人智を超えた理不尽
デモットはその日、師であるジークに誘われて草食恐竜ダンジョンへと戻ってきていた。
遂に己の壁を1つ超えたデモット。
絶望級魔物を倒せる程にまで成長した悪魔の期待の星が、尊敬してやまない師匠達の戦いを見みたいと思うのは自然の事である。
デモットは、パッと見ただけでジークたちの成長が分かるほど実力がある訳では無い。しかし、戦いの中でその成長を見ることが出来るだろう。
そして、自分の目指すべき姿が見えてくるはずだ。
デモットにとって、ジークとエレノアは道標であり、自分の在り方を戦い方を導いてくれる偉大な先人なのである。
「準備はいいか?先にどちらがやる?」
「俺がやるよ。お互いに手合わせだから、殺し合いにならない程度にね」
「もちろんだとも........と言いたいところだが、今の私ではジークに殺されるかもしれんな」
「まさか。俺の持てる全てを使えば分からないけど、手合わせ程度で死ぬほどウルは弱くないでしょ」
悪魔たちにとって、恐怖の象徴とも言える裏切り者に対して軽口を叩くジーク。
デモットには到底できない事だ。ウルはデモットにも普段から優しく接しているが、デモットから見ればその大きな波が自分を飲み込む感覚に襲われるのだから。
本能的に自分によりも圧倒的な強者に怯えているのである。
昔はそんなこと無かったのに、と思うデモットであったが、それは正確に相手の実力差を見抜けるだけの実力が着いたことに他ならない。
デモットはジークやエレノアと言った強者を常に見てきたことで、“強さ”に関する観察眼が養われていた。
「楽しみですね」
「えぇそうね。それと、デモット、私のそばを離れてはダメよ?多分巻き込まれたら死ぬから」
「分かってますよ。お二人の手合わせを見ていた時も、何度か巻き込まれかけて命の危機を感じていますからね」
デモットはそう言いつつ、エレノアの後ろにスっと移動する。
そしてその瞬間が始まるのを待った。
今から始まる理不尽が理不尽を押しつぶす、自分の理解の及ばない戦いを。
「んじゃ、このコインが落ちたら試合開始ね」
「分かった」
ピン!!とジークの弾いたコインが空を舞う。
何回転しているのかも分からないそのコイン。緊張が高まり、やがてジークとウルの間にあった空間が歪んでいく。
実際に歪んでいる訳では無い。しかし、お互いの闘気が、殺気が、世界を強引に捻じ曲げる。
そして、地面にコインが落ちた瞬間、凄まじい轟音と共にウルのいた場所に一撃が落ちた。
「心理顕現。天魔白黒観音像」
「........っ!!顕現速度を上げたのか!!滅茶苦茶だな!!」
デモットはその瞬間をはっきりとみていたはずなのに、何が起きたのか分からなかった。
刹那の間にジークの世界は顕現し、そして理不尽を持って相手を押しつぶす。
以前ならば、お互いに必要なら詠唱を唱えてから世界を作り出していたはず。ジークはその工程を省いて自身の世界を作り出す術を得たのだ。
(凄い........!!)
「心理顕現。我は世界の流れを悟ったもの也」
「チッ、やっぱり対応されながら唱えられちゃうか。先手を確実に取れるのは強いけど、その先がまだまだ足りないな」
「流雨砕石」
雨が降り始め、やがてその雨は世界の循環を指し示す。
全ての事象には流れが存在し、世界はその流れによって構築される。
ジークやエレノアは普段から心理顕現をよく使うが、ウルの心理顕現を久々に見たデモットはその綺麗な世界に感動した。
「綺麗な世界ですね」
「そうね。ウルの至った世界の真理。ジークと似て非なる世界。今からは、世界と世界の潰し合いよ」
エレノアがそう言ったとおり、ジークとウルによる理不尽の押しつけ合いが始まった。
全てを無に返す万物の根源が雨を消し、万物の根源を流れによって受け流し、世界の循環に巻き込まんとする。
雨は徐々に徐々に激し降り始めるものの、ジークにその雨粒が届くとこはない。
「右」
「........(了)」
「っ!!厄介になったな!!」
「そうだろう?色々と工夫するようになったからね」
右側から世界の崩壊が押し寄せ、それに対応するウル。
そちらに神経を注ぎ混んだタイミングを見計らい、ジークは魔術を連発する。
たとえ流れの世界に入ったとしても、その流れを操るのはウル本人。攻撃の雨を振らせ続ければやがてその流れにボロが出る。
天から落ちる光、黒く染まる海、大気の消失に、荒れ狂う爆風。
デモットがまだ至っていない第九級魔術と第十級魔術のオンパレード。この魔術達だけで、一体幾つの国が、大地が滅ぶのだろうか。
神話の世界の戦いと言っても過言では無いその光景は、最早人知を超えている。
(凄いのはわかるけど、何も分からないや........これがジークさんの魔術。しかも、心理顕現を操りながら魔術を使っていると考えると、俺よりも高度で複雑なことをやっている。真似できるわけが無い)
そして、そもそも出力が違っていた。
この二か月間鍛え上げたジークの心理顕現は、長年その力を使い続けてきたものの鍛えはしなかった世界を徐々に塗り替えていくのだ。
「防戦一方ですね。ウルさんは」
「ジークの方が圧倒的に出力が高いわね。ただ、ウルは長年の経験によってその差を埋めているように見えるわ。やはり、長年生きている人たちは厄介ね。師匠もこんな感じで勝てないわ」
観音ちゃんによる世界の侵食と、それを妨げる流動。
攻撃と守り。
かつては立場が逆であったその勝負は、ジークの有利に進んでいく。
「天魔くんちゃんを使えばもっと手数が増やせるんだけど、それだと手合わせにならないからなぁ........ウルを落としきれない」
「ふざけたことを抜かす。私は割と本気で対処していると言うのに、随分と余力がありそうじゃないか........っと、危ない」
遂にウルが、受けから逃げに戦略を変える。
この時点でジークは、ウルに正面から戦って勝ったのだ。
以前は何もさせて貰えずに、自身の操る魔術を封じられぼろ負けし。
その次の戦いでも、かなり手加減をされた戦いを演出された。
が、今は違う。今は、ジークが手加減をする側であり、ウルが挑戦者側に回ってしまったのである。
「勝負ありね。受けきれなくなった時点でウルの負けよ。殺し合いなら話は別だけど、手合わせなら逃げに回った時点で負けよね」
「その理論が通用するのは、ジークさんとエレノアさんの中だけですよ........避けるのも立派な戦術じゃないですか」
「避けと逃げはまた違うわよ。避けるのは相手の隙を突く為の行為、逃げは自分を守るための行為。その後に狙いがあるのかどうか。この違いは大きいわ」
エレノアにそう言われ、“確かに”と納得するデモット。今まで攻撃を避けることに関して特に何か考えたことは無かったが、そのように捕えられるとは思ってもいなかった。
そして、その言葉を聞いた上でウルとジークの戦いを見る。
(確かにウルさんは、避けることに手一杯で反撃を狙っている感じがない........かも?ダメだ。俺の目じゃそこまで詳しく判断できないや)
もちろん、ウルも隙は伺ってはいるが、反撃する手段すらもジークは的確に潰している。
何よりジークの周囲にある無の世界を突破するには、相当の火力が必要。
あの激しい動きの中でその攻撃を打つのは厳しいだろう。
「ジークさん、滅茶苦茶強くなったんですね。いや、元から化け物じみた強さでしたけど」
「ふふっ、そうね。特に観音ちゃんの扱いが上手くなったぶん、魔術に考えることを回せるのが大きいかしらね。ジークの戦い方もかなり頭を使うから大変そうよ」
「エレノアさんは?」
「んなもん、まっすぐ突っ込んでぶん殴るわ」
それが曲がり通るのだから、エレノアも相当理不尽である。
デモットは、この二人の師に追いつけるのは何時になるのだろうかと思いながら、人知を超えた理不尽な戦いを眺めるのであった。
後書き。
本が出るまであと一日.....‼︎緊張してきた。
なんか、本屋さんによっては既に買えるっぽい?
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