片目隠れの物真似少女〜友達を作れと言われて学校へ行く〜
千矢
第1話 物真似少女は受験をする
「なあ、綾那……学校行かないか?」
「……今さら?」
朝から父さんに呼び出されたと思ったらこれだ。
私はとある理由で小学生の途中から今の中学生に至るまで一度も学校に行っていない。
「父さんも綾那が行きたくない理由は知っているんだけどな。いや、行きたくないなら行かなくて良いんだけど……思春期の女の子なんだし友達の1人や2人作ってみても……せめて高校くらいは行ってみたらと思ってな。しかし綾那が傷つくくらいなら行かなくても全然――」
ぶつぶつと呟くように色々と喋る。行ってほしいのか行って欲しくないのかどっちなの……?
「別に行っても良いけど……私が勉強なんて出来ると思う?ましてや受験なんて受かるわけないし」
これまで本当に勉強してない。今さら勉強する気にもなれないし、しなくても生きていける。
もし受験に受かったとしてもこれまで人付き合いという人付き合いが父さんやギルドの人たちしか居なかったから友達なんて出来る気がしない。
そう思っていたのだが父さんは何故か明るい顔で私のことを見てきた。
「受験については大丈夫だ!異能科のある高校ならほとんど勉強しなくても綾那なら受かるぞ。まあ、問題は面接だがそれは父さんがコネでなんとかしてやる」
「いや、コネはやめて」
笑顔でコネ使うとかギルドの会長が言うものじゃない。
父さんの権力ならいけるだろうけどコネで入るとか後ろめたすぎて学校に行けなくなる。
しかし異能科かぁ。確かにそこなら私でもなんとかなるかな?
「あ、ちなみに受験まで1ヶ月しかないからよろしく」
「無理ゲーじゃん!」
そんなこんなでするつもりのなかった高校受験をすることになった。
どこも受ける難易度は変わらないので家やギルドからそこそこ近い高校を選ぶことにした。
「はぁ……流されるように了承しちゃった」
トボトボと適当にギルド内を歩く。
お腹空いたしコンビニで何か買うか。
「サンドイッチ……いや、このハンバーグ弁当もいいなぁ。ふむ、悩む」
シンプルにおにぎりも食べたくなってきた。
ガシャン
「なんか凄い音した気がする」
レジの方からコンビニ全体に響くレベルの大きな音がした。
様子を見にチラッと覗くと覆面を被った男がレジの店員にナイフを持って脅していた。
もしかして強盗?面倒な事になっちゃった。
「早く金を出せ。この時間帯はバイト1人で異能持ちがいない事は確認済みだ」
「ひぃ……!」
ナイフを近づけられて怯えた声を上げる。
あの店員も可哀想だね。
「客も逃げるんじゃねぇぞ!俺は異能持ちだ!通報しようとしている奴は真っ先に殺す」
数人の客が異能持ちと言う言葉でスマホを触るのをやめてしまう。バレる前に通報しようとしたんだね。誰も通報しないなら私がしちゃおっかなー。
せっせとお金を袋に詰める店員を横目にスマホを取り出して通報しようとした。
ちなみに通報するのは警察じゃなくて普通に父さんに電話ね。ここから近いし警察より早く来るでしょ。
「おい、お前……何している」
「何って通報?」
レジから死角だったしバレないかなと思っていたんだけど普通に巡回していたらしく通報しようとしているのがバレてしまった。
「殺すと言っただろ。死ね」
躊躇なく私に向かってナイフを刺しにかかる。
この強盗、戸惑いなく人を殺しに来たね。
「はぁ……」
私はナイフを避けてから腕を掴んで押し倒した。
「な、に……?」
「お腹空いてるんだから無駄な労力を使わせないでよね。今日は朝から呼び出されて眠いし」
ぐちぐちと強盗に言うが全く聞いていないようだ。何が起きたのか理解出来てないらしい。
この強盗、やけに力が強い……そう言うタイプの異能ね。
「何故、俺が力で勝てない?!俺の異能は怪力だぞ!」
やっぱり自分の力が上がるような異能だったらしい。珍しくもなんともない至って一般的な異能だ。
「あーはいはい、怪力なのは分かったから。人を殺すなら殺される覚悟があるってことだよね?」
「まさかお前も――」
強盗が何かを言う前に押さえていた腕を思いっきり折る。
力が上がっている割に簡単に折れたのを見ると異能に頼っているだけで身体を鍛えているわけではないらしい。
「ぐああっ!」
声を上げて強盗が暴れる。
「そもそもさぁ、そんな汎用性の高い異能があるなら強盗なんてせずにダンジョンにでも入ってモンスター倒せば良いじゃん」
「そ、それは……」
おおかた、モンスターより人間相手の方が楽だと思ったんだろうけど。
「まあ、理由なんて言わなくて良いよ。そう言うのは警察がやる事だし……」
「グフっ!」
暴れられて抑えるのも面倒くさくなってきたので適当に殴って気を失わせる。
外から警察の警報が聞こえた気がするので誰かが通報したのだろう。
「はっ!このままだと警察に事情聴取とかされてご飯が食べられない……!」
それはまずい。仕方ないがサンドイッチなどは諦めて別のところで買う事にしよう。
私は急いでコンビニから出て行った。
「お、お腹空いた……」
グーッとお腹が大きな音を鳴らす。周囲には誰もいないけど聞かれていたら恥ずかしいレベルの音だ。
警察が来る前に出ようと全力疾走をしたため、さらにお腹が空いてしまった。
「あの強盗め、今度会ったら腕だけじゃ済まさないから……!」
結局、ご飯はいい匂いに釣られてラーメン屋でラーメンをと炒飯を食べた。美味しかった。
「綾那〜、何見てんの?」
「暁月高校のパンフレット」
ラーメンを食べた後は父さんに貰った私が行く予定の高校のパンフレットをギルド内で見ていたらギルドの人が話しかけてきた。
ギルドの人は沢山いるのでこの人の名前は忘れた、誰だっけ?
人の名前覚えるの苦手なんだよね。
「綾那が学校?!どう言う心変わりだよ」
机をガタッと揺らして手を後ろについて倒れる。
そんな驚く?ってくらい驚くじゃん。
「父さんが友達作ってこいって今朝言われた」
「あー……」
何その声……憐れむような目で見ないでくれない?
「おい、みんな聞いてくれよ!綾那が――」
いつのまにか起き上がっていたこの名無しさんはギルド中に私のことを広め始めた。
「綾那が学校……だ、と?」
「綾那が……ねぇ」
「小さかった綾那ちゃんがついに学校に……!」
「今も小さいだろ」
名無しさんが広めたせいでめっちゃ注目されてる。あと小さいは余計。
「誰今小さいって言った奴……ぶっ飛ばす」
やばいと思ったのか私を見ていたギルドメンバー全員が目を逸らした。
小さくないし……背は、まあ、13歳で止まったけど……胸の方はまだまだ成長、して、いる……はず。うん。
「まあまあ、とにかくギルメン全員が綾那のこと応援するから受験頑張れ」
「うん、ありがと」
なんだかんだ言って応援してくれる優しい人たち。別に私はこのギルドに所属してるわけじゃないけどね!
「暁月高校なら出身の奴がちらほらいるだろうし話を聞いてみたらどうだ?」
「あっ!私、暁月高校出身だよ!」
「俺も――」
その後は暁月高校出身のギルドメンバーから色々と話を聞いた……というか聞かされた。
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