学校一の超絶天才美少女は幼馴染の俺にだけ冷酷なようです

シア07

プロローグ

 桜がひらひらと空を舞い、暖かい風が吹いていた。

 今日は4月21日。高校の入学式から約2週間が経った頃だ。


 俺、桐島正義きりしままさよしはそれを教室の窓から外の景色をじっくりとながめていた。

 机にひじを思い切りつき、気だるそうにする。

 ちらっと半開きの目で時計をみる。

 まだ、8時12分。ホームルームすら始まっていない朝だ。

 

「はぁ…………まだ朝か……帰りたい……」


 今日は月曜日。

 あの天国のような休みの日が終わったばかりのせいで学校にいくのですらダルすぎる。

 特になにかしたわけでもないのに、頭が痛いくらいだ。

 

「なんだよ、正義。もうそんな感じなのか。せっかくの学校だっていうのに可哀想な奴だな」


 俺の目の前でそういうのは片岡正平かたおかしょうへいという男だった。

 男らしい身体つきで非常に暑苦しい奴である。

 席が近いということで入学初日に話しかけられ、いまもその関係は続いている。


「うっせえ。俺はお前みたいに学校を好いてるわけじゃないんだ。正直にいえば、今すぐに退学したい。それで家でずっと漫画なり、ゲームなりしていたいんだ」


「なんでだ、学校って楽しいだろ。授業はちょっと退屈かもしれんが、友達はワイワイ話せるし、昼食はみんなで囲って食べる。ほら、想像しただけでもワクワクしてくるじゃないか!」


「それはお前みたいな陽キャだけな」


 俺のような陰キャとは住む世界が違う。

 だから、見ている世界も違うのだ。

 俺の本来の学校生活はこうだ。

 

 朝、面倒くさそうに学校に登校。4限目までほぼ寝て過ごす。

 そして昼だが、友達もいないので当然一人。

 それも教室や食堂で食べようとすると一人だということが目立つので学校のすぐそばにある森のなかで食べるという毎日。


 ほら、自分の生活を振り返って見るだけでも酷いものだ。

 考えたくもない。

 これで学校に今のところ毎日来ているのだから、なにか賞でも貰いたい。

 毎朝起きて学校に来るだけでも褒められる社会であって欲しい。 


 そんな暗いことを熱心に考えていたところ、正平がそれに気づいたのか、


「まあ、とにかくだ。学校はまだ始まったばかりだ。もう少し楽しんでいこう。俺も楽しんでくれるよう協力するからよ!」


 右手でいいねのポーズを作る。


「はいはい。……ありがとな」


「なんだよ、その言い方」


「別に……なんでもない」


 俺は思う。

 どうしてカーストの違う陽キャが俺と友達になれたのかということか、だ。

 たしかに席が近かったのは大きい。

 だが、普通に話せる仲になるとは思わなかった。

 それも下の名前で呼び合うほどに。


 まあ、それでも親友というわけではなく、正平はいつもは完全陽キャで構成されているグループに入っている。

 昼食とかで数回ほど見たことはあるが、次元が違った。

 全員がキラキラと輝いていた。


「そりゃ……そうだよな……」

 

 俺は誰にも聞こえないくらい小さな声でそういって深くため息をつく。

 現実は厳しく、世辞辛い。

 俺のような弱者はとうたされ、強者のみが生き残る世の中だ。

 友達も正平以外作れないのだから、こういう生活になるのも当然だ。


 俺は正平の方から目を逸らす。

 その先にちょうど……彼女はいた。

 

 彼女は友達と話しているようで、にこやかな笑みを浮かべていた。

 その笑顔と透明感のある青白い髪のポニーテールがとてもマッチしており、ほとんどの視線は彼女に向いていた。

 俺は名前をつぶやく。


天寺璃々あまでらりり…………」


 陽キャのなかでも男女ともダントツで人気が高く、入学してまもないのにもかかわらず、全校生徒が知っているくらいに有名。

 それでいて、天才の彼女。

 それが天寺璃々だった。


「なんだ…………正義ってもしかして、天寺さんを狙ってるのか!?」


「馬鹿、声がデカい。聞こえるだろ。ていうか、俺は狙ってなんかいない」


「嘘つけ。声に出して名前を呼ぶとか、明らかにおかしいだろ!」


「だから声がデカいって……」


 彼女は友達と熱心に話しており、気が付かなかったようだ。

 よかったと安堵する。


「……大体な、俺が恋だの愛だのあんな偽りだらけのものするわけないだろ。非効率だしな。勘違いし過ぎだ」


「効率ってお前な…………恋はあれだけ楽しいっていうのにもったいないなあ。した方がいいって」


「……大きなお世話だ」

 

 本当はわかっている。

 自分のこんな性格が友達すらできない原因だってことくらい。

 みんなとは違うおかしな性格だってことも。


 だけど、嘘はつきたくない。

 恋が嫌いなのだから仕方がない。

 そう思う。

 

 だが、一つだけ問題があって。


「ていうかよ、だったら俺と席交換してくれよ」


「なんで席なんか交換してほしいんだ?」


「だってよ、お前の席の隣…………天寺さんじゃん。狙ってないならいいだろ。俺はもっと可愛い子と話したいんだよ」


 そう、俺の隣は彼女なのだ。

 俺が望んだわけではなく、名前順のため強制的にそうなった。

 

「俺に言われても仕方がないだろ。担任の先生にでも言えよ」


「だって、そんなの絶対ダメっていわれるだろ。そんな不純な理由はダメですってな」


「じゃあ、無理なんだ。諦めろ……」


「うぅ……クソ……」


 そんなことを言い合っていると、ちょうどチャイムが鳴り、全員が席に着いた。

 正平は前を向き、ドアから担任の女の先生が入ってくる。 

 隣をチラッと見てみるよ、


「…………なによ」


「…………なんでもない」


 彼女がいた。

 さっきとは違う彼女がいた。


「ほんと…………最悪。なんであんたなんかと隣なのよ」

 

 満面の笑みも、優しい言葉遣いも態度も違う。

 周りに見せる人格と俺に見せる人格が別なのだ。


「隣って…………みんなさっきからそればっかりだな」


「なに言ってんの。気持ち悪いんですけど、ていうか、私の独り言にいちいち変なこと言わないで」


「独り言なら俺のいないところで言っていてくれ」


「いいじゃない。私の勝手でしょうが」


 ふんと言わんばかりの表情で俺から目を離す。

 俺は深くため息をつく。

 

 こんな俺たちだが、たった一つだけ関係……秘密がある。

 このクラス、この学年、この学校の誰も知らない秘密。

 それは、


「あんたと幼馴染だなんて…………不名誉だわ」


「俺の方こそ、こんな裏表に違いがありすぎる奴と幼馴染だなんて思いたくない」


 俺たちが幼馴染だということだ。



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