柘榴

Aoi Midori

第1話 10月

 柘榴ザクロの実は、人間の肉の味がすると言ったのは誰だったか。そんな事を思いながら私は柘榴の木を見上げていた。


 あれは昨年の10月頃の事であった。私は薬を受け取りに、病院まで30分の道程を歩いていた。草花や樹木、虫や鳥などが目に付く。そんな景色を楽しみながらなので、30分はさほど苦痛ではなかった。途中からウォーキングロードになっているため、それも楽な理由だろうか。ふと、赤い色が目に飛び込んできた。目が悪いにも関わらず普段歩くときは眼鏡をかけない私は、眼鏡を鞄から取り出しその赤いものを確認して


「ああ、柘榴か」


と呟いた。烏が突ついて落としたのか柘榴の下の駐輪場の屋根にいくつかの実が落ちていた。この柘榴の所有権は団地の管理組合にあるのだろうか?一つ貰えるなら貰いたいものだが……用の無い方の立入は禁止と書いてある看板が有るため素直に諦め、スマートフォンで撮影だけして病院の用事を済ませた。高コレステロール血症とアレルギーの薬を薬局で受けとると帰宅の途についた。


帰り道、ウォーキングロードの途中の休憩用のベンチで果物の移動販売のおじさんが居たが、客の姿は無い。売れているのか気になったが、横目で見ながら素通りした。


 帰宅後、人の肉の味の由来を調べようとスマートフォンで、柘榴のWikiを読んでみると


『釈迦が、子供を食う鬼神「可梨帝母」に柘榴の実を与え、人肉を食べないように約束させた。以後、可梨帝母ハーリーティーは鬼子母神として子育ての神になった。柘榴が人肉の味に似ているという俗説も、この伝説より生まれた』


と書いてあった。仏教が由来だったとは……。


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