久良を手招きして楽屋に招き入れる。
「失礼しまーす」
にこやかではあるが少し遠慮がちな紗久良は上半身が白のレース、スカートには雪景色を思わせるドレスに身を包み手には大きな花束を抱えて楽屋の中に入って来た。
「わぁ、紗久良、素敵なドレスだね」
「あはは、せっかくだからおめかしして行きなさいってお母さんが……ね」
はにかむ彼女を目を細めて見詰める凜の視線に紗久良は更に恥ずかしさを募らせる。そして、手に持っていた花束を凜に押し付ける様に渡した。
「が、頑張ってね……」
「うん、紗久良のために頑張るよ」
見詰め合い微笑む二人を取り囲んだ部員達から拍手が起こる。そんな中、部員達の輪を掻き分けてもう一人入って来る。
「はいはい、私からもね」
そう言いながら真っ赤なドレスに身を包み、髪の毛を歩にテールに纏めた莉子は今野につっけんどんに大きな薔薇の花束をバサッと渡す。
「はい頑張れ纏め役」
「え、ぼ、僕に?」
「うん、全てはあんたの双肩にかかってるんだから」
今野の瞳がぱっとピンク色のハートに変わるとまるで対戦相手をノックアウトしたボクシング選手の様に頭上に花束を掲げ高らかに叫ぶ。
「御期待に添える様に頑張ります!!」
熱く燃える少し
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