実録!極悪奴隷商人ゼゲンスキーの非道
マコンデ中佐
第1話 百年早い
大陸の南に位置するトアル王国の王都に、極上の美女、美少女のみを扱うと評判の奴隷商人がいる。大通りの一等地に
「ようこそいらっしゃいました。私が当商会の主ゼゲンスキーでございます」
名乗りと共に慇懃に頭を下げ、応接テーブルの椅子に腰を下ろす。オールバックに撫でつけた髪は黒々として中年とは思えない端正な顔立ち、全身黒の三つ揃えに身を包む身体は上背も肩幅も人並み以上というこの男が、王都でも有数の奴隷商人だ。
「アーガスです。S級冒険者です。今日は奴隷を買いに来ました」
テーブルの対面で来客用のソファーに座っているのは、常人には持ち得ない異能力を以って急速に地位を高めた若い冒険者だ。見るからに高価な装備を身に着けて、脇に立てかけた長剣は一級品の業物。黒髪と黒い目の顔立ちはまだ幼さを感じさせる青年で、その優しげな目元は良く言えばハンサムだが、優柔不断のようにも見える。
話す口調には見た目と肩書に反して覇気も自信も感じられず、自己紹介の内容にも知性が感じられない。
何故このような「ぽやん」とした若者が女の奴隷を欲するのか、しかしゼゲンスキーは相手の動機に興味を持たなかった。
「お引取り下さい」
「はい?」
「貴方にお譲りできる奴隷は当商会にはおりません」
「何故だ!」
薄く微笑む接客スマイルを崩さぬままに発された言葉に、冒険者アーガスは豹変した。やおら立ち上がると拳を握りしめる。
「ボクは!奴隷として売り買いされる気の毒な女性を一人でも助けたいんだ!辛い思いをしているその娘に優しくしてやりたんだ!それが夢なんだ!ロマンなんだ!」
決然とした表情で独善的な熱弁を振るう冒険者にゼゲンスキーが目を
「少々の小金を手にした程度で、冒険者風情が奴隷を求めるなどおこがましい。人ひとり買おうと思うなら、事業のひとつも立ち上げて家屋敷を手に入れてから出直して来るがいい」
その形相にアーガスが怯むとゼゲンスキーは右手を上げた。白手袋の指をバチリと弾くと応接室の扉が開き、二人の女が入室してくる。ブロンド美人は何事かと狼狽するアーガスの腕を掴み、黒髪美女が窓を開いた。
「百年早いぞ
S級冒険者アーガスは五階の窓から放り出され、ソファーのゼゲンスキーはコキリと首を鳴らした。
「近頃は客筋が悪くて困る」
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