戦争の準備
ウルとの手合せは、思っていた以上の収穫を得ることとなった。
基本的に俺はエレノアとの手合わせをする事で、自身の実力を把握するのだが、エレノアとはもうかれこれ7~8年以上の付き合いであり、お互いにお互いの事を知り尽くしている。
出力が上がった、この魔術は実践的という事を把握するには適しているのだが、どうしても自分がどれほど強くなったのかを正確には把握出来ない。
しかし、ウルは違う。
普段から手合わせするような仲でも無いし、ウルはもう先へ進むことをやめて新しい自分の道を進むことを選んだ悪魔だ。
その実力が急速に伸びることも無ければ、俺やエレノアのようにレベル上げをすることも無い。
つまり、実力が上がったのかどうかをハッキリと確認しやすいのである。
「はぁ........疲れた。若者の元気に付き合わされる身にもなって欲しいものだ。私も随分と歳をとったのだぞ?」
「俺達の攻撃を捌いているだけでもまだまだ現役だよ。流石に立場は変わったみたいだけどね」
「そうね。殺すまでとは行かなくとも、1発は当ててやる気できたのに。残念だわ」
「その一発で私は死ぬのだが?全く、ノアもとんでもない弟子を持ったものだ」
手合わせを終えた俺達は、疲れきって地面に座るウルに水を渡す。
結局、ウルに一撃を食らわせる事は難しかった。
逃げに徹されると、やはり捕まえるのは難しい。
俺の場合は天魔くんちゃんと言う、さらなる戦力増強を押し付けることが出来るが、エレノアのような数を使わない戦法を使っている場合はさらに厳しいだろうな。
俺もエレノアも、反撃はさせなかったが。
「大公級悪魔を殺すにはもう一つ何か必要なのかな?」
「いや、私やノアは“生き残る戦い方”を知っているだけに過ぎない。自分が絶対的な強者であると自負して思い上がっている、多くの大公級悪魔共を殺すなら十分な強さだと言えるだろう。むしろ、過剰戦力かもしれん」
生き残る戦い方。
それは、この世界で生きていく上で最も必要な戦い方だ。
俺やエレノアもその戦い方を知っているし、師匠の元で初めに学んだ戦い方でもある。
とにかく逃げろ。攻撃を避け続け、捌き続けながら軽く反撃をして距離をとる。
簡単なように見えるが、この生き残る戦い方をする時は基本的に自分よりも強い奴を相手にする時だ。
言うは易く行うは難し。
自分よりも圧倒的に強い相手の攻撃を捌きつつ、逃げるというのは思っている以上に困難なのである。
俺やエレノアは、師匠とか言う理不尽を相手によく練習させられたよね。
師匠の元を離れてからその戦い方を使うことは無かったが、難易度の高さは知っているしどのように相手が対処するかも知っている。
そして、その捕まえ方も。
しかし、長年の経験による“逃げ”を捕まえるには至らないらしい。
ウルや師匠を捕まるには、まだまだ修行が必要になりそうだ。
で、大公級悪魔はどうなのかという話になるのだが、悪魔とは生まれた時点でその権能の強さが決まる。
強いやつは強いし、弱いやつは弱いまま。
常に勝ち続けるか、負け続けるかの二択しかないのだ。
ウルは特殊すぎるので一旦おいておくとして、その他の大公級悪魔が逃げる戦いに慣れているとは思いずらい。
事実、逃げる戦いを選択した悪魔は一人もいないのである。
「なら、そろそろやるか?大公級悪魔狩り」
「この魔界に........いえ、この世界に生きる悪魔たちの中でたった四体にしか与えられない称号を奪い取りに行く時が来たかしらね?」
そろそろ魔界を離れる時が来たのかもしれない。
効率のいい経験値稼ぎの場所を見つけたし、悪魔たちの経験値もかなり刈り取っている。
特に西側と南側は、大公級悪魔と公爵級悪魔の街以外残ってないような状況だ。
天魔くんちゃんが大暴れしたからね。
最近、魔術をブッパするのが楽しいのか、火力の高い魔術を搭載して欲しい!!という子が増えて困っている。
天魔くんちゃん?君達までエレノアにならなくていいんだよ?
エレノアに可愛がられていただけに、エレノアの影響も受けている天魔くんちゃん。
その内本当に火力おバカな天魔くんちゃんが、一人二人出てきそう。
それでも、俺が“ダメ”と言えばちゃんと言うことを聞いてくれるのでいいけどね。
「ふはは。魔界の王に挑む時が来たのか。公爵級悪魔はともかく、大公級悪魔を殺せばあの生意気な悪魔王も必ず動く。そうなれば、戦争だ。奴は自身の鎖で縛り付けた悪魔達を呼び寄せ、動き始めることとなるだろう」
「向こうから来てくれるなんて助かるね。探す手間が省けるよ」
「尚更、大公級悪魔や公爵級悪魔を殺すことが重要になるわね。ジークの天魔くんちゃんがあるとはいえど、数は圧倒的にあちら側が有利になるわよ」
大公級悪魔の街に住む悪魔達だけで、その数は万を優に超えるらしい。
俺の出せる天魔くんちゃんは、どれだけ頑張っても200程度が限界だと考えると数では圧倒的に劣る事となるだろう。
個としての強さはもちろん天魔くんちゃんの方が圧倒的に強いが、大公級悪魔の街には実質的に公爵級悪魔の強さを持っているぐらいの悪魔も存在すると聞いている。
少なくとも、俺とエレノアで二つの街を消し飛ばす事が必要になるな。
「もし、人手が足りなければ私も────」
「前にも言ったよ。経験値は全部俺達のもの」
「安心しなさい。こういう時のジークは、必ず相手を経験値に変えてくれるわ。ウルは、師匠とともに作り上げた思い出の村を守ってなさい。今後はそこが、悪魔達にとっての王都となるのだからね」
「は、はは。楽しみにしているよ。デモットと共にな」
「俺も参加できませんからね。絶対に死にますし」
経験値は譲らないぞと言う俺に乾いた笑みを浮かべるウル。
俺の事をよく知っているエレノアとデモットは、呆れた顔をしながらも“それでこそジーク”と言いたげに深く頷いていた。
大公級悪魔だよ?そりゃ経験値も、ものごっつどえらい量が貰えるに違いないでしょうよ。
そんな貴重な経験値の源を、他人にくれてやるなんてありえない。
それを唯一許すのは、世界で1人だけの相棒と可愛い可愛い弟子だけだ。
例え師匠が相手でもこれは譲れないね。
まぁ、師匠も俺のことはよく理解しているだろうから、“好きにしろ”と言って呆れるだろうが。
「出来れば、四つ全て吹っ飛ばしたいな。今後の戦いで有利になる」
「そうね。その前に公爵級悪魔を全部潰すべきかしら?」
「いや、公爵級悪魔を潰し過ぎれば、悪魔王もこちらの狙いに気がつく。下手をすれば大公級悪魔を潰す前に先手を取られる。大公級悪魔を二体を潰すのと同時に、幾つかの公爵級悪魔を潰すのが確実かな?天魔くんちゃん達だけで大公級を潰すのは厳しいだろうし」
悪魔王が、どれだけの速度で悪魔達を招集できるのか分からないのが困るな。もし、招集が遅いのであれば、転移魔術を使って一つ一つ潰せるんだけど。
ウルに聞いてみたが、ウルもそれは知らないらしい。
戦争が始まった頃には既に招集を終えていたらしいから、確認が出来なかったそうだ。
「先に転移用のポインターを打ち込みに行くか。バレないように」
「そうね。同時に潰した後、確認に行く感じで行きましょうか。もしその場にいれば潰して、居なければ悪魔王との決戦に備えましょうか」
こうして、大公級悪魔達を先に潰す方針で固まった俺達は早速行動に移すのであった。
........もうちょっとレベリングしようかな。いや、別にダンジョンでのレベリングが楽しすぎた訳じゃないよ?ほら、念の為にもっとレベルを上げておいた方が、安全マージンを取れるからであって。
タルボサウルスをぶっ飛ばしたいなーとか思ってないから。
後書き。
10月15日の今日、遂に『異世界に放置ゲー理論を持ち込んだら世界最強になれる説』の一巻が発売されます‼︎
やったぜ。
訳、四万字以上の加筆をし、ジークマッマやパッパの親バカぶりが読めたり、エレノアとのやり取りを更に増やして“相棒”としての関係性を強くしたりと、色々と書き加えております。
更に更に、第一章でみんなが見たいであろう、ジークとエレノアの寝ている姿(ジークは抱き枕)の挿絵もあります‼︎
電子、紙、どちらもありますので、ぜひ買って読んでみて下さい‼︎
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