撃ち合い


 ちょっと変わった面白いダンジョンの攻略を終えた俺達は、ダンジョンを出るとそのまま中央の探索を続けていた。


 ダンジョンが想定よりもかなり小さかった為、わずか数時間で攻略が終わってしまったのである。


 数ある経験の中から次に繋がる階層を見つけるというのは、俺たちにとっては容易な事であり、それを見つけるのに苦労するなんて事はまず無い。


 数多くのダンジョンを攻略しているのだ。経験から次の階層を探し出すなど朝飯前である。


「ねぇジーク。天界ってどんな場所なのかしらね?」

「どんな場所と言われてもねぇ。ルシファーの話を聞く限り夢も希望もない場所だね。ゴリゴリの階級社会で、どの地位にいても息苦しいんじゃない?」

「そうかしら?階級が偉ければかなり楽なように感じるけど」

「考えてもみなよ。誰もが欲するような権力を持った存在。その地位をみんなが手に入れたいとなったら、その地位に座る人をどうする?」

「蹴落とすわね」

「そういう事さ。蹴落とされないように必死にしがみつく為には、それなりの苦労がある。かと言って、階級が低ければ階級が高いものに踏み潰される。大変なんてもんじゃないでしょ」


 人類の社会も階級社会。冒険者は比較的楽に居られるが、王族や貴族なんかは凄まじく大変な闘争を求められるだろう。


 政治的な力が必要になるのだ。


 少なくとも俺はやってられない。


 で、ルシファーの話を聞いていると、天界はその傾向が顕著になっていると思われる。


 一般的な視線から見れば腐っているように見えるその貴族達も、それなりの苦労はあると思う。


 しかし、俺達にその苦労は見えない。隣の芝生はいつも青々としているのだ。


「面倒くさそうだね」

「アスモデウスはそういうの無かったの?“私が魔王になってやるぜ!!”みたいな子は」

「居なかったわね。当時の生き残りの子たちはみんな自分のことで手一杯だったし、私の苦労も多く見ているから。その子供達は当然、親に強く言い聞かされているわ。私には逆らうなとね........まぁ、普通に文句とか言ってくる辺り、ちょっと舐められてそうだけど」

「舐められていると言うよりは、親しみやすいんじゃないかな。アスモデウスの雰囲気は悪くないんだし」

「ふふっ、そうね。舐めていると言うよりは親しみを覚えている方が近いと思うわよ」


 文句を言われると言っても、本当にくだらないちょっとした小言程度だろう。


 それは舐めているのではなく、単純に親しみやすいだけである。


 舐めていると言うのは、そいつを完全に下に見て自分の方が上だと錯覚しているやつの事を言うからな。


 少なくとも、サキュバスたちにそんな傾向は見られない。


 みんな、少なからずアスモデウスを尊敬しているように見えた。


「そうかな?そうかも。なんやかんや本気で困っている時は、みんな助けてくれたしね」

「アスモデウスの人柄が良かったんだよ」

「えへへ、それほどでもある」


 あるんだ。


 俺が照れくさそうに笑いつつもちょっとドヤ顔をするアスモデウスを見ていると、ふと視線を感じる。


 見られている。何者かに。


 場所は........あそこか。


「遠くから見ていれば攻撃できないとでも思っているのか?“聖なる一閃ホーリーバースト”」


 何かと使い勝手が良く、周囲の環境を傷つけないために出番の多い魔術“聖なる一閃ホーリーバースト”。


 これを開発したのは随分と前だが、貫通力だけを求めた結果、強い魔物相手にも有効的でなおかつ周囲を破壊せず、更には素材をできる限り傷つけないスーパー便利な魔術となった。


 なんだこいつ強すぎだろ。


 ぶっ壊れレベルの火力を持ちながら、第九級魔術の中では魔力消費も少なくてシンプルで使いやすい。


 やはり、シンプルさって大事なんだな。


 あと利便性。


 最近敵のインフレが激しくてあまり使っていない俺のお気に入り魔術、“天門ヘブンズゲート”と“地獄の門ヘルゲート”。


 これを大改造して、普段使いしやすい魔術を作りたいと思っている。


 さて、そんな魔術の話はさておき、俺達に視線を向けていた相手はどうなったのかと言うと........


「キィェェェェェェ!!」

「うるせぇ」

「元気のいい鳥ね。虹色に光る翼の鳥。アスモデウス、名前は?」

「カメオキジだねー。確か、その虹色の翼を変色させて姿を隠す魔物だったはずだよ。それと、結構変わった攻撃方法をする魔物で────」


 アスモデウスが魔物の解説をしてくれていたその瞬間、カメオキジが大きく口を開けて吠える。


 俺は本能的な声が攻撃であると判断すると、即座に防御魔術を展開した。


 音は波。それを魔力で遮断してしまえば、波は届かない。


「キィェェェェェ!!」

「────音を武器にする魔物だね」

「なるほど。声に魔力を乗せて相手を内部から破壊するような感じか。まともに食らってたら危なかったかもな」

「ふふっ、中々やるじゃない」


 俺が本能的に防御魔術を使ったのと同時に、エレノアが動き出している。


 エレノアは俺の防御魔術の範囲から抜け出すと、拳を放つことで衝撃波を生み出して音を相殺していた。


 化け物かな?なんで相殺できるんだよ。


「キィェ?」

「あら、連発はできないのかしら?私と撃ち合いをしてみない?」


 パァン!!


 少し興が乗ったのか、エレノアが勝負を仕掛ける。


 鋭く振るわれた拳が空気を揺らし、衝撃波を生み出してカメオキジに襲い掛かる。


「キィェェェェェ!!」


 それを見たカメオキジが、即座に反応。エレノアの放った衝撃波を、咆哮で掻き消した。


 掻き消したというか、気合いで何とかしたという方が正しいだろう。


 即座に反応し、持てるだけの力を全てだしきって打ち消したように見える。


 現に、カメオキジの口からは、血が流れでていた。


 本気で吠えたから、喉が潰れたな?


「アハハ!!いいわね!!ほら、次よ!!」


 喉が潰れたから待ってください。なんて事は決して出来ない。


 当然だ。これは命の奪い合い。


“待った!!”なんて言う生温いことは、誰も許しちゃくれない。


 そんなことを許してくれるのは、あくまでも手合わせをしているような相手だけだろう。


 パァン!!


 3度目の撃ち合い。


 エレノアの拳から解き放たれた衝撃波は、残念ながらカメオキジが受け止めるには至らなかった。


 次の瞬間には頭が消し飛び、カメオキジの人生は終わりを迎える。


 南無三。エレノアのスイッチを入れてしまったのがお前の敗因だ。


「あら?もう終わってしまったの?」

「残念だけど、終わりだね。エレノアと打ち合えるほどは強くなかったみたい」

「........残念」


 ショボンと可愛らしい顔をするエレノア。


 エレノアは正面からの打ち合いがかなり好きなタイプだ。


 俺の魔術も真正面から叩き潰してはぶん殴ってくるのである。


 そんなエレノアからすれば、随分と消化不良を起こす戦いだったな。


 そんな事を思っていると、コソッとアスモデウスが話しかけてくる。


「ねぇ、最近エレノアちゃん結構楽しそうじゃない?感情が豊かになったと言うか」

「いや、俺と二人っきりの時は割とこんな感じぞ。表向きにはアトラリオン級冒険者としての顔があるからな。エレノアは結構素直に顔に出るタイプだよ」

「いや、多分それが分かるのジークだけだからね?結婚したのが嬉しかったのかな?」


 いいえ、これは単純にエレノアのスイッチが入っただけです。俺には分かる。


 衝撃波の撃ち合いなんて俺ですらやらないからな。そんな新感覚な戦い方を見せてくれたカメオキジがただ単に気に入っただけである。


「ねぇジーク、今度衝撃波の打ち合い勝負してみない?」

「いいよ。魔術ありなら」

「本当?!やったー!!」


 昔から、こういう時に見せる笑顔は変わらない。


 見た目相応の少女らしい笑顔を見せたエレノアは、とても嬉しそうであった。

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