AYAKASHI ~雷刻の書~

Emotion Complex

序章

 死ぬのかな、ボク――。

 タイセイは、意識が泥に沈むような感覚を人ごとのように感じていた。

 意識が薄れゆくと、今度は引き戻す痛みがあった。

 左腕と腰と左脚、そして首の後ろ――クフノセという〈あやかし〉に玉を埋め込まれた箇所である。

 その玉が痛みとなっているのだ。

 それぞれが互い違いに暴れ、時には同時にタイセイを押し潰した。

 そんな痛みの隙間に、タイセイはふと気が付いた。

 玉は五個埋められたはず――。

 肉を引き剥がすような激しい痛みが四箇所しかないのだ。

 意識が沈殿と覚醒を繰り返し、時間の概念は喪失していた。

 それでもタイセイは自分を見失わないように必死であった。

 玉が初めから五箇所あったのかなんてどうでも良い――と、タイセイは思った。

 一箇所増えようが、それは自分の問題だからだ。

 痛みが引き、意識が拡散しない時に思い浮かぶのは、捕まった村人たちの安否であった。

 気の良い仕立て屋のおばさんや気難しい鍛冶屋のおじさん、怪しい雑貨屋や、商売下手な食品店――そんなに小さい村ではないが、知らない人間の方が少ないかもしれない。

 捕まった中にはタイセイの父親や弟もいる。一緒に戦った仲間もいる。

 そして、幼馴染のエイミもいる。

 襲撃による犠牲者はいないはずである。

 まともに戦ってもいないのだから――。

 〈あやかし〉が徒党を組み、人間に反旗を翻した。都は既に制圧され、今度は地方へとその魔の手を伸ばし始めている――そんな噂を耳にした。

 それが噂ではないと知った時から、バドウ村は総出でそれに備えてきた。いつ攻められても対応できるように訓練をした。全員で村を守ろうと誓ったのだ。

 タイセイは元々、自らを鍛えていた。父親の農作業を手伝いながら、格闘技を自力で習得した。ランタク寺で剣技も習ったが、格闘技ほどは上達しなかった。

 それでも自警団に入った時、俊敏性を買われ、先陣を切れる存在になっていた。

 たとえ一人になってもみんなを守る――。

 その自信は一瞬で砕け散った。

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