退魔士・狩村ユキトは怯まない!

クサバノカゲ

第1話

 白以外の色が存在しない雪原のまんなかで、僕と彼女は向き合っていた。


 降り積もったさらさらの粉雪が風に舞い上がって、視界をさらに白く霞ませている。


 ──ようやく、この場所に来れた。


 厚手のコートを着込んだ僕の右手は、白木の木刀を素手で握っていた。その芯からつたわる柔らかな温もりのおかげで、手がかじかむことはない。


「あなた、狩村カムラの者ね」

「そうだ。狩村神刀流直系、狩村 征人ユキト


 投げかけられた問いに、僕は堂々と名乗る。

 わずかに風が収まって、霞んでいた彼女の姿が白い背景の中にくっきり浮かび上がる。


 雪山には明らかに場違いな、白い小袖の着物だけをまとった華奢な女性が、当たり前のように凛とそこに立っていた。

 着物の生地には、うっすらと雪の結晶の模様が散りばめられている。肌も長い髪も白く白く、油断すると背景の雪に溶け込んでしまいそうだ。


 寒さに震えることもなく、当たり前に極寒の雪原に佇む。そうあって当然の人ならざる存在──彼女は怪異『雪女』だ。


「何をしに、来たの」


 問いかける彼女の顔は白い狐の面──いや、まるで角のように天に向けてのびた両耳と、全体的な丸みから察するに、兎の面だろうか──で覆われている。

 しかし声はくぐもることなく澄んで、鼓膜にまっすぐ届いていた。


「わが父──狩村 政人マサトの仇を討ちに」


 彼女の声になぜか、奇妙な心地よさを覚えつつあった僕は、それを振り払うように宣言した。


 僕の家系──狩村の一族は、遥か戦国の世から代々、人に害なす怪異を狩る者として、人知れず暗躍してきた。

 ときの将軍家から受けていたその密命は、現代では農林水産省の管轄となり、各都道府県庁に密かに存在する特殊獣害対策課──通称『トクジュー』の外部委託業者という形で受け継がれている。


 しかも高校生である僕の場合、アルバイト扱いで時給制だ。一応、某ハンバーガーショップで働く友人より二割ほど多く貰ってるけれど、その金額が適正なのかよくわならない。


 まあ、そのへんについて今どうこう言う気はない。そもそも今日は仕事で来たわけじゃない。

 完全なる、私怨プライベートだ。


「──お前は、あの夜の雪女か?」


 僕は、静かに問いかけた。

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