君は毎日傘を忘れる。

君は毎日傘を忘れる。

物心着いた時にはもう一緒にいた。家は向かいだし、両親は中学からの同級生同士。いわゆる幼なじみと言うやつだ。


小学校も中学校も1クラスしかないこともあり僕達はずっとお互いを知りながら成長した。毎朝君が僕を迎えに来て、時々一緒に朝ごはんを食べて学校に行く。それが小さい頃からずっと僕らの毎日だった。


小さい頃は人見知りの激しかった君はいつの間にか誰とでも喋れるようになって、僕はずっと君に頼っていた。


高校になって急に人数が増えた時に友達ができず、落ち込んでいた僕を励ましてくれたことも覚えている。あの時は、慣れない環境でどんどん自信がなくなって言った僕のいい所を褒めるって言って、笑い出しちゃうくらい一生懸命に僕のことを褒めてくれた。気づいたら大きな声で笑っていて、君も少し不思議そうな顔をした後に、僕と一緒に笑いだした。たくさん笑って面白いからって携帯のカメラで写真を撮ろうと思って、画面越しに君を見た時、いつの間にこんなに綺麗になったんだろうって思った。


それから僕は自分の自信が無いところなんてどうでも良くなって、今まで通りに過ごしていたら、こんな僕と仲良くなってくれる友達も何人かできた。君に比べれば少なかったかもしれないけど、君のおかげで高校生活を楽しいと感じることができるようになった。


廊下ですれ違った時とか、君のクラスが体育の時とか、君は僕を見つけるといつも手を振ってくれた。本当は嬉しいのにちょっと恥かしくて、僕は手を振り返すことが出来なかった。


完璧に見える君でも、一つだけ大きな苦手があった。それは忘れものが本当に多いこと。

お詫びのお菓子を持って君は僕のクラスのドアを叩く。僕のクラスでも忘れ物を借りに来る人として君は有名だった。教科書やノートはもちろん、財布や携帯、何度かカバンも忘れたこともあった。そそっかしいんだから気をつけなよって口では言っても、忘れ物をして僕のところに走ってくる君も大好きだった。



僕らの高校生活最後の日もいつもと同じように始まった。僕の家で一緒に朝ごはんを食べて、一緒に雨模様の天気予報を見て君はきっと大丈夫だろうと呑気に笑って傘を持たずに家を出た。僕はそんな君を追いかけて、1本だけ傘を持って家を出た。2人で信号を渡ってすぐに雨が降り出した。君の家まで30秒。君はこの距離だし傘を取ってくる、ちょっとだけ待っていてと雨の中を走り出した。


僕は雨で滑っていくトラックの背中を見た。





君は毎日傘を忘れる。信号を渡って思い出す。春も夏も秋も冬も、雨の日も、晴れの日も。君は傘を忘れて家に走り、僕は毎朝信号の下で君を待っている。



君は毎日傘を忘れる。

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君は毎日傘を忘れる。 @Enn_Urui

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