第8話 俺の帰還

 ここは深夜のコインランドリー。人は誰もいない。やっと日本に帰ってきたがここまで服がボロボロじゃ表を歩けやしない。コインランドリーの中では衣類が乾燥機の中でくるくると回転し続けている。乾燥機の扉を開け俺のサイズに合いそうな服をいくつか拝借する。


 後から気づいたがあれほどの攻撃を受けたにも関わらず尻ポケットの財布と適当に突っ込んでいたドルの札束は無傷で生き残っていた。この小説が御都合主義で助かった。財布にはいくらかばかりの硬貨が入っていた。


 そんなわけで俺は今、深夜のガソリンスタンドにいる。全身に攻撃を受けたせいで服がボロボロなだけでなく炭鉱夫みたく真っ黒になっちまった。というわけで俺はガソリンスタンドの機械洗車コーナーにて500円硬貨を入れ全身洗浄を受けるところだ。もちろん衣服は全て脱ぎ捨ててフルチン状態だ。ようやく洗浄が始まる。俺は全身に洗剤を吹きかけられブラシやら何やらで全身を磨かれることになった。やっと洗浄が終わる。俺の目の前には洗浄を受ける前に畳んだコインランドリーが拝借した衣類がある。俺はそれを掴んで空高く飛翔する。この勢いならば短時間で身体に付いた水滴が乾くことだろう。


 世はドル高円安というわけで俺の尻ポケットに入っていたドルの札束はそこそこの円に交換することが出来た。これくらい金があれば当分は過ごせるはずだ。しかしこれが無くなったらどうするか。またATMでも襲うか。我ながら思考が完全に犯罪者だな・・・


 というわけで俺は今、都会のオアシスであるマンガ喫茶にいる。ここは最高だ。常時、空調も効いてるしマンガが読み放題。ネットもやり放題だ。この国はMANGAという世界に誇るべき文化がある。この世界遺産を読み放題だ。おまけにシャワーも浴びられる。全く俺はアメリカなんて行ってたんだ。天国はすぐ側にあったというのに。金はある程度、蓄えがある。そこそこの間、過ごせるだろう。


「いやもーたっくんてばー!どこさわってんのよー」


 おい!隣の部屋のカップルいちゃついてんじゃねえぞ!レーザービームで焼き殺すぞ!クソが!マンガ喫茶の個室の壁は薄い。こうして聞きたくもねえ声や音が聞こえてきちまう。とはいえこの壁が厚いコンクリートで出来ていようが俺の耳は向こうの物音を聞き分けられるほど常人離れしてるのだが。


 困ったのは同じく この漫画喫茶を根城にしている男だ。どうやらネットカフェ難民の派遣労働者らしく昼間はどこかで働いて夜はここで寝ているらしい。こいつの夜中のいびきがとにかくうるさいんだ 。聴覚が常人離れしている俺にとってはSAWシリーズのどの拷問ゲームよりキツい。


 そんな気ままな日を送っていたある日のことだった。俺はすっかり寝落ちしまっていたが夜に覚ました。魔滅まめつつるぎは32巻まで読んだ。続きを早速読まないとな。俺は自分のブースを出てフラフラと外のスペースに出る。


 ふと壁に掛けられた時計を見る。今は深夜の2時か。随分と寝ちまったぜ。おい、ちょっと待て。俺は違和感を隠しきれなかった。何故ならこの時間帯なら例のクソデカいびき野郎が爆音でいびきをかましてるはずだ。こいつのこのイビキで何度、快眠を邪魔されたことか。それが今日に限って静寂を放ってやがる。それともうひとつ。このマンガ喫茶だが起きる前には確かにあった人の気配がまるで無い。これも何とも不気味な現象だ。いや!人の気配はある!それも複数体!


「おい!隠れてないで出てこい!」


 物陰から黒づくめの特殊部隊と思われる兵士達が姿を現し俺に一斉に銃口を向ける。やれやれこうやって銃口を向けられるのはこれが何度目だ? 

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