また出逢えたら…
fluffy
二度の出逢い
大学に入学して1ヶ月が過ぎようとしていた頃、高校からの親友で同じ大学に入った藤井明日香が、手に紙をヒラヒラさせて言った。
「麻衣、新歓ハイク(新入生歓迎ハイキング)だって、行ってみない?」
行ってみようか、とあの時なぜ思ったのだろう。新歓ハイクを企画しているサークルに入るつもりはなかったが、久しぶりに深緑の中を歩いてみたいと考えただけだったのかもしれない。相原麻衣は、木の根が張り出した山路を登りながら、樹々に覆われた空を見上げた。山野草が風に揺られ、木漏れ日が輝いている。
「んー、気持ちいいね。空気も澄んでておいしい」
「もう少しで山頂だよ」
少し登ると開けた場所に出て、そこが山頂だった。
「わー、富士山が見える」
登山口で集まっていた新歓ハイクのメンバーの数人がこちらに歩いてきた。
「新入生は全員登ってきたみたいだよ。先輩たちは先に下りて先に飲んでるからって、俺たちが残された」
「下山したところにある温泉兼食事処で反省会して、解散になるのよね。待っててくれてありがとうございます。麻衣、早く行こう」
そう明日香が答えて、話しかけてきた2人も、話しながら歩いて行った。
「おう、俺たちも行こう、ユウタ」
「喉乾いたなー、ダイキはビール呑んじゃう?」
「俺は飲まないよ」
「うっ……」
麻衣はさっきから既視感を覚えてその二人を見ていた。いつも野球ばかりしていた、小さい頃の友達の面影と重なる……。
「私、あの二人知ってるかも……」
特に、細いけど背中からでも筋肉質なのが分かる、『ダイキ』と呼ばれていた彼は……。
ーー
まだ6歳だった頃、麻衣に妹ができた。透き通るピカピカのお肌で、笑うとエクボが出来る、本当に可愛い私の妹は
学校では、すぐに友達ができた。小学校一年生になって、ちょうどタイミングが良かった。祖母の家の辺りは、小学生にとっては探検したくなる場所がたくさんあった。
祖母の家の近くを流れる大きな川の近くに、隣接する大きな公園があった。同じクラスの山口美輪ちゃんと、いつも遊びに行っていた。
「まいちゃん、気を付けてね」
(こんなところ通れるのかな……)
身軽な子供でも一人通れるかどうかという入り組んだ木の枝でできたトンネルを進んでいると、河原で野球をしている子供たちが見えた。
「みわちゃん、あの真ん中でボールを投げている子は、だあれ?」
「あの大きな子は、タケノウチダイキくん。同じクラスよ」
「みわちゃん、ダイキくんかっこいいねー」
少し離れたところから観ていても、その子の投げるボールは他の子たちとは全く違っていた。
「ボールが見えなくなるみたいだね!」
麻衣は近くにあった石を思いきり振りかぶって川の方向に投げてみた。石は美輪のすぐ近くに落ち、二人は慌てて、もう少し広いところに出よう、と走り出した。
麻衣はそれから、川辺で石投げをするのが好きになって、水面で石を1回跳ねさせることもできるようになった。美輪と二人でどんどん投げた。
「みわ、何やってんの?」
橋の上から相間雄太が大声で二人に声をかけてきた。同じクラスで、この間野球をしていた子の中にいた子だ。
「水切りー」
美輪と麻衣はその言葉を最近美輪のお父さんから教えてもらった。水の石切りとかいうところもあるらしい。
「僕もやる」
一緒にいた竹之内大樹は、ちょっと驚いて、
「練習に遅れるよ」
と雄太に声をかけるが、雄太が行ってしまうと、仕方ない、という感じで追いかけてきた。
雄太が早速手頃な石を見つけて投げる。水面で2回か3回は軽く跳ねた。大樹は、
「まいちゃん、だよね。手首の使い方とかいいね。うまく体を使って、こんな風に……」
と大樹が投げ始めたが、みんなは一瞬で大樹の『投球』に夢中になってしまった。大樹の投げる石は回転して何回も飛び跳ねた。水面を走っていく石はキラキラ光って、三人は呆然と飛んでいく石をみていた。
「まぁ、うちのピッチャーだからね」
雄太がなぜか得意そうに言って笑った。
それからは公園や河原で会えば一緒に遊んだりするようになった。
麻衣が転んでひざを擦りむいた時、大樹はすぐにハンカチで足を縛ってくれた。
「ハンカチ返さないでいいよ。そんなに新しくないから」
「え、でも」
いいのいいの、と言って、午後からは野球の練習だから、と雄太と行ってしまった。
麻衣は、お母さんに電話で大樹のことをたくさん話した。
「だいくんってやさしくてかっこいいの。だいすきなんだ」
四年生に進級する少し前、妹の麻莉の病状が悪化し、麻衣は急いで東京に戻ることになった。
いつも寝る前にたくさん話しかけていた、ベットの横に置いていた写真の麻莉はまだ赤ちゃんの様だったけど、少し久しぶりに会った麻莉はお話ができて、大きな目で麻衣を見て、可愛いエクボを作って笑った。それから少しして、小さな棺に納められて、天国に行ってしまった。麻莉がいないことが寂しくて、3年間過ごした栃木の生活が懐かしくて、あの頃はいつも泣いていた気がする。
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