宝くじで10億当たったので、とりあえず節約始めてみた。

炭酸そーだ

1 とりあえず宝くじ買ってみた。

 生きていると、いつ、何が起こるかは分からないものだ。

 自販機で小銭を落として機械の下に入り込んでしまったり、地震や噴火、台風みたいな自然災害なんて現代のテクノロジーでは予期できても回避することはできない。

 悪い方を考えると沢山出てくるものだが、それは良いことについても同じ。

 欲しかったものが急に50%オフでお買い得になるとか、一瞬を切り抜いた画像が万バズして一躍有名人になるなんてこともあるかもしれない。雨降っているけど、自分が外出したらその時だけ止んだとかも、ふと起こる幸運だろう。


 これは、そんな唐突に起きた出来事で波乱万丈の大学生活を送った、1人の青年の話。



                  1


 人生で1番勉強をした高校3年生の1年が終わり、俺は晴れて大学生になることができた。

 大学には必ずしも入りたかったわけでは無いが、自分の不透明な将来のことを考えると、幅を広げるためには大学行った方がいいかなーくらいの考えではあったが、今となっては大学入らなくてもとか、ここじゃなくてもとかちょっと思ってしまっている自分もいる。

 将来は作家を目指す身としては、大学生活は学を深めて様々な経験を深めつつ、創作活動をやって作品を作っていきたい訳だが・・・何をやるにもお金が必要。バイトを探さなければならない。何しようか・・・


 それが入学式の間に思ったことだった。考え事をしていたおかげで時計上は1時間半くらい経っているけど、一瞬で終わったような感覚だ。

考え過ぎたせいで分かってしまった近い将来の不安を抱えつつ、俺は大学の入学式を後にした。

 

 俺の入学した大学は駅からすぐのところにあって、目の前にショッピングモールもあって都会都会しているところだ。といっても、家の近くの方がもっと都会都会しているが・・・

 せっかくこれから4年間過ごす街なので、街探検を行うことにした。

 俺としてはこの街に求める機能はいくつかしかない。ゆっくりとパソコンを広げて作業ができるお店と本屋、これだけ。

 そしてなんと驚いたことに、目の前のショッピングモールに全部揃っている! なんて最高な環境なのだろうか。この大学に入学してよかった。

早速、執筆をしようじゃないかとそのカフェに向かっている途中にあるものを見つけてしまった。それはいつも目に付くも用がなくて見逃してしまうもの。そう、宝くじ売り場!

 近い将来のお金の不安を解決するには宝くじで1発当てるしかないよね? ほら、お店に「1等最高10億円」って書いてある。もし300円が10億円になったら・・・なんて考えると、ワクワクが止まらない。だって333万倍になる訳よ? 夢あるよね。

 まだ、300円に困るような生活はしていないので、1発当ててみることにした。売り場に行って1口買って鉛筆でぬりぬりしていく。

 あーこれ当たらなかったら、そこそこな額当たるまでやり続けちゃうなぁ。このアメリカンドリームな感じが、全国で沢山宝くじが買われていく理由なんだなぁとか考えながら、とりあえず7つ塗って終了。1発にかけて1口を抽選回数1回分だけ購入。まあ、お試しだしね。人生経験として。

 そして宝くじ売り場を後にした俺は、そのすぐ近くにあるカフェに入って21時過ぎまでパソコンに向かって執筆をつづけた。


 すっかり日が暮れるどころか閉店時間も迫ってくるまで夢中でパソコンと向き合ってしまった。家までは30分くらいなので、帰ったのはもうすぐ22時という頃。まあ家族は今家にいないし、同居人もそこを心配するような奴じゃない。

 ただいまーと言って帰宅すると良いカレーのにおい。そして奥からエプロン姿の同居人の顔が覗く。

「夕青遅かったな。俺もさっき帰ったところだから丁度あったかいカレーが食えるぞ」

「おーサンキュー春樹」

 そういって迎えてくれたのは、生まれた時から隣人で幼馴染で現在同居中の親友、中川春樹。

 中川家の両親と妹は現在お父さんの仕事の都合で福島在住なので1人暮らし、そして我らが中山家も両親が出張で姉は1人暮らし中なので、互いに生活費を節約するために両者の家族同意の元、共同生活中なのだ。基本的に部屋は両者の自宅のまま、それ以外はどっちかの家で過ごすという生活をつい1カ月前くらいから始めた。

 我々の間では、早く帰ってきた方が夕飯の準備というルールが設定されているので、先に帰ってきた春樹がカレーを作って待ってくれているわけだが、あれは昨日俺が作ったやつの残りなので決して彼の手料理ではない。

 あたため直してくれたカレーを食卓に並べてくれている間に荷物を部屋に置いて、席につく。もちろん話題は大学のことだ。

「大学の入学式はどうだったのさ。可愛い子とかいた?」

「俺が周りの女子を物色するようなことしないって知ってるだろ? でもいたんじゃないの? 大学だし」

 みたいな話や

「八景の駅前って思ったよりも充実しててさ」

「へぇ、そうなんだ。行ったことほぼないから知らなかったわ」

「スタパと大きな本屋あって、今日は結局スタパで作業してから帰って来たんだよ」

 みたいな話や

「そういえば、初めて宝くじというのを買ってみたのさ」

「ほーそれはそれは。当たったら是非俺を飯に連れて行ってくれ」

「そこそこな額が当たったらな」

 みたいな話。ちなみに春樹は4年制大学ではなく通信で大学の授業を受けつつ、母校の高校のサッカー部のコーチを引き受けている。なので入学式には行かずに、今日も確かコーチ業で朝から晩まで後輩たちとサッカーをしてきているはずだ。それでも疲れた顔や態度を見せないのは、つい最近まで現役高校生サッカー少年だったからかもしれない。

 夕飯を終えた俺は、もう数日ある大学の授業日までのモラトリアムを満喫するため、自室にこもってまた文章を打ち続けるのであった。


                 ***


 やってきてしまった大学授業初日。俺は授業後に待っているスタパでの作業を楽しみに家を出て大学に向かった。

 そこそこ広いキャンパスの中は、まだ俺には未知の迷宮のため、スクショしておいた案内図を頼りに講義室に向かう。教室に入れば、俺と同じ入学したてで友達がいないと思われる大学生たちが各々スマホいじったり突っ伏して寝たりしてい・・・なかった。いや既にクラス替えから2か月くらい経ったみたいな感じで男子同士や女子同士、はたまた男女で既に仲良くなっているグループも見受けられる。うわ怖っ。

 今まで陰キャという程、周りとのコミュニケーションは苦手としていなくて人並みに友達づきあいはしてきたつもりだったけど、ちょっとこの感じは無理だ。少なくとも俺から声を掛けてってのは無理そう。こういう時はパソコン開けて続きを書くとしよう。

 俺が書いている文章はライトノベルチックなものやザ・小説みたいなもの、はたまた論文や批評みたいなのも書いていて、推理小説とかも書いている。それを投稿サイトに投稿して、まあそこで止まっているんだけど、ありがたいことに沢山の人に見てもらえていて、それが創作活動の意欲になっている。

 そもそも俺は文章を作るのが好きみたいだ。綺麗な景色を見たら写真を撮るのではなく、メモ帳を開いて書き起こす。美味しいラーメンに巡り合ったら、写真を撮ってSNSに投稿するのではなく、完飲完食してお店を出てから、その美味しさが伝わる様に文章にする。

 だから俺は自分の思ったこと、考えたこと、想像した世界を文章にしてみんなに知ってもらいたいのだ。そのために暇さえあれば文章を書いて投稿する。そう、俺からすれば、小説の投稿というのがツイートみたいなもので・・・

「・・・の、あの。すいません」

「うぇ! っっ! あ、はい。すいません聞いてませんでした。何でしょう。」

「やっと気づいてくれた・・・あの、その席空いてますか?」

 そういって、俺の隣の椅子を指す女子は綺麗な顔立ちをしているが目の下にクマをつけた人だった。

 自分の世界から戻ってみれば、既に教室は満席に近い状態で、もしかしたらここしか空いてないかもしれないぐらいの感じだった。

「あ、はい。空いてますよ。」

「では座らせてもらってもいいですか?」

 断る理由もないので「もちろん」と答えると、その女子は俺の隣の席に座ってきた。

結局、隣の女子はおろか、他の人たちからも会話を持ちかけられることもなく、その講義は終わり、次の授業のために移動することになった。


 2時間目は同じ学部で同じコースの人たちだけが集められた授業のようで、授業の冒頭で自己紹介をする場面が設定されていた。30人くらいの前で自己紹介をするということだったが、その中にはさっきの女子もいた。

 自己紹介曰く、杉田陽菜さんと言うみたい。

 とか思っていたら次に呼ばれたのは俺。「す」の次が、タ行飛ばして「な」とはそんなこともあるのか。

「中川夕青です。夕青は夕日が青いと書きます。不思議な組み合わせですが覚えられやすいので気に入っています。よろしくおねがいします。」

 という無難な自己紹介で乗り切った。これ、どこでも使っている自己紹介の定型文になっている。

 まあそれ以外は初回授業ということでガイダンスのみの普通の授業。そのあとも昼食を挟んで1コマあったが、それも同じような感じで終わった。

 いや、お気づきかもしれないけど、今日は他の人に声を掛けられなかった。うん。明日こそは・・・!

 ・・・声、掛けてもらえたらなぁ。俺からは掛ける度胸がない。


                 ***


 あれから数日経って今日は週末金曜日。朝起きて飯食って大学行って文章打って帰るという生活は結局友達を増やしてくれなかった。まあそれもそうだわな。

 そんな現実に打ちひしがれて家のリビングで伸びていると、春樹に脇腹をつま先で小突かれながら

「大学ってそんなに夢ないの?」

「ああ、俺みたいなコミュ力高い人に寄生していくタイプの人間では社会で生きていけないんだぞと言うことを痛感させられたよ・・・」

 ああ、大学生活って夢ないのな。悲しいわ。

 そんな俺のポケットでスマホが一震え。なんかの通知みたいだ。開けてみるとそこには「宝くじ結果発表‼」と書かれている。ああ、あれね。気まぐれで買った夢の1口。

「そうだ! 宝くじで大金当てて友達を買えばいいんだ! グヘヘ、友達何人買えるかな・・・」

「お前、そんなにこじらせるほどコミュ障じゃないだろ。お、でもあの宝くじの当選結果出るの今日じゃなかったっけ? 見てみようぜ!」

 俺は友達を買うための資金・・・もといバイトをしなくても金策に困らないための大金をゲットできるかもしれない夢のウェブサイト(当選結果のサイト)を開き、読み込み中の間にリビングの書類入れに挿していおいた宝くじを手に取る。

 すると・・・

「な・・・なんと・・・」

 俺は、そうつぶやくのだった。

 サイトに掲載された2桁の数字が7つ、そして俺の手元にはサイトと同じ数字が塗りつぶされた紙切れが1枚。


そして俺がこれを確認した瞬間、この紙切れは一瞬にして10億円の小切手に変わったのだ。


「おい、夕青どうした?顔色悪いぞ?」

 そう聞いてくる春樹。

「いや、あの、え?ちょっと春樹の目も貸してくれない?」

 そういって、春樹に小切手とスマホを渡す。数秒程経つと春樹は無言で俺にスマホを返すと、テーブルに小切手を置き、そのすぐ下で急に五体投地し始めた。

「夕青、これは神様の授けものだ。この紙、いや神より頭を高くしていては、大変なことが起こるぞ・・・」

「いや、そんなことしなくても既に大変なことが起こっているんだよ。」

 そんなおふざけは程々に、俺らは改めて、その数字を塗りつぶした紙を確認した。

 

どうやら俺は宝くじで1等10億円を当ててしまったようだ。


 これは紛うことなき1等当選。サイトに書かれている当選額は1,000,000,000円。決して往年の1,000,000,000〇クではない。現在の価値での10億円だ。あー10億米ドルだったら1300億円なんだけどなぁ。

 とはいえ、高額当選。何をしていいか分からない俺たちはとりあえず深夜まで当選したくじに対して五体投地を続けてそのまま眠りにつくのであった。

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