とある口調が変わった親子の朝の光景
もりくぼの小隊
第1話
西暦二○✕✕年。
日本のどこかの町で、特に代わり映えのない日常の朝をひとりの少年が迎えた。少年は睡魔抗えぬ重い瞼を薄っすらと開け、微睡み沈むベッドの上に転がしたスマホを眺めると、一気に瞼を引き起こし、身体を飛び上がらせ、部屋を出てゆき階段を駆け降りた。
「やい、おふくろっ。起こしてくれなかったのはどういう事だっ」
リビングルームに飛び込むと、キッチンで優雅にコーヒーを啜る母を少年は非難した。母は短い息を吐くと切れ長な目だけを少年に向ける。
「一度は起こしたさ。貴様はいつまでも反応を示さなかったがな」
落ち着いた母の言い分に、少年は言い訳る熱を持って反論を返した。
「一度起こすのを失敗したくらいで、諦めるって言うんですか。あんた程の人がさっ」
「あまり勝手な事を言わないでもらおうか。我が子ながら情けなくなるものだな」
少年の反論に母は表情ひとつと変えずにコーヒーカップを机に置く。少年はその母の動作にビクリと身体を震わせた。
「そりゃ、悪かったとは思いますよ。だけど、遅刻をしてしまうんだっ。こんな失態、あっていいていうんですかっ」
「たまには灸をすえるという事も必要という事さ、走れば間に合うというものでしょう」
「そんな事を言わずに車を出そうとくらい──」
「──甘えるのもいい加減にしてもらおうか?」
母の有無を言わせぬ
「待て、朝の食事くらいはまだできるだろう。コーヒーも入れ直しておいた」
「そんな暇があるっていうんですか?」
「朝食が大切という事は教えた筈だがな?」
少年は母に逆らう事はできない。確かに、朝食が必要という事は理解できる。だが、反抗期を拗らせつつある少年の心の内は反抗的なものを燻らせる。
(親ていうのは、いつまでもエゴイスティックな動物でいたがる)
少年は反抗の意思を示すように乱暴に二枚重ねトーストにかぶりつく。ジワリと甘酸っぱいものが口に広がり目を丸くした。
「柚子ジャムの味?」
「蜂蜜も少しは垂らしてある」
柚子ジャムは少年の好物だ。嬉しい感情が胸の奥へと広がってゆく。反抗の意思は揺らぎ、トーストを平らげて熱いコーヒーを半分ほど飲んで少年は立ち上がった。
「ごちそうさまでした。コーヒーを全部飲めはしませんでしたけど」
「ふ、朝食さえ食べていれば責めはしないよ。行け、テーブルの上の弁当を忘れずにな」
「いってきまーすっ」
少年は弁当を掴むと学校へと走り出した。
とある口調が変わった親子の朝の光景 もりくぼの小隊 @rasu-toru
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