闇を渡る鳥に
浅桧 多加良
第1話
彼女が今日帰って来た。共に生まれ育った故郷のこのイマイチ、何が有るとも言えない街に。
篠崎優斗はそんな姿を見付けて自分の部屋の縁に座って、ぼんやりと窓からただ外を眺めていた。この家は自分が生まれた時からある実家。今は親と同居している。
今は、と言うのも優斗は一年前まで都会で仕事をして、この街を長らく離れていた。それまでは結構仕事も出来、かなりの高給取りとなっていた。でも、そんな有る時、自分のしている事が急に楽しくなくなると仕事をさっくり見切りをつけて辞めた。地元である街に戻るとそんな所に有るあまり優良企業とは言えない会社に勤めている。
しかしそれまでの生活よりは優斗自身が充実していると思って、後悔は全くない。都会ぐらしも悪くは無かった。でも、それは自分には合ってなかった様子。一生、雑然と恐ろしい程のスピードで流れる街で自分は暮らすのかと思った。するとこれは自分が間違っていたと思った。そして故郷の風は暖かくて優斗を迎えてくれた。
そして戻ったのは優斗だけでは無い。それはもう記憶にも無いような子供の頃からずっと近所に住んでいて、知り合いだった三浦茉由菜……今は結婚して西川茉由菜になっているのだが。そんな人間の姿を今日近所で見付けていたのである。
荷物を持ってバスから降りた茉由奈は遠目から見ただけでも昔と変わらない雰囲気をまとい、身軽に旅行かばん一つで自分の家に戻った。
恐らくは単なる里帰りなのだろうと優斗は思いながらも、そんな懐かしい人の登場にもう三十になったのに心をときめかせていた。
そんな事も有って今は意味も無く窓から外を眺めている。その目に映る風景は海が広がり遠くには船が進み更に向こうには赤く染まった夕陽が今にも沈もうとしている。
我ながら黄昏れるなんて笑えてしまう。そう考えると本当に口元が笑っていた。
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