1章
第1話 クランハウス
二〇七〇年代、量子コンピュータの汎用的な実用化を皮切りに第四次産業革命が起きた。
汎用ロボット技術やAI技術、ナノマシン技術が飛躍的発展をとげ、それらを開発する巨大企業が国家と同等の影響力を持つ二〇九八年。
日本の大手AI企業からオープンβテストとして発表されたフルダイブファンタジーシミュレーターが、そのリアルすぎるファンタジー世界とユニークなプレイスタイルで話題を集めていた。
オーディナリーライフと銘打ったそのゲームでは、まさに異世界を体現していた。
ファンタジーものによく見られる中世ヨーロッパ風の世界観ではあったが時間は常に流れ、住人はそれぞれに自我(開発企業が自我レベルのAIといって憚らないため自我で通している)を持ち生活し、剣と魔術とモンスターのいる世界。
これまでのフルダイブVRMMOの様に情報がHUD(ヘッドアップディスプレイ)上のUI(ユーザーインターフェイス)やウィンドウメニューでやり取りすることは無く、全てが一昔前の現実世界と同じ様に自分の手で行う必要があったが、AR(拡張現実)で日常のやりとりをする二〇九八年を生きる人々にとってはそれが新鮮であり好評も得ていた。
一万人規模のβテストで当初の人気はそれほどでも無かったが、プレイした人間の体験談が広まると、今ではキャンセル待ちがでる人気ぶりだった。
日本では極まった高齢化で若年層の人口が減ったことと将来への人材育成のため、義務教育が高校まで延長されその教育期間に本人の社会的適正が判断され進学先や就職先が提示される。
システム的に確立された信頼性と社会的風潮によって、殆どの人がその提示にしたがって進路を決めている人が多い中、何もかも自由というゲーム性が人気に一役買っているとするアナリストもいる。
遠野誠はそんな人気ゲームに、運良く当選したプレイヤーの一人だった。
世間的にフルダイブVR(仮想現実)勤務が主流になっている昨今、遠野もVR勤務者で一日の勤務を終えて食事と風呂を済まし、十九時四十分頃にログインするとゲーム内時間で七時頃になるので、このサイクルがゲームを始めてからの日課になりつつある。
この日もいつも通り仕事が定時で終わり、残り物で手早く夕食と風呂を済ませAR(拡張現実)時計を見ると十九時十二分を示していた。
(十九時十五分だと、あっちで五時頃だな、早起きするかな)
オーディナリーライフはユニークなゲームだったが、最たるものはオープン時間を設けている所だった。
これはゲーム内の時間が常に流れているのを表現するためにとられた手法で、現実時間とゲーム時間の時差を無くしプレイヤーに日々変わっていく世界を提供していた。
平日は日本標準時18:00~24:00までの六時間オープンでゲーム内時間速度は四倍速に設定されていた。現実時間の18:00がゲーム時間の0:00となり四倍速なのでゲーム内時間で二十四時間後が現実時間の24:00になる設計になっていた。
プレイヤーには現実と同じ時間感覚で二十四時間の体感になる様に調整されている。土曜日だけは12:00~24:00のオープンとなりゲーム内時間で二日間プレイすることができた。日曜日はメンテナンスのためにクローズとなっている。
この四倍速で体感時間を操作する技術は画期的な物だったが、テスト中ということもあり仕組みなどについては非公開となっていた。
脳に過負荷が掛かるのではという懸念には、仮に二十四時間起きて活動したとしても現実で普通に六時間起きて活動しているときと、負荷が大して変わらないことが公的機関で証明されていたので大した問題にはならなかった。
遠野はテスト初日から参加しており、プレイ期間はそろそろテスト期限の一年になるところだった。
正式サービスにβテストのデータ引継ぎができるのもあって、たとえ料金が高くてもゲームを続けようと思う位には、このオーディナリーライフに入れ込んでいた。
少し早くログインすると決めて、一般的なフルダイブ用の椅子に掛けてログインの準備をする。
二〇九八年現在、ネットに接続する方法として体内ナノマシンをNANOCO(ナノマシンコントロールデバイス)で制御しダイブするのが一般的である。
NANOCOはナノマシンを制御する外部端末で主に脳内ナノマシンと同期している。ネットに接続する場合にフルダイブVRかARを選ぶだけでいい。
首から上に取り付ける装置で様々な会社から発売され、形状も色々あるが一般的なのは首掛けタイプで遠野もそのタイプを使っていた。
ゲームにログインすると、ここ一年で馴染んできたもう一人の自分体に変わっていくのを感じていた。
遠野の選んだアバターは猫科のニルケルで、消炭色のミディアムヘアと尻尾を持ち、端整な顔付きと涼しげな目元に翠眼の猫目を持つ青年だった。
ニルケルの特徴である耳と尻尾は、形の種類も豊富に用意されており、彼は俗にイカ耳と呼ばれる耳の向きが正面ではなくサイドと後ろ側を向くような形を選び、尻尾は長く毛量の少なめのものを選んでいた。
現実の容姿よりも優れているという指摘は無粋なことだろう。
一年近くに渡る二重生活とも言えるこの習慣は、心身共に慣れ親しみ現実に帰った時に何か物足りなさを感じる程だった。
実際、現実に近いといえどもそこはゲームで、鍛える程に現実世界では手に入れることの叶わない身体的能力を手に入れられる。それも現実に戻った時の物足りなさを感じる大きな要因になっている。
ラグと名付けられたこのアバターのプレイスタイルは、軽装な防具に刀を装備して近接アタッカーとして前線を駆け回り、遊撃を行う立ち回りを得意としている。
このゲームはファンタジーシュミレータを謳っており、個人の強さを表すレベルの様な数値的指標はないが、冒険者ギルドが認定する個人ランクが存在した。
個人ランクはF~Aまであるが、Aに至ったプレイヤーはまだ現れていない。
依頼達成とギルドへの貢献度で昇格試験が受けられる方式になっていた。
Cまで行ければ中堅、Bが一流扱いになっておりAへの昇格条件は公開されておらず、βテスト中は上がれない仕様になっているとプレイヤーの間では噂になっている。
Bランクになったプレイヤーがトップでまだ五十人もいなく、CとDランクに多くの者が集中している状態だった。
ラグは個人のランク上げにそこまで熱心ではなかったのでDにとどまっている。
オーディナリーライフには個人ランクとは別に、クランランクも設定されていた。
クランとはプレイヤー同士が有志を募り集まった集団で、ランク階級別に冒険者ギルドから優遇措置が受けられる制度がある。
クランランクは依頼の達成度、ギルド貢献度、評判などから判断されているらしいが詳細な条件は公開されていない。高難易度依頼をこなせば早く上がるのは分かっているが、失敗が続くとランク降格もある。この降格は個人ランクも同様であった。
階級が下から、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、ミスリルまであり、プレイヤーの間では最近ダイヤランクに達するクランが出るかもしれないと話題になっていた。
現状ではシルバーとゴールドに殆どのクランが集中しておりプラチナ以上は、まだ両手の指で数えられるほどでしかない。
ラグの所属するクランの『グランシャリオ』はゴールドランクの中堅処だったが、クラン設立の方針がこの世界を楽しむというものであり所属メンバーは、ランク上げ以外でこのファンタジー世界の楽しみを見つけることが多かった。
だが、そのことで色々な騒動に巻き込まれ、結果クランメンバーを鍛える結果に繋がっているのは皮肉なことである。
もし、ランクを上げることだけに集中してプレイしていたらゴールドランクの上位に届いていたかもしれないくらいの実力をラグ含めメンバーは持っていた。
ちなみにクラン名は名字にも使われ、彼の場合『ラグ・グランシャリオ』となる。
ラグは目を覚ますと見慣れたクランハウスの自室にいるのを確認する。
五時頃ということもあり辺りは薄暗い、部屋に置かれる家具の数々は実用的な物ばかりで数も多くなく飾り立てるような調度品は一つも無かった、それがラグの装飾には執着のない物に対しては淡白な面を表しているようだった。
グランシャリオのクランハウスはウインディア王国の首都ウインディアに在り、とある騒動の折に偶然手に入れた屋敷で、ゴールドランクのクランの中では大きい拠点を確保できていた。
ラグが顔を洗おうと、一階の洗面所に向かう廊下の途中で厨房から誰か出てきた。
「あら、早いわね。おはよう。ラグ」
「おはよう。ヨーコ。流石に早いね」
台所から現れたヨーコと呼ばれた少女は、肩まであるまっすぐなバイオレットの髪を首の後ろで軽く一つに束ねていた。
着慣れた部屋着の胸には、少女の見た目には不釣り合いとも思える豊かな母性の象徴が備えられて雰囲気も言葉遣いも大人びている。
軽く尖る耳が彼女をハロマルであることを示していた。
ハロマルは成人になっても人間の子どもに見える容姿をしていて、ある一定の層から強く支持される人気の種族だった。
もっとも、このゲーム自体に成人指定制限が存在している。俗にいう中の人がハロマルの見た目道理の年齢であるわけがないので、その辺に突っ込むと碌なことにならないというのがプレイヤー同士の暗黙の了解となっていた。
ヨーコは戦闘よりも、クラフトの方を楽しむプレイヤーだった。
オーディナリーライフのクラフトは、高難易度コンテンツとも呼ばれている。
その所以が、この世界での製作工程は簡素化されてはいるが現実のものに近く、何か物を作るにも教わる必要があった。なお、現実にない魔術工程などはアレンジされている。
それ故、職人を目指すプレイヤーは町の店に弟子入りして働くのが一般的な方法で、ゲーム内でも毎日働くことに抵抗を覚える者は手を付け無かった。
ヨーコは現実でもやっている彫金の腕を生かすため、アクセサリータイプの魔具の職人を目指し日々町の魔具店で働いている。
クランの面倒見もよく、金銭の管理をしているのもヨーコだった。クランの母性とメンバーから思われている。
「残り物で夕食を手早く済ませたからね、朝食の準備手伝うよ」
ラグは、挨拶しつつヨーコが廊下に出てきた用事を察する。
「これは好きでやっているから良いのだけどね。でも、お願いしちゃおうかな。あ、リアルではご飯しっかり食べなきゃダメよ?」
一瞬迷ったようなそぶりを見せたが、すぐに笑顔で答えた。
「了解。顔洗ったら行くよ。何か取りに行く所だったんだろ? ついでに持っていくよ」
「助かるわ、じゃあジャガイモを十個くらいお願いね」
「イエス、マム」
リアルの食生活のことを言われたラグは、おどけた口調で普段言わないような返事をし、ヨーコは笑いながらバーカと返して厨房に戻っていく。
ハウスにいる時くらいは、朝食を一緒に食べるというクランの約束事があったのでヨーコが作っていた。
当初は当番制にしようとしたが、約束の発案者ということと戦闘には参加できないからと彼女が名乗り出て、それに甘えた形で今日まで来てしまっている。
だから早くゲームに入れる人が手伝うというのがヨーコを除くメンバーの決め事になっていた。
朝食の時間頃には、ほぼメンバーも食堂を兼ねたリビングに集まってきていた。
「みんな集まった?」
ハロマルでクランリーダーのフォルが、部屋の入口からリビングを見渡している。
フォルはブロンドのミディアムヘアで華奢な少年という感じだったが、明るい性格で人当りも良く、戦闘では後衛で中級魔術を操り司令塔も兼ねておりパーティーでも要的存在だった。
ただ、ハロマル女子至上主義という志向は、病気レベルに達しておりクランメンバーから匙を投げられている。が、ヨーコにだけは頭が上がらないのか普通に接していた。
「まだ、ブンタとアリアが来てないみたい」
フォルの隣でウサギの耳を揺らし、赤毛のショートヘアが似合う利発そうなラキが答える。
ラキはウサギのニルケルで、少し幼さの残る少女であり誰もが可愛いいと認める容姿をしていたが、中々の毒舌家だった。戦闘ではスピード重視で、短剣を得意とする斥候タイプのスタイルだ。
彼女が話していたアリアとリアルの知り合いで、このゲームに誘ったのもラキだった。
「ブンタが、ママの作った朝食に遅れるなんて今日は槍が降るかもねー」
にししとラキが含み笑いをする。
「誰がママですって?」
料理を並べていたヨーコがこめかみに、青筋が見えるような引きつった笑顔を作った。
ラキはフォルの陰に隠れ笑いながら、ウソウソと謝っている。
「ブンタは二時間くらい遅れるって、ログインする前にアプリでメッセージもらったよ」
丁度部屋に入ってきたテナクスが、肩まであるダークブロンドのロングヘアを後ろで縛りながら配膳を手伝おうと厨房に向かう。
テナクスは男性で痩身ながらも鍛えられた身体つきをしており、アウリスの特徴である眉目秀麗を体現した容姿をしていた。が、よく恰好の良い男同士が向かい合っているのを見ると明らかに変な想像をしているのが分かるので、クラン内では中の人がそちら方面の女性なのだろうと全員が察していた。
そんな残念なイケメンのテナクス君ではあったが、戦闘面では優秀な中衛で短剣、弓と魔術を使い分け前線を上手くサポートする立ち回りをすることが多く、副司令塔的な立場も担っていた。
「『絶対に朝食残しておいてくれ!』って悲痛な叫びがみんなの所にもいってるはずだよ」
テナクスが思い出し笑いをしている。
「ブンタは本当に食いしん坊ねぇ」
クランメンバーの殆どは、ブンタがヨーコに好意を持っていて彼女の作る食事を心待ちにしているのを知っていたので、それに気づいていない本人のこの言葉には苦笑いをしていた。
「アリア嬢が来てないのは珍しいな」
早々と席についていた壮年に見えるヒューラのハンゾウが口をはさむ。
ハンゾウは短髪の黒髪で口髭を生やし、鍛えられた体躯と風貌は歴戦の古強者を連想させるものがあった。
実際、戦闘においても率先して前線に立ち大剣を駆使してアタッカーとしては勿論、盾役としても活躍している。
如何せん大雑把な所と酒の話で良く盛り上がっているので、豪快なオッサンというイメージでメンバーは見ていた。
「お姉ちゃんも二時間位遅れてくると思う、残業有ったみたい。めずらしいよね」
食卓に食事を並べながら、ハロマルで桜色をしたツインテールを弾ませたアリエッタが答える。
アリエッタはハロマル然とした可愛い少女であった。現実でも姉妹である姉と一緒にOBTに当選した強運の持ち主でもある。
戦闘では後衛の回復役を担っていて、姉のアリアには敵わないまでも優秀な癒し手として活躍していた。
ただ、姉であるアリエッタに対抗心を持っているのをクランメンバーは分かっていて微笑ましく見守っている。クランメンバーからは『エッタ』の愛称で呼ばれていた。
ハンゾウはアリエッタが言ったことに納得した様子で、就業時間が選択できるご時世に残業なんてと珍しがっている。
「今日の出発は昼前だから、それまでに間に合えば問題ないだろ」
そう言いながら、ラグが料理をテーブルに運んでいる。
「まあ、そうだね。今日は移動日だから焦る必要もないよ」
席に着きながらフォルが答えた。
「明日の依頼は、鉱山で発生したモンスター絡みの調査なんでしょう?」
「あぁ、なんでも鉱員が襲われたそうだが、現場には左腕と大量の血が残されていただけで遺体は見つからなかったみたいだ。残された左腕の状態からモンスターに噛み
千切られたと考えられているらしいが、詳しくは分かってねぇそうだ」
ヨーコの問いにハンゾウが難しい顔をしている。
「ちょっと食事前なんだけど! 信じられない!」
顔を顰めたアリエッタが、凄惨な話をする彼に非難の声を上げハンゾウが平謝りになる。
「でも、指名依頼って『グランシャリオ』の名も結構売れってきたってこと?」
「ん――、今回は依頼主が僕たちのことをいたく気に入ってくれたみたいで、個人的な線の方が濃いんじゃないかなぁ。なんで知っているか分からないけどね」
不思議がるラキに、フォルが考えるそぶりをする。
「まぁ、宿も用意してくれる好待遇だしギルドの方でも、依頼主の悪い噂は聞かないと言っていたから大丈夫だと思うよ」
「でも、モンスターが何匹いるかも分かんないんだよね? 大丈夫かなー」
フォルの説明に、アリエッタが少し不安そうな顔をする。
「大丈夫だ。そのためにフルメンバーで挑むんだから何とかなるだろう!」
ハンゾウが豪快に笑い、出た大雑把と言いながらアリエッタが半眼になった。
「調査の結果、手に負えないモンスターだったら、情報だけでも持ち帰ればいい依頼だから受けたんだ。引き際さえ間違えなければ大丈夫だよ。エッタちゃんは僕が守るから!」
フォルもアリエッタにフォローを入れる。
最後の『守るから』という部分をねちっこく言いまわし、ハロマル好きを爆発させる発言を気味悪がりながらアリエッタが引いている。
「その引き際は、フォルとテナクスの指示を当てにしてる」
「何言ってるんだよ、ラグも遊撃なんだから状況みれてるだろ?」
「俺は指示のあった所に突っ込んでいく方が、性に合ってるんだよ」
テナクスが抗議の声を上げるが、ラグはシンプルが一番と取り合わない。「脳筋が」とテナクスが納得いかない表情でぶつぶつ言っている。
「そう言いながら、危ない所は拾ってくれるから中衛任してるんだよ」
「それは……」
まぁまぁと笑いながら言うフォルに、少し照れ言葉に詰まったラグがそっぽを向く。「「ツンデレか!」」とメンバーから突っ込みを受けつつ朝食をとるのだった。
ちなみに、このゲームは味覚も忠実に再現していた。ファンタジーシュミレータを冠したタイトルなので飢えも乾きも当然ある。過度に食べ過ぎれば太り、食べなければ力がでないし飢えて死亡することもあった。
昼前になり出発する為に、一階のエントランスにメンバーが集まって来た。
朝食時にいなかった二人も姿をみせている。
二人は一緒に遅めの朝食をとり終わっていた。
「やっぱ、ヨーコさんの朝飯最高だったっス!」
黒髪でソフトモヒカンの前頭部から二本の角を生やし、発達した筋肉でヒューラよりも一回り体格を大きくしたコルヌ青年のブンタが叫んでいる。
ブンタはコルヌの魔術よりも身体機能へ能力全振りのような仕様を、気合が入っていると気に入っていた。言動も体育系で傍から見ていても容易に分かる位、まっすぐで曲がったことが嫌いな性格だった。
戦闘では大きな戦斧を操り、敵の注意を引く盾役を担っている。ハンゾウと並びクランの前線を支えるメンバーだった。
「ブンタはいつも大袈裟よねぇ」
ブンタの好意に気づかないヨーコが笑っている。
それをほかのメンバーは生暖かい目で見ていた。
「本当に今日の朝食も、特にジャガイモのポタージュが美味しかったですよ」
ライトブラウンのショートボブが似合う、お嬢様女子大学生がそこに居るかのような錯覚に捕らわれる程に現実と違和感のない女性がいた。
彼女の名はアリアと言い、ヒューラで清楚という言葉が良く似合う雰囲気を醸し出していた。実際のところ、品行方正でクランの良心ともいえる存在であった。
アリアは、回復魔術を得意としており後衛で最後の砦として活躍している。
クォータースタッフの扱いも上手く、前衛メンバーと互角に打ち合うほどだった。
アリエッタとは現実世界の姉妹で、妹をとても可愛がっており、傍から見ると過保護なほどだった。
アリエッタはそれが気に入らない様子で、たまに反抗しているようだったが基本は仲の良い姉妹に見えた。
ヨーコはアリアに料理を褒めてもらったことの礼を言いながら、集まるメンバーを見ている。
「よし、みんな集まったね。出発しようか」
フォルの号令と共にメンバーが動き出す。
ヨーコの気を付けてという見送りに、それぞれ旅立ちの言葉を口にしていた。
「お土産持ってきますから! 待ってて下さい! ヨーコさん!!」
一人だけ音量の違う挨拶をして、ラキとアリエッタに煩いと文句を言われてもスッキリした顔のブンタが先頭をきり全員が歩きだす、ヨーコに見送られながらグランシャリオの旅が始まる。
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