第23話 Can't Take My Eyes Off Of You

 ぶっ続けでの救出活動で疲労しきった泥まみれの俺の目に朝焼けの日光が降り注ぐ。先ほど自衛隊によるアナウンスで救出活動終了の知らせを聞いたばかりだ。もう70時間以上経過したのだろうか。それすらもわからない。天空で人間太陽をやっていたアマテラスの姿ももう見えない。もうどれだけの人間を瓦礫の下から救い出したことだろう。良かった事といえば「もう死んじゃうと思ったー」と救出された巨乳のお姉さんが俺に抱きついてきた事くらいか。その豊満の膨らみを感じ鼻の下を伸ばす俺を韋駄天が呆れ顔で眺めていたっけ。あとは爺さん婆さんばっかりだ。


 ここは瓦礫の山の中。田中酒店の看板は無残に斜めになっている。ここ田中酒店は全壊は避けられたものの大きく斜めに傾いてしまっている。その店の奥から韋駄天が出てくる。歩を進めるたびに足元から飛び散ったガラスを踏むパリッパリッという音が鳴る。その手にはウィスキーのシーバスリーガルの瓶が握られている。この震災に関わらず割れなかった強運な瓶だ。


「申し訳ないけど頂戴するわ。こんなにも被災者を救ったんだからバチは当たらないでしょう」


 そう言って韋駄天はシーバルリーガルの瓶の蓋を開けてぐびぐびと飲む。


「任務中に飲酒かよ」


「私の身体は代謝が良くてね。こんなに飲んでもあっという間にアルコールを分解してくれるのよ」


 そう言って韋駄天はシーバスリーガルの瓶を一気に飲み干す。その顔は一瞬、赤くなるがあっという間に熱が冷め平常時に戻っていく。俺の目の前でランドセルが似合いそうな合法ロリがウィスキーの瓶を一気飲みする。この異様な光景もだんだん慣れてきたものだ。飲み干したウィスキーの瓶を放り捨てた韋駄天はポケットから煙草を取り出しくわえオイルライターで着火する。カチンというという音が静寂な空間に響き渡る。


「それだけは時間かけて吸うんだな」


「ああ、これ。こればっかりじっくりと味わいたいの」


 くどいようだが俺の目の前でコミックLOの表紙に出てきそうな合法ロリが飲酒喫煙している。何だか現実感が湧かない。そんな俺の思いを察したのか韋駄天は言う。


「そんな目で見ないでよ。私はあんたよりずっとお姉さんなのよ。もう三十路過ぎてんだから」


 そうだった。こいつの本名は麻堂冴子。自らの身体を人体実験にかけてマッハ人間になったイカれた科学者だ。


「超人は君だけだと?」


 あの時、丘学人はこう言った。確かに超人は俺だけではなかった。超高速で移動出来る韋駄天こと麻堂冴子と肉体そのものが太陽であるアマテラスこと天野照美。彼らの研究は超人総合研究所、略して超総研で水面下で進んでいたということだ。その目的は超人を防衛の要とすることらしい。この事はすで国民全体に周知済みらしい。今回の災害での活躍で俺らの超人の地位はさらに高まる事だろう。俺にはイマイチ政治のことはよくわからないが。


「まったくあなたは本当に神様だわ・・・孫の命を救ってくれた・・・」


 婆ちゃんは俺に抱きつきむせび泣く。オイオイ、婆ちゃん。俺のスーツにめっちゃあんたの鼻水付いてるよ。すすり泣く婆ちゃんの隣にはその孫である俺が最初に瓦礫の下から救い出した少年が立っている。ここは避難所の中学校の体育館。何を逃れた人々がひしめいている。そこをヒーローである俺と韋駄天が訪問するのは一種のパフォーマンスというわけか。俺の少年の肩に手を置き語りかける。


「もう大丈夫?」


「うん!大丈夫だよ!ちょっと吐いちゃったけど。ゴッドウィンドは僕の命の恩人だよ!一生忘れないよ!」


「そうかい。それはどうも」


 俺は少年の頭を軽く撫でる。


「ゴッドウィンド!一緒に写真撮っていい?」


 いつ間にかに俺の周囲に集まってきたキッズ達がスマホを手に言う。


「どうせSNSにアップするんだろう?」


「駄目?」


 キッズ達が上目遣いで言う。いたいけなキッズの願いは断れない。


「良いよ。ハッシュタグ付けて拡散して」


 大喜びでキッズ達はスマホで俺との記念写真を撮影する。俺は慣れない笑顔を作って見せる。向こうでは韋駄天が同じくキッズ達との記念写真を撮らされているが彼らと自分の背丈があまり変わらないので微妙な表情をしている。こうして俺達は被災者らの拍手喝采を浴びながら避難所である体育館を後にしたのだった。


「ところでアマテラスはどこに行ったんだ?」


「照美?そういえば見ないわね」


 韋駄天が答える。俺達は付近の自衛官に彼女についてたずねる。彼女はここから遠くない自衛隊テントで休憩を取っているらしい。俺らならあっという間に行ける距離だ。


「もう合法ロリをおぶるのはうんざりだ。どっちが先に着くか競争しよう」


「まあいいけど」


 と言った瞬間に猛風とともに韋駄天は消えた。これじゃフライングだ。俺はため息交じりに飛翔する。あっという間に到着するも韋駄天に先を越されていた。


「彼女なら向こうよ」


 韋駄天の指差す向こう、自衛隊テント周辺で作業をする複数の自衛官らのなかにスーツを着用しツインテールのアマテラスが背中を向けて立っていた。歩み寄った韋駄天が声をかける。


「照美」

 

 声をかけられたアマテラスはツインテールをなびかせこちらに振り向く。休憩中らしくその口元にはミネラルウォーターのペットボトルの飲み口がくわえられていた。彼女の目元には以前は装着されていたガンバイザーが無かった。天空で太陽人間をやる際に装着したままでは高熱で溶解してしまうため外していたのだろう。こいつは超総研の研究所で時たますれ違う時もサングラスをかけておりとにかく目を見られることを嫌がる。こうして初めて見る彼女の目は二重で睫毛の長い大きく円らな目だった。


「何だ。初めて見るけどけっこう綺麗な目をしてるじゃねえか」


 女を褒めるなんて柄じゃないが俺の口から素直な一言が不意に漏れる。


 アマテラスハッとして目元に手をやる。その頬が一気に紅潮する。と同時に彼女の周囲の空気が歪む。彼女の身体が発するフレアがオレンジ色に発光する。俺の隣にいる韋駄天の表情が凍りつく。韋駄天は超高速で俺の身体をアマテラスの身体の背後に移動させて俺の手を彼女の身体に巻きつけさせる。韋駄天は俺の耳元で指で上空を指し叫ぶ。


「飛んで・・・!」


 

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