05|警察と超能力

【石住大】

「あ〜、確かにそんな話が一時期話題になったな。そういう経緯があったのか」


【鍋島吾郎】

「思い出した。ナントカ波が送られ、遺伝子異常の可能性があるってやつか。だがいつの間にか報道もなくなったが」


【暁増結留】

「結局、身体に変異が起こらなかったり、能力があっても超能力自体に気づかない、微弱すぎて発動しないなど、ほとんどの人に影響がありませんでした」


【雨夜想】

「国会では今も議題として上がってますが注目されていません。緊急性が高いわけでもありませんから、情報の伝搬とはそういうものなんだと思います」


【昼埜遊人】

「今でも騒いでるのは陰謀論者とか活動家とかその辺だしな、一般人は避けるようになってる」


【石住大】

「確かに、当時は騒がれたけど、家でかめはめ波とかゴムゴムの〜とかやったのに何ともありゃしない。次第に興味失った話題だな」


【朝陽乃日凪】

「いい大人がそれやったんだ……」


【石住大】

「お、大人だからって構わないだろ! オフぐらい好きにさせてくれ」


【暁増結留】

「ですが、中には超能力が覚醒し、精神障害や他者に危害を加えてしまうケースが出てきました」


【石住大】

「さきほどの公園での状況がそれか……」


 超能力が原因にもかかわらず、解剖医の誤診、科学捜査の誤認逮捕、裁判での警察の証拠不全など、超能力か既知の症状かの判断がつかない状況が生まれた。


【暁増結留】

「元々が非合法から生まれた技術で、世界的にも禁止され続けていますから、科学的な検証を行うにも制約が多すぎて、現象の解明が追いついていないのが現状です」


【昼埜遊人】

「そこで俺らの登場ってわけだ」


 ニハハ、と昼埜は手を頭の上に組んで笑う。


【鍋島吾郎】

「目には目を……お前らが罪を犯した超能力者を捕まえるってわけだな」


【朝陽乃日凪】

「そーゆうことです。能力者には能力者をってことですね」


【石住大】

「そうなると、大原殺しは普通の殺人に見せかけた、超能力者による殺人ってことなのかい?」


【暁増結留】

「現状では可能性があるとだけ。様々な状況が考えられるので、断定はまだできません」


【鍋島吾郎】

「どういうことだ?」


【暁増結留】

「実行犯は別で超能力者が共犯、実は被害者で強制的に力を使わされてる、意図せず能力を発動させているなど、超能力者が犯人ではない色々なケースがあります」


【石住大】

「なるほど……確かに」


【暁増結留】

「極端な話、超能力で人を殺せるような者がいた場合、凶器は発見されず逮捕すらできない未解決事件となります。そうなると都道府県警では対処ができないため、新設された警視庁の僕らSJPDが全国に出向して調査をするんです」


 説明ばかりで申し訳ないが、警察の組織構造も補完しておく。日本は「都道府県警察制」を採用しており、他所から干渉を受けない、47都道府県警察組織が存在している。警視庁や府警、県警察などは、『全て独立した組織』であり上下関係はなく全てが平等なのである。


 例えば神奈川県の有力地主関係者が長野県で犯罪を犯した場合、その地主による汚職が蔓延って神奈川県警が長野県警に圧力をかけても、長野県警に対して指揮権限はないので通用しない。


 警察は各県の大人の都合に影響されない、それぞれ自治が行き届いた制度なのである。


 ドラマなどで刑事同士が縄張り争いをする場面があるが、この制度が元となっている。

 実際は緊密に連携するため諍いはまず起こらない。学生なら委員会など他クラスとの連携、社会人であれば他部署とのやり取りを思い返せばわかりやすい。問題を起こす者は難ありで、採用されないだろう。


 この制度のため、警視庁で採用された者はずっと東京都の事件を担当することとなる。出向することがない限りは基本採用された自治組織の事件に当たるのが警察官の役割だ。


【暁増結留】

「ですが、僕らが近いのはアメリカのFBIのような存在ですね。州をまたいだ連邦捜査官と同じようなものです。東京の警視庁所属ですが、他の道府県では対策部署がないため、超能力が使われれば沖縄から北海道まで調査しにいくこともあります」


【石住大】

「えっ、FBI? そうか、君はアカデミーを卒業してたんだな。なんか、そう言われるとすごそうだ」


 ドラマで見て畏敬の念があるのか、石住は尻込みする。その様子に暁は少しだけ苦笑する。


【暁増結留】

「FBIも初期は役立たずと思われていて、州警察は霊能師を頼ることもあったそうです。それでもシリアルキラーの異常な犯罪を検挙するために、心理分析、行動科学理論を地道に積み重ねていきました」


 FBI行動科学課が発展し始めた当時は、怒りや嫉妬、貧困、利害による殺人などわかりやすいものではない、殺人衝動によりただ殺しを重ねてく、という人間がいることは信じられていなかった。州の警察官も犯罪に理屈が通らず理解ができないため捜査のしようがなく、頼る指標がなかったのだ。


 同じように、まだ表面化していない超能力を持った人間による犯罪は、数が少ないが未解決事件となっており国際的にも対処が急務となっていた。


【暁増結留】

「体系化し、人々が認知するまでには時間を要します。FBIも設立当初は裁判での行動分析を証拠として認められませんでしたが、現在では有力な証言として認められています。僕たちもそれと同じように、今はまだ一般には認知されづらい超能力の犯罪に対処をしているんです」


【鍋島吾郎】

「……なるほど。だが刑事は検察が立件するために証拠を集めるのが職務だ。裁判で超能力なんてもんが証拠として認められるのか」


【暁増結留】

「被疑者の検査結果と、僕らの部署が制作する証拠資料によって判断される仕組みが法律で出来上がってます。ですが、施行も最近になってできたので、法律に抜けがあるのも確かです。時間をかけて立法府と調整し、より厳格な形に導いてくのも僕らの仕事です」


【晩過誠】

「この部署の資料が裁判を左右するのは間違いない。昼埜、朝陽乃。お前らもうちょっとマシな調書作ってこい。検察から文句はくるわ上からは注意されるわ、俺の身にもなれ」


【朝陽乃日凪】

「……おっかしーなぁ。ちゃんと作ったつもりなんだけど」


【昼埜遊人】

「うっわ理不尽。資料承認したの晩過さんじゃーん」


名指しされた二人の捜査員は口を窄めて抗議をした。


【石住大】

「しかし、そんなSFチックな話となると、自分たちに出番はあるんでしょうか? 命令もありますし協力は惜しみませんが……言っちゃなんですが、さっきの通り魔を見ても対処できるとは思えません」


【晩過誠】

「いや、超能力といっても一般人が一つ特技を持ってる程度のもんだ。むしろ従来の捜査手法がより重要になってくる」


【鍋島吾郎】

「敷鑑や地取りだな。やることは変わんねぇってわけだ」


 『敷鑑』とは被害者や関係者に聞き取り調査をすることで『地取り』は不審者情報を探す調査のこと。一般人に聞き込んだり、現場刑事がよく行なっている捜査がこれである。


 暁は鍋島の言葉に頷いた。


【暁増結留】

「新しいものが出たからといって、古いものが必要なくなるわけではありません。むしろその古さが重要になってきます」


「近代警察が作り上げた百年以上の歴史、これは国と国民の資産です。過去の土台があるから僕ら新しい部署が専門として対処できるわけです。所轄の皆さんのみならず、警察にかかわる全ての人が欠けては事件は解決できません。政治家殺しの本事件、ご協力よろしくお願いします」


 頭を下げて礼をする。他の学生捜査員も、よろしくお願いしますと頭を下げた。


【鍋島吾郎】

「子供のくせに賢しらな。お前らの年齢ぐらいならな、もっと大人に反発を覚えるもんだぞ」


【暁増結留】

「逆になぜ今の大人は社会へ反発ばかりしているのですか。せっかくの情報化社会でよりよい環境なのに、ネットを見るとノイズが多すぎます」


【石住大】

「それはまぁ。。色んな理由があるからねぇ。暁くんがまだ子供だってわかって親近感が湧いたよ」


【暁増結留】

「そういう言い方、それこそ反発を覚えます。大人にならないとわからないと言うんでしょう、ずるいです」


 表情こそあまり変わらないが、ブスッとしているのが見て取れる。


【鍋島吾郎】

「かかか、なるほど子供だな。で、だ。お前らの超能力ってやつは見たが、もう少し詳細に説明してくれんか。協力するにしても、どう接して捜査に組み立てればいいのか皆目検討もつかん」


【雨夜想】

「確かに。成り立ちの説明だけで私たちのことはまだでしたね」


【昼埜遊人】

「だな。実際にもう一度見せて説明したほうがわかりやすいだろ」


【朝陽乃日凪】

「ですね! ぜひもう一度見てください〜」


 そうして、学生捜査員たち四人の超能力についての説明が始まった。

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