第33話 ヒーローZoom会議

 諸君、俺は我が根城である大乃島の海岸に立っている。もう時間は夜だ。暗闇の中で波が押しては引いている。その向こうから水しぶきを上げてお客さんがこちらに向かって参上しようとしている。どうしてこんなザマになったのかここは一旦、時計の針を戻すとしよう。





 俺の目の前のパソコンには三分割された映像が映し出されている。そこに俺の間抜けヅラとアマテラス、韋駄天の顔が映し出されている。お上からのお達しで俺たち超人の連携を深めるためのこのZoomを利用したいわゆる超人会議が開催されているというわけだ。今回は何回目だろうか。うまく思い出せない。


「そのアンタの言うクジラックスって何?」


 画面の向こうで韋駄天が煙草を吸いながら俺にたずねる。この合法ロリ女は一体どれだけ吸っているんだ。画面越しに見える卓上の灰皿には吸い殻の小山が出来上がっている。


「漫画家だよ」


「漫画家とひとくちに言っても色々あるでしょう」


「それもそうだ。まず第一にR18だ。ろりとぼくらの。のろりともだちは中でも傑作だ。イージーライダーのような青春ロードムービーというか。主人公二人はどうしようもないロリコンの変態野郎だけど」


「あの、ハイエースって・・・」


 アマテラスが口を開く。この前の一件以降あの陰気臭いサングラスは外してくれているようだ。


「これは・・・そうだな・・・クジラックスの漫画では幼女は大抵ハイエースに連れ込まれる。もうその時点で詰みってわけだ」


「何となくイメージするアウシュヴィッツ行きの列車に乗せられるユダヤ人といったところかしら」


「よくわかんないけどそんなところ」 


「つまるところこの私を目にするたびにこの両者を思い出すと?」


「お気に召さないかもしれないがそんなところだ」


 韋駄天は頭を抱えながらため息とともに煙草の煙を吐き出す。


「あんた、それがレディふたりの目の前で語る話題なの・・・」


「俺はそちらに聞かれたことを答えたままで・・・」


「こう見えても私は科学者でね。学人くんとともにいつか必ずあんたを殺す方法を見つけてみせるわ」


 4つ目の画面に丘学人本人が現れる。


「お取り込みの途中、申し訳ないんだがもっと実務的な話を聞かせてほしい。例えばスーツの性能に関する事とか」


「股間が蒸れる」


 俺は率直に答える。


「私は特に何も」


 次いで韋駄天が答える。


「私の最近、何というか・・・お胸のあたりがきつくなってきたというか・・・」


「あ・・・っ(察し)」


「まだまだ成長期ねえ・・・」


 韋駄天は空を虚ろな目で眺めながら上空に向かって煙草の煙を吐き出してみせる。




 もうそろそろお姫様の到着か。夜の海面の向こうから韋駄天がアマテラスをおぶって猛烈な水しぶきをあげながら超高速で水面を走ってこちらに向かってくるのが見える。この人間水切り女が。どうしてこうなったのだっけ。俺は記憶の糸をたぐり寄せてみる。


 そういえばそれぞれの好きなものを語ろうという流れになったんだっけ。アマテラスは画面の向こうでうつむき気味に語った。


「私は・・・映画を見るのが好き・・・特にジョン・トラボルタのサタデー・ナイト・フィーバーが・・・」


 口は災いの元と言う。なるほど昔の人は正しい事を言う。と思っていた矢先、お姫様のご到着だ。


「サタデー・ナイト・フィーバーがチャラチャラしたアホみたいなディスコ映画ですって!?」


 アマテラスが興奮気味に俺に詰め寄る。


「そう興奮するなって。ちょっと口が滑ったんだ」


「みんなそう言うのよね!ろくに内容を見てないくせに!アホみたいな能天気なディスコ映画だって!」


「アマテラス、気を悪くしたら謝る」


「ひとつ質問がある。あんたサタデー・ナイト・フィーバーを観た事は!?」


「あいにくだが無い」


「無いのに何がわかるってのよ!?冴ちゃんもそう思うよね!?」


 アマテラスに話を振られた韋駄天は気だるげに煙草の煙を吐き出しながら呆れ顔でこの痴話喧嘩を眺める。


「百聞は一見に如かず。とにかくあんたにはサタデー・ナイト・フィーバーを観てもらう」


 そう言ってアマテラスは持って来たサタデー・ナイト・フィーバーのDVDを俺の目の前に差し出して見せる。


「ちなみにブルーレイもある!」


 そう言ってアマテラスはサタデー・ナイト・フィーバーのブルーレイを俺の目の前に差し出して見せる。


「それはどうも。時間のある時に観てみるよ」


「その言い方は借りておいて結局は観ないつもりね!私にはわかる!」


「アマテラス、俺は一体どうすればいいんだ・・・」


「私と一緒に観てもらう」


「何だって?」


「あとは若いふたりにお任せるすわ。照美、済んだら迎えに行くから。連絡して」


 そう言うと韋駄天は吸っていた煙草を携帯灰皿に押し込むとまたも超高速で水面を水しぶきを上げながら走って自分の島に帰っていくのだった。海岸に残されたのは俺とお姫様のふたり。一体どうしろって言うんだ?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る